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1. 「けがなし」の10対0事故で請求できる示談金の内訳と相場
けががなく、車が壊れたり傷がついたりという交通事故は、物だけが損壊した事故、いわゆる「物損事故」扱いとなります。物損事故の場合、当事者同士の交渉によって、示談金で解決されるケースが多いです。加害者側が任意保険に加入していれば、被害者は加害者側の保険会社と交渉を進めます。
なお、車の所有者と運転者が異なる場合、被害者側の当事者は車の所有者、加害者側の当事者は運転者となります。
1-1. 修理費用
修理費用は、事故で破損した車の修理にかかる費用です。修理の際は、相手の保険会社が指定する工場ではなく、自分で信頼できる修理工場に依頼して見積もりをとるのがよいでしょう。
また、修理費用が車両の時価額(現在の価値を評価した額)を上回る場合は「経済的全損」とみなされ、時価額が損害賠償額の上限となります。
1-2. 被害車両の買い替え費用
経済的全損とみなされる場合、および車が大破し修理が不可能な場合は、被害者は車両を買い替えざるを得ません。事故前の車両の時価額のほか、この買い替えに必要となった諸費用(消費税、環境性能割、移転登録費用、車庫証明費用、代行手数料など)を加害者に請求できます。
たとえば、事故前の車両の時価額が100万円で、買い替えの諸費用が15万円の場合、計115万円を請求できます。
1-3. 代車費用
代車費用は、車の修理中に代車を借りるために要した費用です。車を仕事で使用するなどの必要性がある場合に限って認められ、修理期間や買い替えに必要な期間などが考慮されます。また、代車を借りる費用として適切な額であることも求められます。基本的には、被害車両と同程度の車種である必要があります。
1-4. 事故歴による評価損
事故歴による評価損は、事故歴がついたことで、車両の市場価値が下落したことによる損害です。すべての車に認められるわけではなく、以下のような車に限り認められます。
新車や初年度登録から間もない車
高級車や人気の車種
骨格部分に損傷を負った車
必ず認められる費用ではないことから、交渉において争いになりやすい費用です。
1-5. そのほかの物的損害
車の引き揚げ費用、事故車を移動させた際のレッカー代、保管費用、廃車手続きの費用などがあります。また、交通事故との因果関係が認められる積荷や携行品の修理費用などが含まれる場合もあります。これらの費用を支出した場合は、必ず領収書を保管しておいてください。
2. 物損事故では慰謝料は原則、請求できない
物損事故では、原則として慰謝料は請求できません。
慰謝料とは、不法行為による損害を受けたことに対する精神的苦痛を補償する損害賠償金です。しかし、物の損壊による精神的苦痛は、財産的損害の賠償によって回復すると一般的には考えられています。
ただし、例外もあります。たとえば、家族同然のペットが死亡した場合に、精神的苦痛を受けたとして慰謝料が認められた判例があります(名古屋高裁平成20年9月30日判決)。もっともこれは、きわめて例外的な事例と言えます。そのため、もし同様の慰謝料を請求することになれば、加害者側と争いになる可能性が高いです。
3. 【事例で解説】10対0の物損事故の示談金額
ここでは、10対0の物損事故の示談金額について、軽微な損傷と大きな損傷の事例を見ながら解説します。
3-1. 軽微な損傷の例:バンパーの損傷など
バンパーの損傷のみなど、物的損害が軽微なものにとどまる場合の示談金の例は次のとおりです。
【内訳】
・バンパーの修理費用もしくは交換費用
・代車費用(必要性が認められた場合)
【総額】
バンパーの費用や代車費用によりますが、数万円から30万円程度となるケースが多いです。
3-2. 大きな損傷の例:骨格部分の損傷など
車の骨格部分が損傷しているなど、事故による物的損害が大きい場合の示談金の例は次のとおりです。
【内訳】
・修理費用もしくは買替差額費用
・代車費用(必要性が認められた場合)
・事故歴による評価損
【総額】
車種によって大きく異なりますが、数十万円〜数百万円になることもあり得ます。
なお、損傷の度合いが大きく、修理費用が車の時価額を上回る場合は、車両の買い替え費用が支払われるケースが多いです。事故歴による評価損については、示談交渉で争いとなる可能性が高く、認められるかどうかは事案により異なります。
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4. 10対0の物損事故に関する示談交渉の進め方|失敗しないためのポイントは?
