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遷延性意識障害とは|交通事故で「植物状態」になった被害者の家族がすべきこと

更新日: / 公開日:
交通事故で頭を強く打った場合、脳が損傷して遷延性意識障害となるケースがあります (c)Getty Images
「遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)」は、交通事故によって生じ得る最も重篤な後遺症の一つです。いわゆる「植物状態」であり、常時介護を要します。 交通事故によって被害者が遷延性意識障害になると、家族には大きな負担がかかります。日々の介護に加えて、成年後見開始の申立てや後遺障害等級認定の申請、損害賠償請求など、やるべきことが多数あります。少しでも負担を軽減して前を向くには、弁護士にサポートを依頼するのが望ましいと言えます。 遷延性意識障害について、症状や後遺障害等級、損害賠償請求の手続きや注意点などを弁護士がわかりやすく解説します。

目 次

1. 遷延性意識障害(植物状態)とは?

1-1. 遷延性意識障害の定義(6つの基準)

1-2. 遷延性意識障害と脳死の違い

1-3. 遷延性意識障害と高次脳機能障害の違い

2. 遷延性意識障害の治療や回復率、介護問題

2-1. 確立した治療法はなく、回復率は低い

2-2. 在宅介護と施設介護はどちらがいい?

2-3. 遷延性意識障害の人を受け入れ可能な施設・サービス・費用

3. 遷延性意識障害の後遺障害等級と損害賠償額

3-1. 【重要】損害賠償の3つの算定基準|弁護士基準が最も被害者に有利

3-2. 遷延性意識障害は「要介護1級」に該当する

3-3. 要介護1級の後遺障害慰謝料の金額

3-4. 要介護1級の逸失利益の計算方法

4. 交通事故で遷延性意識障害になった場合に、請求できるその他の損害賠償の項目

4-1. 積極損害|治療費など

4-2. 消極損害|休業損害など

4-3. 慰謝料|入通院慰謝料や近親者固有の慰謝料

5. 【注意】過失割合によって賠償金額は変動する

6. 遷延性意識障害になった被害者の家族が行うべき手続き

6-1. 【STEP1】弁護士への相談や依頼

6-2. 【STEP2】成年後見開始の申立て

6-3. 【STEP3】後遺障害等級認定の申請

6-4. 【STEP4】加害者側との示談交渉

6-5. 【STEP5】ADRや訴訟

7. 遷延性意識障害について、十分な補償や支援を受けるためのポイント

7-1. 保険会社の提示額を安易に受け入れない

7-2. 自賠責保険の被害者請求を行い、損害賠償の一部の前払いを受ける

7-3. 適切な後遺障害等級の認定を受ける

7-4. 将来の介護費用も含めて、漏れなく損害を把握する

7-5. 弁護士基準によって損害賠償を請求する

7-6. 障害年金の受給を請求する

7-7. 自治体の助成を受ける

8. 交通事故で遷延性意識障害になった被害者の家族が弁護士に相談や依頼をするメリット

9. 遷延性意識障害についてよくある質問

10. まとめ 家族が交通事故で遷延性意識障害になった際は弁護士に相談を

1. 遷延性意識障害(植物状態)とは?

「遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)」とは、俗に言う「植物状態」です。交通事故による後遺症のなかでは、最も重い部類にあたります。

1-1. 遷延性意識障害の定義(6つの基準)

遷延性意識障害とは、治療を行ったにもかかわらず、以下の6つの要件をすべて満たす状態が3カ月以上続いている容態を言います。

  1. 自力で移動することができない

  2. 自力で摂食することができない

  3. 屎尿(排泄物)が失禁状態である

  4. 意味のある発語ができない

  5. 簡単な命令(目を開く、手を握るなど)にはかろうじて応じることがあっても、それ以上の意思疎通はできない

  6. 眼球はかろうじて物を追うことがあっても、認識はできない

交通事故で頭を強く打った場合、脳が損傷して遷延性意識障害となるケースがあります。

1-2. 遷延性意識障害と脳死の違い

遷延性意識障害は「脳死」ではありません。

脳死とは、脳幹を含む脳全体の機能が失われた状態を言います。「深昏睡」「瞳孔固定」「脳幹反射の消失」「平坦脳波」「自発呼吸の消失」の5要件をすべて満たすことが確認され、さらに6時間後にもすべて満たすことが確認された場合に脳死と診断されます。

