目 次
1. 交通事故を起こしても、被害者に謝罪しないほうがいい?謝罪すると不利になる?
交通事故を起こしてしまった人は、被害者に謝罪した方がいいのか、それともしない方がいいのか悩んでいるかもしれません。
さまざまな考え方があるところですが、自分に責任があることが明らかであるなら、被害者に謝罪した方がよいでしょう。相手に大きな損害を与えた立場としては、謝罪することが適切な振る舞いだと考えられるからです。
ただし、自分が事故の責任を全面的に負うような発言をすると、後に過失割合が争われた際に不利益となるおそれがあります。
交通事故の賠償金額は、当事者間の過失割合によって調整されます(=過失相殺)。被害者は加害者が全面的に悪いと主張することが多いですが、実際には被害者側の過失が認められて賠償金が減額されるケースもあります。
しかし、謝罪の段階で自分の非を全面的に認めると、「被害者側にも過失がある」という主張がしにくくなってしまいます。加害者としては、被害者に謝罪するとしても言葉を選びながらポイントを絞ることが大切です。
例えば、以下の○は一般的で差し支えのない謝罪表現ですが、×は自分の非や賠償責任について認めてしまっている言い方で、避けるべきと考えられます。
○「事故によってご迷惑をおかけしたことにつき、心よりお詫び申し上げます」
○「ご快復を心よりお祈り申し上げます。この度は誠に申し訳ございませんでした。」
×「今回の事故は私が全面的に悪く、全責任を負う所存です」
×「発生した損害は、私(の保険会社)がすべて賠償します」
2. 交通事故の被害者に対する適切な謝罪の方法は?
交通事故の加害者が被害者に謝罪する際に、注意すべきポイントを解説します。
2-1. 事前連絡なしで訪問するのは避けるべき|まずは郵便などで連絡を
被害者の住所を知っていても、事前に連絡せず訪問することは避けましょう。被害者やその家族が驚いてしまうだけでなく、被害感情が強ければ受け入れてもらえない可能性もあります。
まずは郵便(手紙)などで連絡するのが無難です。手紙の中では、事故を起こしたことについてのお詫びを述べたうえで、可能であれば直接会って謝罪したい旨を伝えましょう。実際に会ってくれるかどうかは分かりませんが、ある程度誠意は伝わるかもしれません。
2-2. 被害者の住所や連絡先が分からない場合の対処法
被害者の住所や連絡先が分からない場合は、自動車安全運転センターに交通事故証明書の発行を申請しましょう。交通事故証明書には被害者の氏名や住所などが記載されていて、その情報を基に被害者と連絡をとることができます。
交通事故証明書の発行は、自動車安全運転センターの事務所窓口やウェブサイト、またはゆうちょ銀行や郵便局で申請できます。
2-3. 訪問して謝罪する場合の注意点|服装は?菓子折りなどを持参すべき?
被害者の自宅を訪問して謝罪をする場合は、清潔感のあるきちんとした服装をしていきましょう。男性であれば黒無地のスーツ、女性であれば目立たない色のワンピースなども考えられます。派手な装飾品は外した方がよいでしょう。
また、被害者や家族に時間を割いてもらうことへの誠意や、事故を起こしたことに対するお詫びの気持ちを示すため、菓子折りなどの品を持参した方がよいと思われます。あまりにも高価な品ではなく、5000円~1万円程度が目安とされることが多いです。
2-4. 慰謝料などの賠償金についての会話はしない方がいい
謝罪の場では、慰謝料や賠償金についての会話は避けましょう。不用意な発言をすると、後に過失割合が争われた際に不利益となり得るからです。
被害者から「損害を全額賠償してほしい」「保険会社とはどのように話しているのか」などと聞かれるかもしれません。その場合は「事故は保険会社に報告していて、適切に対応してもらっていると思う」などと答え、具体的な回答は避けてください。
2-5. 弁護士を通して謝罪する方法もある
被害感情が強い場合は、被害者は加害者本人による謝罪をなかなか受け入れられません。謝罪を申し入れても「来ないでください」と言われることもあるでしょう。
そのような場合には、弁護士を通じて謝罪の意思を伝える方法もあります。特に加害者が任意保険に加入していない場合は、被害者から損害賠償を請求された際の対応を検討しなければなりません。
3. 交通事故の被害者に対して謝罪をするメリット
交通事故の加害者が被害者に謝罪をすることの主なメリットとしては、次の各点が挙げられます。
3-1. 人間として誠実な態度を示すことができる
「相手に迷惑をかけたら謝罪をする」というのは、人間として当然のことです。被害者に対して言葉を尽くして謝罪することにより、人として誠実な態度を示すことができます。損得以前の問題として、自分に事故の責任があるのなら謝罪すべきでしょう。