自分に過失がない10対0の物損事故では、「大した事故ではないから」と簡単に示談交渉をしてしまいがちですが、思わぬ落とし穴もあります。示談交渉で失敗しないためのポイントは主に4つあります。
事故現場で示談しない
保険会社の提示額をうのみにしない
感情的にならず、冷静に交渉する
示談書に焦ってサインしない
4-1. 事故現場で示談しない
事故直後ではけががないと思っても、見えないところを負傷しているかもしれません。特に、むちうちの症状はすぐには出ず、数日経ってから出るケースもあります。また、損害額も確定していないため、事故直後に適切な金額で示談することは不可能です。
事故現場で示談を進めることは避け、必ず損害額の資料が出そろってから示談交渉を始めてください。
4-2. 保険会社の提示額をうのみにしない
相手側の保険会社が提示する金額は、あくまでもその保険会社独自の基準に基づいたものです。加害者側の保険会社は原則として相手に優位な立場をとるため、事故で受けた物的損害に対して適正な金額ではない可能性があります。相手側の保険会社からの提示額をうのみにせず、自分で修理費の見積もりなどをとることが大切です。
4-3. 感情的にならず、冷静に交渉する
交通事故の被害者はどうしても「自分はまったく悪くないのに損害を被った」という感情を強くもちます。その気持ちはもっともなのですが、示談交渉では不利に働く可能性があります。交渉を有利に進めるためには、見積もりや写真、修理費用の領収書などの客観的な証拠を提示し、感情的にならず論理的に主張を伝えることが大切です。
4-4. 示談書に焦ってサインしない
事故の当事者双方が一度サインした示談書の内容をあとから変更することはまずできません。焦って安易にサインせず、示談交渉のなかで内容をよく検討しましょう。
5. 物損事故の損害賠償請求を弁護士に依頼するメリット
けがを伴わない、過失割合が10対0の事故であっても、物的損害に対する賠償請求は必要です。しかし、被害者本人が損害賠償請求を行うことは簡単ではありません。物損事故の損害賠償請求を弁護士に依頼した場合に得られるメリットとして、次の4つが挙げられます。
わずらわしい交渉から解放される
示談金の増額が期待できる
請求項目の見落としを防げる
弁護士費用特約があれば、弁護士費用がかからない
5-1. わずらわしい交渉から解放される
被害者に過失がない10対0の物損事故では、被害者側の保険会社は交渉に関与せず、被害者本人が交渉をする必要があります。これは、被害者側の保険会社に保険金を支払う義務がない場合、保険会社には示談交渉の代理権が発生しないためです。つまり、被害者本人が保険会社(加害者側が任意保険に入っていなければ加害者本人)と示談交渉をしなければなりません。
しかし、弁護士に依頼すれば、交渉を弁護士に一任できるため、自分で交渉するわずらわしさや不安から解放されます。
5-2. 示談金の増額が期待できる
物損事故でも、代車費用や評価損などは必ず認められるわけではなく、示談交渉で争いになるケースがあります。
被害者本人では、特に保険会社相手の場合、保険会社の言いなりになりがちです。弁護士に依頼すれば、保険会社を説得して示談金の増額ができる可能性があります。
また、交通事故の損害賠償額は「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判所(弁護士)基準」の3つのいずれかによって算出されます。
一般的に自賠責基準による損害賠償額が最も低く、裁判所基準(弁護士基準)が最も高額です。相手側の保険会社が最初に提示する示談金額は任意保険基準に基づいていることが多く、裁判所基準(弁護士基準)よりも低額であるケースがほとんどです。弁護士に依頼した場合、裁判所基準(弁護士基準)で交渉してくれるため、示談金の増額が期待できます。
5-3. 請求項目の見落としを防げる
物損事故では、修理費用や買替費用などわかりやすい損害のほか、代車費用やレッカー費用など、請求できる費用は多岐にわたります。弁護士に依頼すれば、請求項目を精査してもらえるため、請求できる費用の見落としを防げます。
5-4. 弁護士費用特約があれば、弁護士費用がかからない
自分が加入している保険に弁護士費用特約が付帯していれば、弁護士費用を保険でまかなえます。なお、弁護士費用特約には上限があり、保険でまかなえるのは300万円までですが、物損事故であれば上限を超えるケースはほとんどありません。