「脳幹」は、人間が生きるために必要な呼吸や心臓運動、嚥下(食べ物を飲み込む動作)などの重要な機能を担っています。脳幹の機能が失われると、現代の医学では二度と元に戻せません。したがって、脳死から回復する可能性はありません。

人工呼吸器を装着すれば、脳死状態でも心臓を動かすことはできますが、長く続けることはできません。いずれは心停止に至ります。

これに対して遷延性意識障害では、脳幹の機能がまだ残っています。そのため、心臓は自発的に動いており、自力で呼吸できるケースが多いです。脳死とは異なり、回復する可能性もあります。

1-3. 遷延性意識障害と高次脳機能障害の違い

遷延性意識障害は「高次脳機能障害」とも異なるものです。

高次脳機能障害とは、脳がダメージを受けたことによって生じる認知機能の障害です。具体的には、以下のような障害が生じます。

  • 記憶障害:記憶力が悪くなる

  • 注意障害:注意力が散漫になる

  • 遂行機能障害:計画的な活動や時間を守ることなどが難しくなる

  • 社会的行動障害:興奮する、暴力を振るう、大声を出す、自己中心的になる

高次脳機能障害も、交通事故によって生じることの多い後遺症の一つです。見た目では普通に生活しているように見えますが、実際に接すると健常者とは異なる行動が見られます。

これに対して遷延性意識障害は、自力で活動することができず、ほぼ「寝たきり」の状態になります。

2. 遷延性意識障害の治療や回復率、介護問題

遷延性意識障害について確立した治療法はなく回復率はかなり低いです。生涯にわたって常時介護が必要になる可能性を念頭に置きつつ、介護の方法や入居させる施設などを検討することが大切です。

2-1. 確立した治療法はなく、回復率は低い

遷延性意識障害について、確立した治療法は存在しません。以下のような治療が試みられることがあるものの、効果が得られる可能性は高くありません。

【脊髄後索電気刺激(せきずいこうさくでんきしげき)】
体内に埋め込んだ刺激装置から弱い電流を流して脳を刺激する治療法

【脳深部電気刺激療法(のうしんぶでんきしげきりょうほう)】
脳の深部にある覚醒に関する核に電流を流して刺激する治療法

【正中神経刺激法(せいちゅうしんけいしげきほう)】
手の正中神経に電流を流して刺激する治療法

【迷走神経刺激法(めいそうしんけいしげきほう)】
頸部(首)にある迷走神経に電流を流して刺激する治療法

いずれかの治療法によって仮に意識が回復したとしても、何らかの障害が残るケースが大半です。どのような治療を行うかは、主治医の説明をよく聞いて、リスクを十分に考慮したうえで判断しましょう。

2-2. 在宅介護と施設介護はどちらがいい?

家族が遷延性意識障害になった場合、自宅で介護する「在宅介護」と、施設に入居させて介護してもらう「施設介護」のどちらが適しているかは、家庭の状況によって異なります。

在宅介護と施設介護の主なメリットとデメリットは、以下のとおりです。比較検討しつつ、介護の方法を判断する必要があります。

【在宅介護と施設介護の主なメリットとデメリット】

主なメリット

主なデメリット

在宅介護

・住み慣れた環境で安心して生活できる

・家族と過ごす時間を確保できる

・本人の生活リズムに合わせて介護できる

・費用を抑えられる

・家族の負担が大きい

・家族が労働時間を確保できず、収入が減ることがある

・ベッドからの転落などによる事故が発生しやすい

・住宅環境の整備(スロープの設置など)が必要な場合がある

施設介護

・専門スタッフによる24時間体制のケアが受けられる

・家族の介護負担が大幅に軽減される

・医療機関との連携が充実している

・転倒などのリスクを管理しやすい

・本人が環境の変化にストレスを感じることがある

・家族と過ごす時間が減る

・費用が高額になることがある

2-3. 遷延性意識障害の人を受け入れ可能な施設・サービス・費用

遷延性意識障害の人は、以下のような施設やサービスを利用することが考えられます。本人や家族のニーズに合ったサービスを利用することが大切です。

概要

費用の目安(遷延性意識障害の場合)

