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1. 物損事故と人身事故の違いは?
交通事故は「物損事故」と「人身事故」の2つに分かれます。両者の違いは、負傷者や死者がいるかいないかという点です。
1-1. 物損事故とは
「物損事故」とは、負傷者や死者が出なかった交通事故をいいます。
物損事故による被害は、車両や積載物などの「物」だけです。人体への被害がないので、人身事故よりも損害賠償は低額となる傾向にあります。
なお、ペットは法律上「物」として扱われます。したがって、ペットがけがをした場合でも、人間がけがをしていなければ物損事故となります。
1-2. 人身事故とは
「人身事故」とは、負傷者または死者が出た交通事故をいいます。車に乗っていた人だけでなく、歩行者や自転車の運転者などが被害にあった場合でも該当します。
人身事故では人体に被害が生じているので、物損事故よりも高額の損害賠償が認められる傾向にあります。
2. 物損事故から人身事故に変更されたら、加害者はどうなる?
物損事故と人身事故を比べると、人身事故の方が加害者は重い責任を問われます。また、事故発生後の手続きについても、物損事故と人身事故では異なる部分があります。
2-1. 行政上の責任|違反点数が課され、免許停止や免許取り消しの処分を受けることがある
交通違反に当たる行為をした運転者には、運転免許の違反点数が課されることがあります。ただし、交通事故を起こしたことについて違反点数が課されるのは、人身事故の場合のみです。
物損事故では違反点数が課されませんが、人身事故に変更されると、事故の態様などに応じて違反点数が課されます。一定以上の違反点数が累積すると、免許停止や免許取り消しの処分を受けることになるので要注意です。処分の前歴がない場合は、累積6点以上で30日から90日の免許停止、累積15点以上で1年から5年の免許取り消しとなります。
2-2. 刑事責任|起訴されて有罪判決を受けることがある
物損事故では、故意に物を破損した場合を除き、刑事責任を問われることはありません。
これに対して人身事故では、自動車運転処罰法に基づく処罰の対象となります。一般的な人身事故であれば「過失運転致死傷罪」が成立し、「7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」に処されます。
また、危険な運転行為をした場合は「危険運転致死傷罪」で起訴され、さらに重い刑罰を科されるおそれがあります。
人身事故を起こした人が実際に起訴される割合はそれほど高くありませんが、運転行為が悪質である場合や、被害者が死亡したなど重大な結果が生じた場合には、起訴される可能性が高いと考えられます。
2-3. 民事責任|損害賠償額が増える
物損事故の場合、加害者が負う損害賠償は修理費や代車費用などにとどまるため、それほど高額にはならないケースが多いです。
一方、人身事故の場合は物損に加えて被害者の治療費、休業損害、慰謝料などが発生するため、損害賠償が高額となる傾向にあります。特に被害者に後遺症が残った場合や、被害者が死亡した場合には、数千万円以上の損害賠償責任を負うケースが珍しくありません。
任意保険に加入していれば保険金が支払われますが、無保険の場合は自分で損害賠償を支払うことになります。
2-4. 警察官によって実況見分が行われる
事故後の手続きの中で、物損事故と人身事故で大きく異なる点の一つが、実況見分が行われるかどうかです。「実況見分」とは、交通事故が発生した現場の状況を、警察官が記録化する手続きです。
事故現場の状況を目視で確認したり、当事者や目撃者から事情を聞いたりして、客観的な視点から事故状況を記録化して実況見分調書にまとめます。実況見分調書は、被害者が交通事故の損害賠償を請求する際の有力な証拠となります。
物損事故では実況見分が行われませんが、人身事故では実況見分が行われます。物損事故から人身事故に変更された場合は、変更後の段階で警察官が実況見分を行います。
2-5. 示談交渉を始める時期が遅くなる
物損事故の場合は、修理費などの物損の内訳が出揃えば、示談交渉を始めることができます。
一方、人身事故の場合は、被害者のけがの治療が完了しなければ、示談交渉を始めることができません。治療にどのくらいの期間を要するかは、けがの状況によって短くても数カ月程度、長ければ1年以上かかります。被害者の治療期間分、物損事故よりも示談交渉を始めるタイミングは遅くなります。
3. 物損事故から人身事故に変更されるケース
物損事故から人身事故への変更は、事故の当事者(主に被害者)が警察署に申し出た場合に行われます。
被害者が物損事故から人身事故への変更を申し出るのは、以下のようなケースです。
3-1. 被害者が医療機関を受診した際、けがが判明した
交通事故の現場では痛みを感じていなくても、後日医療機関を受診した際に、実はけがをしていたことが分かるケースはよくあります。この場合、事故当時は物損事故として警察官に報告していても、けがが分かった時点で人身事故に切り替えるのが一般的です。
3-2. 被害者が賠償金を増額したいと考えている