6. 後日痛みが出たらすぐに病院を受診し、人身事故へ切り替えを
むち打ちの場合、事故直後は症状が出ないケースも多いです。事故後、数日経ってから首や腰に痛みや張りが出たら、すぐに整形外科を受診してください。
そして、むち打ちと診断されたら、すぐに交通事故から人身事故へ切り替えてください。人身事故となると、慰謝料や通院費用など、請求できる賠償金が増えます。
なお、人身事故に切り替えるためには、病院で作成してもらった診断書を事故現場を管轄する警察署に提出し、申請する必要があります。
7. 「けがなし10対0」の物損事故の示談金相場に関してよくある質問
Q. 10対0の事故では、保険会社が示談交渉を代行してくれないのはなぜ?
10対0の事故では、被害者の保険会社は保険金の支払い義務がありません。保険金の支払い義務がないにもかかわらず、被保険者(保険の対象となる人)の示談交渉を代行することは、弁護士でない人が法律事務を扱うことを禁止している、弁護士法72条に違反する行為として禁じられています。そのため、保険会社は被害者に代わって示談交渉を行うことができません。
Q. 10対0の物損事故でも、慰謝料は請求できる?
原則として請求できません。愛犬が死亡したなど、精神的損害が特に大きいと裁判所によって判断された場合に慰謝料が認められたケースはありますが、かなり例外的です。
Q. 物損事故の示談金相場はいくらくらい?
壊れた車の車種や損傷の程度などによるので、示談金の相場は一概には言えません。示談金の額が数万のケースもあれば、何百万となるケースもあり得ます。
Q. 保険会社から提示された示談金額が妥当かどうかわからない場合、どうすればいい?
示談金の額が妥当であるかどうかについては法的な検討を要するため、必ず専門家である弁護士に相談してください。
Q. 弁護士に依頼した場合、費用倒れのおそれはある?
結論から言うと、得られる損害賠償額が弁護士費用を下回る「費用倒れ」になる可能性はあります。特に物損事故の場合は請求額が比較的低額であるため、費用対効果についての考慮が必要です。
獲得できる損害賠償が少ない場合は注意が必要です。少額の物損事故は扱わない法律事務所もあります。
また、加害者が任意保険に加入していない場合、保険金が払われないため、損害金を支払うのは加害者本人が自力で行うことになります。そのため、加害者が自分の意思で支払わない場合、民事訴訟などの法的措置をとらない限り、損害金を確保することができません。
さらに、法的措置で加害者が裁判所から支払いを命じられても、加害者に財産がなかったり差し押さえる財産が不明だったりすると差し押さえもできず、結局損害賠償を受け取れなくなります。この場合、弁護士費用をかけただけ損をする結果になってしまいます。
ただし、弁護士費用特約を利用すれば、自己負担ゼロで弁護士に依頼できます。自分が加入している保険の内容を確認し、活用してください。
8. まとめ 自分に過失のない物損事故であっても示談交渉は弁護士に相談を
過失割合が10対0の物損事故の場合、被害者自身も「争う可能性もなく大したことはないだろう」と軽く考えがちです。しかし、実は請求できる費用が多岐にわたるケースがあるほか、交渉によっては示談金を増額できるケースもあります。
また、被害者に過失のない交通事故の場合、保険会社が示談交渉を代行できません。加害者が任意保険に入っていれば、交通事故の交渉に慣れている保険会社と被害者本人が直接交渉することになり、不利な結果となる可能性もあります。いったん合意した示談金額をあとから増額することは原則できません。
けがを伴わず、過失割合も10対0の事故だからといって安易に示談に応じることは避けましょう。損害賠償請求に不安がある場合は、交通事故に詳しい弁護士に対応を一任することで、示談交渉を有利に進め、適切な損害賠償額を得られる可能性が高まります。
交通事故に遭ったときは、できるだけ早く専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2025年10月1日時点の情報に基づいています)
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