介護医療院

要介護状態の高齢者が、

医療ケアと介護サービスを受けながら

長期にわたり療養するための施設

月8万円程度~

※自己負担率(1~3割)や

個室利用の有無などによって異なる

療養型病院

症状が安定しているものの、

高度な医学的管理を必要とする

長期療養患者を受け入れる医療機関の病床

月4万円程度~

※高額療養費制度の対象となるため、

所得区分によって自己負担の上限額が変わる

障害者支援施設

身体障害者を受け入れて居住の場を提供し、

日常生活の世話や介護を行う施設

月6万円程度~

医療型短期入所

(医療型ショートステイ)

在宅で生活する要介護者が、

1日~数週間程度の短期間医療機関へ入所し、

医療的ケアや介護を受けるサービス

1日あたり1000円程度~

※自己負担率(1~3割)や

個室利用の有無などによって異なる

訪問介護

介護員が要介護者の自宅を訪問し、

日常生活の世話や介護を行うサービス

1回あたり数百円程度~

※自己負担率(1~3割)や

利用時間数などによって異なる

3. 遷延性意識障害の後遺障害等級と損害賠償額

遷延性意識障害については「要介護1級」が認定されるのが一般的です。加害者側に対して請求できる後遺障害慰謝料と逸失利益の額も、きわめて高額となります。

3-1. 【重要】損害賠償の3つの算定基準|弁護士基準が最も被害者に有利

交通事故の損害賠償額を算定する基準には、以下の3種類があります。

交通事故の賠償金の3つの算定基準の図。弁護士基準が被害者にとって最も有利
交通事故の賠償金の3つの算定基準の図。弁護士基準が被害者にとって最も有利

【自賠責保険基準】
自賠責保険から支払われる保険金額を算定する基準です。3つの基準のなかで、金額は最も低くなります。

【任意保険基準】
保険会社が独自に定めている損害額の算定基準です。自賠責保険基準よりやや高額であるものの、弁護士基準よりは大幅に低い額となります。

【弁護士基準(裁判所基準)】
過去の裁判例に基づき、被害者の客観的な損害額を算定する基準です。3つの基準のなかで、金額が最も高くなります。

3つの基準のうち、被害者にとって最も有利なのは弁護士基準です。

弁護士基準は過去の裁判例に基づいているため、訴訟(裁判)になれば弁護士基準による損害賠償が認められる可能性が高いと思われます。したがって弁護士基準は、被害者にとって有利なだけでなく、最も公正な基準と言えます。被害者には弁護士基準に従った損害賠償を受ける権利があります。

特に遷延性意識障害の場合、後遺障害慰謝料や逸失利益の額が高額であるため、用いる基準によって賠償金額が大きく変化します。弁護士のサポートを受けながら、弁護士基準によって損害賠償を請求することを強くお勧めします

3-2. 遷延性意識障害は「要介護1級」に該当する

交通事故の後遺障害等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表に定められた症状に応じて認定されます。等級は要介護1級・2級と、介護を要しない1級から14級まであり、後遺障害が重いほど数字が小さくなります。

遷延性意識障害の人は常時介護を要するため、要介護1級1号が認定される可能性が高いです。

【要介護1級1号】
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

3-3. 要介護1級の後遺障害慰謝料の金額

後遺障害等級の認定を受けた交通事故被害者は、加害者側に対して「後遺障害慰謝料」を請求できます。後遺障害慰謝料とは、後遺症が残ったことによる身体的および精神的苦痛の賠償金です。