3-2. 被害感情が和らぎ、示談交渉がまとまりやすくなる
加害者の謝罪により、被害者の感情が和らぎ、示談交渉が円滑に進むケースもあります。被害者のかたくなな態度が軟化すれば、損害賠償に関する示談交渉も幾分まとまりやすくなるでしょう。
加害者が任意保険に加入していれば、賠償金は保険会社が支払うので、加害者本人は示談交渉のことをあまり気にする必要がありません。
他方で、加害者が任意保険に加入していない場合は、自賠責保険では補償されない部分について、加害者自身が賠償金を支払う必要があります。示談交渉も加害者自身が行うことになるので、それを見据えて謝罪の要否や方法などを検討しましょう。
3-3. 刑事責任が軽くなることがある
事故の原因になった運転行為が悪質である場合や、死亡・重度後遺障害などの重大な結果が生じた場合、加害者は刑事責任を問われる可能性があります。最悪の場合、拘禁刑の実刑判決を受けて刑務所に収監される可能性もないとは言えません。
被害者へ真摯に謝罪した事実は、刑事手続きで有利な情状として考慮される場合があります。その結果、不起訴や量刑の軽減につながる可能性もあります。特に重大事故では、誠意ある謝罪を尽くす姿勢が重要です。
4. 交通事故の被害者に対して謝罪をするデメリット
交通事故の加害者が被害者に対して謝罪をすることのデメリットは、次の各点が挙げられます。
4-1. 厳しい言葉で責められることがある
被害感情が強い場合は、被害者やその家族から強い言葉で責められるかもしれません。被害者側から浴びせられた言葉により、精神的なショックを受けることもあるでしょう。
しかし、被害者に対して謝罪する以上は、ある程度厳しい言葉を受けることも覚悟しなければなりません。真摯に被害者と向き合って謝罪を尽くすことが、人として誠実な態度と言えます。
4-2. 謝罪に乗じて、不当な過失割合を主張されることがある
全面的な責任を認める発言をすると、それを根拠に不利な過失割合を主張されるおそれがあります。たとえば、本来「80:20」の過失割合が適切な事案でも、相手から「全部あなたが悪いと言った」などと言われて「100:0」を主張されるケースなどが挙げられます。
加害者が任意保険に加入していれば、過失割合について争いが生じても、保険会社に対応を任せれば問題ありません。他方で、加害者が任意保険に加入していない場合は、過失割合が賠償金の自己負担額に直結します。被害者に謝罪をするとしても、安易に全面的な責任を認めることがないように言葉を選びましょう。
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」
5. 保険会社から「被害者に謝罪しないでください」と言われたらどうすべき?
加害者が加入している任意保険の保険会社は、「被害者に謝罪しないでください」と言ってくることがあります。加害者の発言が過失割合などに影響する可能性があり、それを避けたいという考えによるものです。
たしかに、加害者本人が直接被害者に謝罪をする際、不用意な発言をしてほしくないと考える保険会社の立場も分かります。しかし、事故によって迷惑をかけている以上は、被害者に対して謝罪するのが人としてあるべき姿です。
加害者としては、謝罪したい気持ちと保険会社から言われたことの間で板挟みになってしまうかもしれません。どうしたらいいか分からないときは、弁護士に相談してください。謝罪すべきか否か、どのように謝罪するかなどを状況に応じてアドバイスしてもらえます。
6. 交通事故を起こした人が弁護士に相談するメリット
交通事故を起こしてしまい、どのように対応すべきか分からないときは、弁護士に相談しましょう。
弁護士費用がかかりますが、自分や家族の自動車保険などに付帯している「弁護士費用特約」を利用すれば、弁護士費用を300万円程度まで保険でカバーすることができます。
交通事故の加害者が弁護士に相談することには、主に以下のメリットがあります。
6-1. 被害者に謝罪すべきかどうかについてアドバイスを受けられる
被害者に対して謝罪すべきか否かや謝罪の方法などは、加害者にとって頭を悩ませることが多い部分です。誠実に謝罪しつつも言葉に気を遣わなければならず、大きなストレスを感じるかもしれません。
弁護士に相談すれば、被害者への謝罪についてアドバイスを受けられます。保険会社に「謝罪するな」と言われて困っているときも、状況に応じてどのように対応すべきかを教えてもらえます。
被害者から厳しい言葉を浴びせられても、弁護士が自分の味方でいてくれるので、精神的なショックも幾分和らぐでしょう。