物損事故よりも人身事故の方が、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の項目が増え、金額も高くなります。被害者が物損事故から人身事故への変更を申し出た場合、損害賠償を増額したいと考えている可能性が高いです。
対人・対物無制限の任意保険に加入していれば、被害者に対する損害賠償は全額保険金でカバーされますが、そうでない場合は自己負担が生じることがあるので注意してください。
3-3. 被害者が加害者の刑事責任を追及したいと考えている
物損事故では加害者は刑事責任を問われませんが、人身事故では刑事罰の対象となり、起訴されて有罪判決を受ける可能性があります。物損事故から人身事故への変更を申し出た被害者は、加害者の刑事責任を追及したいと考えているのかもしれません。
実際には、被害者のけがが軽微であれば、過失運転致死傷罪などで起訴されることはほとんどありません。警察に取り調べを求められても、誠実に協力すれば大丈夫でしょう。
ただし、被害者のけがが想定以上に重傷である場合や、運転行為自体が悪質である場合などには、起訴される可能性が高いと考えられるので要注意です。
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4. 物損事故から人身事故への変更はいつまで可能?期限は?
物損事故から人身事故への変更に具体的な期限はありませんが、事故後に時間が経てば経つほど変更が認められにくくなります。ただし、事故発生から長期間が経過していても、例外的に変更が認められるケースはあります。
4-1. 変更の期限はない|ただし、事故後に時間が経っていると認められにくい
物損事故から人身事故への変更について、特に具体的な期限は設けられていません。
ただし、被害者のけがが交通事故によって発生したものであること(=因果関係)が相当程度明らかでないと、警察は物損事故から人身事故への変更を受け付けません。事故発生から時間が経てば経つほど、事故とけがの因果関係はあいまいになるため、人身事故への変更が受理されにくくなります。
一般的には、事故後2週間程度以内であればスムーズに切り替えが認められますが、それ以上経過すると認められる可能性が下がります。
4-2. 事故後時間が経っていても、変更が認められるケース
事故発生から時間が経っていても、事故とけがの因果関係を証明する資料があれば、物損事故から人身事故への切り替えが認められる可能性があります。
事故とけがの因果関係を証明するための最も重要な書類は、医師が作成する診断書です。診断書に「交通事故によって受傷した」旨が記載されていると、人身事故への切り替えが認められることがあります。
5. 物損事故から人身事故に変更された後の手続きの流れ
被害者の申し出により、物損事故から人身事故へと変更された場合には、加害者側から見ると以下の流れで手続きが進行します。
5-1. 警察から連絡を受ける
物損事故から人身事故に切り替えられた場合、警察は加害者に対してその旨を連絡します。警察からは実況見分の実施日時が伝えられるので、立ち会うかどうかを連絡しましょう。指定された日程の都合が悪い場合は、その旨を伝えれば調整してもらえることがあります。
また、警察は加害者に対して取り調べを行うことがあります。取り調べに応じるかどうかは任意ですが、基本的には協力した方がよいケースが多いです。
取り調べの対応については、弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。
5-2. 実況見分に立ち会う
警察官の実況見分には、できる限り立ち会いましょう。立ち会わないと、加害者側の言い分を警察官に伝えることができないためです。
実況見分の場では、警察官が事故現場を確認するとともに、当事者双方から事情を聞きます。警察官から質問されたら、事故当時に関する認識を具体的かつ正直に伝えましょう。
なお、警察官が作成する実況見分調書は、後日開示を受けることができます。被害者側にも過失がある場合は、加害者も被害者の保険会社に対して保険金を請求できますが、その際には実況見分調書が役立つことがあります。
5-3. 保険会社に連絡する
物損事故から人身事故への切り替えが行われた場合は、その旨を自分が加入している任意保険の保険会社に連絡しましょう。早めに連絡しておけば、示談交渉などの対応をスムーズに行ってもらえます。
5-4. 示談交渉や訴訟などによって解決する
加害者が対人・対物無制限の任意保険に加入しているなら、被害者側との示談交渉は保険会社に一任すれば問題ありません。保険会社が示談交渉などを行い、保険金の支払いまで済ませてくれます。
これに対して、加害者が任意保険に加入していない場合や、任意保険の補償限度額を超える損害賠償が発生した場合には、加害者自身が被害者に対する損害賠償責任を負います。この場合は、加害者自身も被害者の損害賠償請求に対応しなければなりません。
基本的には示談交渉による解決を目指しますが、主張が平行線を辿ってまとまらないケースもあります。その場合、被害者は裁判所に損害賠償請求訴訟(裁判)を提起するかもしれません。示談交渉や訴訟の対応が必要になる場合には、弁護士に依頼してサポートを受けましょう。
6. 交通事故の加害者は、物損事故から人身事故への切り替えを拒否できる?