後遺障害慰謝料の目安額は、後遺障害等級に応じて決まります。要介護1級の場合の金額は以下のとおりです。なお、任意保険基準はそれぞれの任意保険会社が独自に定めるものであり、非公開となっています。

【要介護1級の後遺障害慰謝料の金額】

後遺障害慰謝料の目安額

自賠責保険基準

1650万円

弁護士基準

2800万円

自賠責保険基準による金額は、自賠責保険の保険会社に対して請求すれば支払いを受けられます。自分の過失(ミスや不注意などの落ち度)が7割以上の場合を除き、満額を受け取ることができます

自賠責保険基準を上回る額の後遺障害慰謝料を受け取るには、加害者側(保険会社)との示談交渉が必要になります。その際には、弁護士基準による金額の支払いを請求してください。

ただし、自分にも過失がある場合は、その分の金額が控除される「過失相殺」が行われることがあります。過失相殺とは、交通事故の被害者にも事故の責任がある場合に、その責任割合に応じて賠償金が減額されることを言います。詳細は「5. 【注意】過失割合によって賠償金額は変動する」で説明します。

3-4. 要介護1級の逸失利益の計算方法

後遺障害等級の認定を受けたときは、加害者に対して「逸失利益」の損害賠償も請求できます。逸失利益とは、後遺症によって労働能力が失われたことに伴い、将来にわたって得られなくなった収入を指します。

逸失利益の額は、以下の式によって計算します。

逸失利益=1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

【1年あたりの基礎収入】

「1年あたりの基礎収入」とは、原則として事故発生前の年収の実額を言います。

ただし、専業主婦や専業主夫については、政府が発表している「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめた統計資料、通称「賃金センサス」に基づく女性労働者の全年齢平均給与額を用います。2024年度の女性全年齢平均賃金は419万4400円でした。

【労働能力喪失率】

「労働能力喪失率」とは、後遺症によって失われた労働能力の割合です。後遺障害等級に応じて目安が決まっており、遷延性意識障害について認定される要介護1級の場合、労働能力喪失率は「100%」となります。

【労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数】

「労働能力喪失期間」とは、後遺症によって労働能力が失われる期間を言います。

後遺症が軽微な場合などを除き、労働能力喪失期間は就労可能年数と一致します。就労可能年数の計算方法は以下のとおりです。

年齢

就労可能年数

18歳未満

49年

18歳以上52歳未満

67歳-年齢

例:45歳の就労可能年数は22年

52歳以上

男性平均余命の2分の1

※1年未満の端数は切り上げ

例:75歳の就労可能年数は7年

※75歳時点での男性平均余命は6.2年(参考:第22回生命表|厚生労働省)

「ライプニッツ係数」とは、将来受け取るべきお金の価値を、現在の価値に引き直すために用いる係数です。国土交通省が「就労可能年数とライプニッツ係数表」を公表しています

交通事故の逸失利益の額は、労働能力喪失期間を法定利率(年3%)によって割り引いた数値(=労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数)を用いて計算します。18歳以上の人に適用する就労可能年数とライプニッツ係数は下表のとおりです。

就労可能年数とライプニッツ係数表(18歳以上の者に適用する表)。「就労可能年数」が労働能力喪失期間にあたる
就労可能年数とライプニッツ係数表(18歳以上の者に適用する表)。「就労可能年数」が労働能力喪失期間にあたる(出典:就労可能年数とライプニッツ係数表|国土交通省)

たとえば40歳で遷延性意識障害になった場合、就労可能年数(=労働能力喪失期間)は27年なので、それに対するライプニッツ係数は「18.327」となります。

以下の事例で逸失利益の額を計算してみます。

・1年あたりの基礎収入は500万円
・40歳で交通事故に遭い、遷延性意識障害となって後遺障害1級(要介護)の認定を受けた

上記の例では、後遺障害1級(要介護)の認定を受けているため、労働能力喪失率は100%です。年齢は40歳なので、労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数は18.327です。