6-2. 任意保険未加入の場合は、損害賠償請求への対応を任せられる
任意保険未加入で事故を起こすと、被害者から直接損害賠償請求を受けます。自賠責保険の限度額を超える部分は自己負担です。
請求額が妥当か、事故との因果関係があるか、過失割合は適切かを精査しなければ、過大な賠償責任を負うおそれがあります。
さらに、被害感情に配慮しながら交渉を進め、必要に応じて訴訟も検討する必要があります。
弁護士に依頼すれば、示談交渉から訴訟対応まで一任できます。加害者が不当に重い賠償責任を負わないよう、法的根拠に基づいて対応してもらえます。
6-3. 重い刑事責任を負わないように尽力してもらえる
悪質な運転によって事故を起こした場合や、死亡・重度後遺障害などの重大な結果が生じた場合には、刑事責任を問われることがあります。逮捕・起訴されて有罪判決を受け、刑務所に収監される可能性もないとは言えません。
警察の取り調べを受ける前に弁護士へ相談することが重要です。取り調べにおいて何を話すべきかや、刑事手続きの流れなどについてアドバイスを受けられます。
正式に弁護士に依頼すれば、刑事弁護を任せることができます。もし逮捕や起訴がなされたとしても、加害者が不当に重い刑事責任を負わないように、力を尽くして対応してもらえます。
7. 交通事故の被害者に対する謝罪はしないほうがいいのかについてよくある質問
Q. 物損事故の謝罪は、電話だけでも大丈夫?
自分の責任で事故を起こした場合、被害者に迷惑をかけていることは人身事故でも物損事故でも変わりません。まずは丁寧な手紙を送って謝罪しましょう。その後どのような方法で謝罪を続けるのかは、被害者の意向を踏まえて判断してください。
Q. 被害者が怒っていて謝罪を受け入れない場合は、どうすべき?
謝罪を受け入れてもらえないときは、無理にやり取りを続けない方がよいでしょう。時間を置いてから改めて謝罪の連絡をするか、または弁護士に相談してください。
Q. 被害者に謝罪をすると、過失割合で不利になる?
謝罪をしたからといって、必ずしも過失割合で不利に働くわけではありません。丁寧に言葉を選べば、過失割合に影響を及ぼすことなく謝罪できます。たとえば「事故を起こして申し訳ない」「快復を心からお祈りする」などは、基本的に言っても問題ありません。
これに対して「自分が全部悪い」「損害は全部賠償する」など、自分の責任を全面的に認める発言や、損害賠償に直接関係する発言はしない方がよいでしょう。
Q. 被害者に謝らない方がいいケースはある?
交通事故の加害者が、被害者に対して一切謝るべきでないケースというのは考えにくいです。ただし、自分の責任を全面的に認める発言や、損害賠償に直接関係する発言はしないなど、謝罪の方法には注意を要します。
Q. 謝罪の場で「示談金を払う」と言ったらどうなる?
被害者が応じれば口頭でも示談が成立し、示談金の支払義務を負う可能性があります。任意保険に加入している場合は、保険会社の関知しないところで勝手に示談を成立させたとして、トラブルになるおそれも否定できません。謝罪の場では、賠償金や示談金についての言及は避けてください。
Q. 被害者に謝罪しなかったことで、刑事処分が重くなることはある?
謝罪をしたことが有利な情状となり、不起訴や量刑の減軽に繋がることはあります。特に悪質な運転の結果として事故を起こした場合や、死亡・重度後遺障害などの重大な結果を招いた場合は、被害者に対して真摯に謝罪を尽くすことが大切です。
Q. 被害者に会う際、家族が同行しても問題ない?
基本的には加害者が1人で行くのが無難ですが、学生などの場合は親が同行することも考えられるでしょう。家族が同行しようとする場合は、あらかじめ被害者側の許可を得てください。
8. まとめ 謝罪をするのはよいが、示談や賠償金など具体的な話はしないこと
自分の責任で交通事故を起こしたら、被害者に対して真摯に謝罪するのが人としてあるべき姿です。ただし、不用意な発言をすると損害賠償請求について不利益に働くことがあるので、どのような言葉で謝罪するかは慎重に検討しましょう。
被害者に対する謝罪の方法が分からないときは、弁護士に相談してください。状況に応じた適切な謝罪の仕方についてアドバイスを受けられます。
弁護士にはそのほか、損害賠償請求に関する対応や刑事弁護などを任せられます。特に任意保険未加入の場合や、重大事故を起こした場合などには、一日も早く弁護士へ相談しましょう。
(記事は2026年4月1日時点の情報に基づいています)
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