物損事故から人身事故への切り替えを、加害者側が拒否することはできません。切り替えを認めるかどうかは、あくまでも警察側が判断することだからです。
しかし、人身事故に切り替えられたとしても、直ちに免許停止となったり、刑事責任を問われたりするとは限りません。弁護士のアドバイスを受けながら、努めて冷静に対応しましょう。
7. 物損事故から人身事故に変更された加害者が、弁護士に相談するメリット
物損事故から人身事故に変更され、どう対応すべきか悩んでいる加害者には、弁護士への相談をおすすめします。弁護士に相談することの主なメリットは以下のとおりです。
7-1. 警察の取り調べに対するアドバイスをもらえる
物損事故から人身事故に変更された場合に、加害者側として懸念すべきポイントの一つが、警察による取り調べについての対応です。
取り調べと聞いただけで、恐ろしいようなイメージを持つ人も多いでしょう。しかし、悪質性の高い交通事故を除き、加害者が逮捕や起訴されることはまれです。
弁護士に相談すれば、警察から取り調べを求められた場合の対応や心構えなどについてアドバイスを受けられます。事前に弁護士からアドバイスをもらっておけば、安心して取り調べに臨むことができるでしょう。
7-2. 任意保険未加入の場合は、示談交渉などを依頼できる
加害者が任意保険に加入していない場合は、自賠責保険によって補償される部分を除き、被害者に対する損害賠償が自己負担となります。自己負担分については、被害者からの損害賠償請求に対応しなければなりません。
また、被害者との示談交渉についても自分で行わなければなりません。弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉を代行してもらえます。法的な相場を示しながら交渉してもらえるので、不合理に高すぎる損害賠償責任を負うような事態は避けることができます。
示談交渉が決裂した場合は訴訟に発展することがありますが、弁護士に依頼していれば代理人として対応してもらえます。複雑で専門性の高い訴訟手続きにも、経験と知識を活かして対応してもらえるので安心です。
8. 物損事故から人身事故への変更に関してよくある質問
Q. 物損事故から人身事故に変更された場合、加害者側は免許停止になる?
免許停止になるかどうかは、累積の違反点数と前歴の有無・回数によります。
たとえば前歴がない場合は、累積6点以上で30日から90日の免許停止、累積15点以上で免許取り消し(欠格期間1年から5年)です。被害者の治療期間が30日以上だと、少なくとも6点の付加点数が課されるので、免許停止または免許取り消しとなります。
Q. 人身事故の加害者は、被害者に直接挨拶や謝罪をしたほうがいい?
事故を起こしたことについて自分に責任がある場合は、被害者に対して直接謝罪をするのが人として誠実な態度だと思われます。
ただし、謝罪と損害賠償は切り分けて考える必要があります。謝罪の場で損害賠償を求められても、保険会社または弁護士が対応する旨を伝えるにとどめましょう。安易に損害賠償の支払いなどを請け合うべきではありません。
9. まとめ 人身事故に変更されると、加害者側の負担が大きくなる
物損事故よりも人身事故の方が、さまざまな面で加害者が負う責任は重くなります。
被害者の申し出によって物損事故から人身事故に変更された場合、加害者としては戸惑う部分が大きいですが、弁護士と協力しながら冷静に対応しましょう。状況によっては、穏便に解決できる可能性は十分あります。
被害者から責任を追及されたり、警察から取り調べを求められたりして戸惑っている場合は、早い段階で弁護士に相談してください。
(記事は2025年10月1日時点の情報に基づいています)
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