したがって、逸失利益の額は以下の計算により「9163万5000円」となります。

逸失利益=500万円×100%×18.327=9163万5000円

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4. 交通事故で遷延性意識障害になった場合に、請求できるその他の損害賠償の項目

交通事故によって遷延性意識障害となった人は、後遺障害慰謝料と逸失利益のほかにも、加害者側に対して以下の損害賠償を請求できます。漏れなく請求を行ってください。

  • 積極損害|治療費など

  • 消極損害|休業損害など

  • 慰謝料 |入通院慰謝料や近親者固有の慰謝料

4-1. 積極損害|治療費など

「積極損害」とは、交通事故によって支出を強いられた費用を言います。たとえば、以下の項目の積極損害の賠償を請求できます。

積極損害の項目

概要

治療費

けがを治療するために、医療機関や薬局に支払った費用

装具、器具の購入費

義歯、義眼、義手、義足、車いす、かつら、眼鏡、

コンタクトレンズ、介護ベッド、コルセットなどの購入費用

通院交通費

通院するためにかかる交通費

入院雑費

入院中に日用品を購入するための費用

付添費用

(職業付添人)

職業付添人に入院や通院への付き添いを依頼する場合の費用

介護費用

(職業介護人)

職業介護人に介護を依頼する場合の費用

自動車の修理費

壊れた自動車の修理費用

4-2. 消極損害|休業損害など

「消極損害」とは、交通事故によって得られなくなった利益を言います。たとえば、以下の項目の消極損害の賠償を請求できます。

消極損害の項目

概要

休業損害

交通事故の影響で仕事を休んだことによって

得られなくなった収入

付添費用

(近親者)

入院や通院に近親者が付き添う場合に、

その時間で経済活動ができなくなることによる逸失利益

介護費用

(近親者)

近親者が介護をする場合に、

その時間で経済活動ができなくなることによる逸失利益

4-3. 慰謝料|入通院慰謝料や近親者固有の慰謝料

「慰謝料」とは、交通事故によって受けた身体的および精神的苦痛に対する賠償金です。

被害者が遷延性意識障害となった場合は、後遺障害慰謝料のほか、以下の慰謝料を請求できます。

慰謝料の項目

概要

入通院慰謝料

けがをして入院や通院を余儀なくされたことによる

身体的および精神的苦痛の賠償金

近親者慰謝料

重度後遺障害となった被害者の近親者が受けた精神的苦痛の賠償金

※被害者の父母、配偶者、子、およびこれらと

実質的に同視できる身分関係にある者が請求できる

5. 【注意】過失割合によって賠償金額は変動する

交通事故について被害者にも過失がある場合は、被害者が受けられる損害賠償が減額されます。これを「過失相殺」と言います。

過失相殺は、事故の当事者間における責任の割合を示す「過失割合」に応じて行われます。過失割合は、事故の客観的な状況をふまえて、示談交渉や訴訟などを通じて決めます。

たとえば、交通事故の被害者が遷延性意識障害となり、総額1億円の損害を受けたとします。被害者にまったく過失がなければ、1億円全額の損害賠償を受けられます。

これに対して、被害者に10%の過失がある場合は、得られる賠償金額も10%控除されて9000万円となります。20%の過失があれば8000万円、30%の過失があれば7000万円と、過失割合が大きくなるほど得られる賠償金額が減ります。

示談交渉の相手となる加害者側の保険会社は、支払う保険金額を抑えるため、被害者にとって不当に不利な過失割合を提示してくることがあります。提示された過失割合に納得できないときは、映像や実況見分調書の写しなど事故状況を示す客観的な資料を示しつつ反論し、適正な過失割合への修正を求める必要があります

6. 遷延性意識障害になった被害者の家族が行うべき手続き

家族が交通事故に遭って遷延性意識障害の診断を受けたときは、損害賠償を受けるために以下の流れで手続きを行ってください。

遷延性意識障害になった被害者の家族が行うべき手続きの図解。正式に弁護士へ依頼すれば、損害賠償請求に必要な対応全般を代行してもらえる
遷延性意識障害になった被害者の家族が行うべき手続きの図解。正式に弁護士へ依頼すれば、損害賠償請求に必要な対応全般を代行してもらえる

6-1. 【STEP1】弁護士への相談や依頼

まずは弁護士に相談することをお勧めします。損害賠償請求の流れや必要な準備、得られる賠償金額の見通しなどについてアドバイスを受けられます

正式に弁護士へ依頼すれば、損害賠償請求に必要な対応全般を代行してもらえます。労力やストレスが軽減されるほか、損害賠償の増額が期待できる点も、弁護士に依頼することの大きなメリットです。

特に遷延性意識障害については、賠償金が高額になることが予想されます。適切な対応ができるかどうかによって、得られる賠償金額が大きく変わり得るので、必ず一度は弁護士に相談してください

6-2. 【STEP2】成年後見開始の申立て

損害賠償請求を行う際には「意思能力(=自分の行為の結果を判断する能力)」が必要ですが、遷延性意識障害の人には意思能力がありません。そのため、損害賠償請求に先立って、家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらう必要があります。

成年後見人は遷延性意識障害になった本人のために、財産の管理や介護施設への入所の手配などを行う役割を担います。加害者側に対する損害賠償請求も、成年後見人が本人を代理して行います弁護士に依頼する場合も、成年後見人が本人の代理人として契約を締結します。

成年後見人を選任してもらうには、家庭裁判所に成年後見開始の申立てを行いましょう。必要書類などは、裁判所が公式ホームページの「後見開始」のページで案内しています。

成年後見人は、家庭裁判所の裁量によって選任されます。申立人は候補者を推薦することができますが、推薦した人が必ず選ばれるわけではありません

6-3. 【STEP3】後遺障害等級認定の申請

遷延性意識障害について症状固定(=治療を続けても回復の見込みがないと医学的に判断される状態)の診断を受けたら、後遺障害等級の認定を申請しましょう。きちんと書類をそろえて申請すれば、要介護1級が認定される可能性が高いと言えます。

後遺障害等級認定の申請方法には、加害者側の保険会社に任せる「事前認定」と、被害者側が自ら申請する「被害者請求」の2種類があります。遷延性意識障害によって本人の意思能力が失われている場合の被害者請求は、家庭裁判所によって選任された成年後見人が行います。

事前認定のほうが手間はかかりませんが、納得できる認定を受けたいなら、被害者側が主導して申請できる「被害者請求」をお勧めします。弁護士に依頼すれば、被害者請求のサポートも行ってもらえます。

6-4. 【STEP4】加害者側との示談交渉

後遺障害等級の認定を受けたら、加害者側との示談交渉を始めます。加害者が任意保険に加入している場合は、保険会社との間で示談交渉を行います。

示談交渉にあたっては、加害者や保険会社の主張や提示額が妥当なのかどうかを、法的な観点から常に検証することが大切です。示談交渉を有利に進めるためには、弁護士のサポートを受けることをお勧めします。

6-5. 【STEP5】ADRや訴訟

示談交渉がまとまらないときは、ADR(裁判外紛争解決手続)や訴訟によって解決を図りましょう。

「ADR(裁判外紛争解決手続)」は、裁判所以外の第三者機関が取り扱う紛争解決手続きです。交通事故に関するADRは、「公的財団法人交通事故紛争処理センター」や「公益財団法人日弁連交通事故相談センター」などが取り扱っています。

訴訟よりも短期間で終了するケースが多いのが、ADRの大きな特徴です。特に保険会社に対して損害賠償を請求する場合は、ADRが有力な解決策となります。

「訴訟」は、裁判所で行われる紛争解決手続きです。最終的には裁判所の判決により、強制的に交通事故トラブルを解決することができます。訴訟は長期化する傾向にありますが、途中で和解が成立するケースもあります

ADRと訴訟のどちらを選択すべきかは状況によって異なるため、弁護士にアドバイスを求めるのが望ましいでしょう。

7. 遷延性意識障害について、十分な補償や支援を受けるためのポイント

交通事故によって遷延性意識障害になった人の家族が、損害賠償を含めて十分な補償や支援を受けるために、押さえておくべきポイントを紹介します。

7-1. 保険会社の提示額を安易に受け入れない

加害者側の保険会社には、支払う保険金額をなるべく抑えたいという意向があります。そのため、保険会社が提示してくる示談金額は、不当に低すぎるケースが多いです。

保険会社から金額を提示されても、そのまま受け入れるのではなく、必ず持ち帰って弁護士に相談してください。受け入れてもよいのか、増額を求めるべきなのかについて的確なアドバイスが受けられます。

7-2. 自賠責保険の被害者請求を行い、損害賠償の一部の前払いを受ける

遷延性意識障害の損害賠償は高額になるため、保険会社との示談交渉は難航する可能性があります。

示談交渉が完了するか、ADRや訴訟などによって損害賠償の内容が確定するまで、任意保険の保険会社から支払いを受けることはできません

なるべく早く損害賠償金を受け取りたいなら、自賠責保険の被害者請求を行いましょう。被害者が受けた損害の満額には足りないものの、自賠責保険による補償の範囲内で早期に支払いを受けることができます。不足分は、引き続き加害者側に対して請求します

自賠責保険の被害者請求は、加害者が加入している自賠責保険の保険会社を通じて行います。請求方法がわからないときは、弁護士に相談してください。

7-3. 適切な後遺障害等級の認定を受ける

遷延性意識障害については、後遺障害1級(要介護)が認定される可能性が高いです。しかし、適切に申請しないと、正しい等級の認定を受けられないおそれがあります。

遷延性意識障害のような重度後遺障害の場合、認定される等級が一つ違うだけで、数百万円以上も損害賠償額が変わります。後遺障害診断書などの書類をきちんとそろえて、慎重に準備を整えたうえで申請を行うことが重要です。

7-4. 将来の介護費用も含めて、漏れなく損害を把握する

「4. 交通事故で遷延性意識障害になった場合に、請求できるその他の損害賠償の項目」で解説したとおり、交通事故で遷延性意識障害になった人は、加害者側に対して幅広い項目の損害賠償を請求できます。

十分な額の損害賠償を受けるためには、漏れなく損害を把握したうえで、そのすべてを集計して請求することが大切です。特に後遺障害慰謝料や逸失利益のほか、将来の介護費用も高額となるケースが多いことを押さえておきましょう。

7-5. 弁護士基準によって損害賠償を請求する

交通事故の被害者として損害賠償を請求する際には、必ず過去の裁判例に基づいた「弁護士基準」によって損害額を計算してください。自賠責保険基準や任意保険基準と比べると、弁護士基準による金額が最も高額で被害者に有利です。

加害者側の保険会社は、自賠責保険基準や任意保険基準によって計算した示談金額を提示してくるケースが多いです。提示された金額をきちんと検証して、低すぎると思われる場合は、弁護士基準に従った額まで増額を求めましょう。弁護士に依頼すれば、弁護士基準に基づいて賠償金を算定し、粘り強く交渉をしてくれます。

交通事故の損害賠償における3つの基準を図解。任意保険基準と裁判所基準(弁護士基準)の差が、かなり大きいケースも少なくない
交通事故の損害賠償における3つの基準を図解。任意保険基準と裁判所基準(弁護士基準)の差が、かなり大きいケースも少なくない

7-6. 障害年金の受給を請求する

交通事故によって遷延性意識障害となった人は、障害年金の受給資格に該当すると考えられます。国民年金に対応する「障害基礎年金」のほか、厚生年金保険にも加入していたことがある場合は「障害厚生年金」も受け取れます。さらに、障害基礎年金または障害厚生年金を受給していると、国民年金保険料の納付が免除されます。

障害基礎年金の請求先は住所地の市区町村役場、障害厚生年金の請求先は年金事務所または街角の年金相談センターです。忘れずに請求を行ってください。詳しくは日本年金機構の公式ホームページで確認することができます。

7-7. 自治体の助成を受ける

自治体によっては、身体障害者の保険医療費や、介護保険サービスの自己負担額を助成する事業などを行っていることがあります。遷延性意識障害の人が対象となる制度がないか、自治体の窓口に問い合わせてみましょう。

8. 交通事故で遷延性意識障害になった被害者の家族が弁護士に相談や依頼をするメリット

交通事故によって被害者が遷延性意識障害となった場合、家族には大きな心労がかかります。一家を支えていた人が遷延性意識障害になると、経済的にも苦しい状況に追い込まれてしまうかもしれません。つらい思いを抱えているなら、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士に相談すれば、損害賠償請求の進め方や見通しなどについて、被害者や家族の目線に立ったアドバイスを受けられます。

正式に弁護士へ依頼すれば、成年後見開始の申立てや後遺障害等級認定の申請、保険会社との示談交渉など、必要な手続きの大部分を代行してもらえます。労力やストレスが軽減されるとともに、損害賠償の増額が期待できる点が大きなメリットです。

本人や家族が加入している自動車保険などに「弁護士費用特約」が付いていれば、弁護士費用の負担を大幅に抑えながら弁護士に依頼することができます。利用できる保険の内容を確認したうえで、早い段階で弁護士に相談してください。

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9. 遷延性意識障害についてよくある質問

Q. 交通事故で遷延性意識障害になった家族を自宅で介護する場合、自宅の改築費用やホームヘルパーの費用も請求できる?

介護に必要な費用であれば、自宅の改築費用やホームヘルパーの費用も損害賠償の対象となります。

Q. 遷延性意識障害の症状固定はいつ診断される?

遷延性意識障害の定義上、症状固定の診断がなされるのは、その状態となってから少なくとも3カ月以上経過したあとです。実務上は、1年程度の経過観察を経たうえで症状固定の診断がなされるケースが多く見られます

Q. 遷延性意識障害になったら、身体障害者手帳を取得できる?

症状固定の診断がなされており、身体機能の障害が永続すると判断される場合は、身体障害者手帳の対象となります。

Q. 遷延性意識障害は難病指定されている?

遷延性意識障害は、難病法に基づく指定難病にはあたりません。

Q. 弁護士に依頼したいけれど費用が心配な場合、どうすればよい?

弁護士費用を抑える方法としては、無料相談ができる弁護士に相談する、複数の弁護士の見積もりを比較する、「日本司法支援センター 法テラス」を利用するなどの方法が考えられます。法テラスは、国によって設立された法的トラブル解決のための機関です。

ただし、法テラスは収入と資産が一定水準以下の人しか利用できず、依頼先も法テラスと契約している弁護士に限られる点には注意が必要です。

10. まとめ 家族が交通事故で遷延性意識障害になった際は弁護士に相談を

遷延性意識障害は、交通事故の後遺症のなかで最も重篤なものの一つです。意識が回復する可能性はあるものの、ほとんどのケースで重い症状が残ります。

交通事故で家族が遷延性意識障害になったら、弁護士のサポートを受けながら損害賠償請求の手続きを進めましょう。

弁護士に正式に依頼すれば成年後見開始の申立て、後遺障害等級認定の申請、加害者側との示談交渉といった手続きを一任できるほか、過去の裁判例に基づく弁護士基準での請求によって損害賠償の増額が期待できます。特に遷延性意識障害の場合、後遺障害慰謝料や逸失利益の額が高額となるため、弁護士への依頼を強くお勧めします

(記事は2026年2月1日時点の情報に基づいています)

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この記事を書いた人

阿部由羅(弁護士)

阿部由羅(弁護士)

ゆら総合法律事務所 代表弁護士
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。交通事故案件のほか、離婚・相続・債務整理案件や、ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務などを得意とする。埼玉弁護士会所属。登録番号54491。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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