目 次
1. 頸椎骨折とは? 即死する? 首の骨折とは違う?
頸椎骨折とは、文字どおり首の骨が折れた状態を指し、骨が押しつぶされる圧迫骨折や、骨が砕ける破裂骨折などに分類されます。なかでも回復の見通しを左右する最大のポイントは、骨の中を通る神経へのダメージ、すなわち「頸髄損傷(けいずいそんしょう)」の有無です。
首の骨が折れたと聞くと「即死するのでは?」と思うかもしれませんが、生命の危険が生じるのは、主に呼吸中枢などに関わる上位の頸髄が激しく損傷した場合で、骨折があっても神経症状がないケースもあります。ただし、事故直後に手足の麻痺(まひ)や強いしびれ、感覚異常が現れた場合は、破損した骨の一部による神経圧迫や脊髄(せきずい)損傷が強く疑われます。
首の痛みという点ではむちうち(頸椎ねんざ)と似ていますが、骨や神経の深部損傷は外見では判別できません。安易に自己判断せずただちに専門医を受診し、レントゲンやCTで骨折の形状を、MRIで神経損傷の程度を精査し、画像診断を受けることがきわめて重要です。
2. 頸椎骨折の治療方法は? 入院期間や全治はどれくらい?
頸椎骨折の治療方針は、骨折した部位のほか骨のずれ(転位)や神経損傷の有無により大きく異なり、主に保存療法と手術療法に大きく分けられます。
けがをしてすぐの急性期に骨のずれが少なく安定している場合は、装具で患部を固定し、自然癒合(しぜんゆごう)、つまり自然に骨が再形成されるのを待つ保存療法が選択されます。一方、骨が不安定で脊髄を圧迫するおそれがある場合や粉砕骨折の場合は、ボルトやプレートを使った脊椎固定術などの手術療法が適用されます。
入院期間は、順調であれば数週間から1カ月程度が目安ですが、手術やリハビリが必要な場合は数カ月に及ぶこともあります。治療費は加害者側の保険会社による一括対応の直接払いが一般的ですが、被害者にも過失がある場合などは、健康保険や労災保険を使用して治療費そのものを減額することが、現実的には望ましいとされています。
リハビリは、骨癒合の経過を見ながら、初期の安静固定から徐々に可動域訓練へと移行します。可動域訓練とは、筋肉や関節を動かして硬くなるのを防ぎ、運動機能の改善を図る訓練です。治療を尽くしてもこれ以上症状の改善が見込めなくなった状態を「症状固定」と呼び、一般的に事故後6カ月から1年程度が判断の目安とされています。
この時点で、首から骨盤まで伸びる脊柱(せきちゅう)の変形や痛みなどが残っている場合は、完治ではなく「後遺障害」として、変形障害や神経障害などの等級認定を申請し、将来の逸失利益などの賠償を求めることになります。
仕事復帰に関しては、デスクワークであれば早期に検討できる場合もありますが、肉体労働など負担の大きい業務では、骨が十分に癒合するまで半年以上かかるケースも少なくありません。そのため、焦らず主治医とよく相談し、慎重に段階を踏んで復帰をめざすことが大切です。
3. 頸椎骨折したらどうなる? どのような後遺症が残る? 後遺障害等級も紹介
頸椎骨折は、残念ながら治療を尽くしてもけがの前とまったく同じ状態には戻らないことがあります。これを「後遺症」と呼び、自賠責保険で認められる基準に該当すれば「後遺障害等級」が認定されます。
頸椎骨折で想定される主な障害は、大きく分けて「変形」「運動」「神経」の3つです。
3-1. 変形障害|骨折した部位が変形する
変形障害とは、骨折した頸椎がもとの形状に戻らずに、変形した状態で固まってしまう障害を指します。具体的には、レントゲンやCTなどの画像検査によって、脊椎の主要な骨である椎体が押しつぶされている圧迫骨折や、棘突起(きょくとっき)と呼ばれる骨の一部が欠けていることなどが客観的に確認できる場合に認定されます。
認定の目安として、頸椎に「著しい変形を残すもの」は6級5号、「中程度の変形を残すもの」は8級2号、「変形を残すもの」は11級7号が認定される可能性があります。
3-2. 運動障害|骨折した部位が動きにくくなる
運動障害とは、骨折による脊柱の変形や、手術によってボルトやプレートで骨を固定した影響などにより、首を前後左右に動かせる可動域が狭くなった状態を指します。
単に痛みで動かせないのではなく、身体的な構造の変化によって「事故前と比べて可動域が半分以下に制限されている」といった制限の度合いを測定し、その程度によって等級が決定されます。
等級の目安は、頸椎に「著しい運動障害を残すもの」が6級5号、「運動障害を残すもの」が8級2号とされています。
3-3. 神経障害|身体に麻痺や痛みなどが残る
神経障害とは、脊髄や、脊髄から枝分かれして伸びる神経の根元部分を指す神経根が、骨折部位によって圧迫や損傷されることで、手足のしびれ、麻痺、慢性的な痛み、力が入りにくいといった神経症状が残る状態です。
等級認定では、MRIなどの画像から客観的に神経症状の存在を証明できるものが12級13号、証明はできなくともけがに至った原因や経緯、症状の経過から医学的に説明がつくものが14級9号とされています。
以下の表は、頸椎骨折で認定される可能性のある主な後遺障害等級です。
障害の種類 | 等級 | 認定基準の目安 |
|---|---|---|
変形障害 | 6級5号 | 頸椎に著しい変形を残すもの |
8級2号 | 頸椎に中程度の変形を残すもの | |
11級7号 | 頸椎に変形を残すもの | |
運動障害 | 6級5号 | 頸椎に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 | 頸椎に運動障害を残すもの | |
神経障害 | 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの(画像証明あり) |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの(医学的に説明可能) |
4. 頸椎骨折で後遺障害等級の認定を受けるとどうなる?
適切な後遺障害等級が認定されると、加害者側に後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益(いっしつりえき)の2つを新たに請求できるようになります。
後遺障害慰謝料とは、後遺症が残ったことによる精神的な苦痛に対する賠償金です。逸失利益とは、後遺症のためにこれまでどおりに働けなくなり、将来得られるはずだった収入が減ってしまうことに対する補償です。
頸椎骨折の場合これら2つの合計額は、数百万円から、重い等級であれば数千万円に達することも珍しくありません。たとえば、一家の経済的支柱である働き盛りの人が重い等級に認定された場合、将来の減収分を補填する逸失利益は、非常に高額になります。
ここで注意が必要なのは、認定される等級が一つ変わるだけで、賠償額が数百万円単位で大きく変わる点です。たとえば、単なる痛みとしてしか認められず14級になるのか、骨の変形が認められて11級になるのかでは、受領できる金額に天と地ほどの差が出ます。そのため、漏れのない検査と、医学的根拠に基づいた適切な等級認定を受けることが、自分のこれからの生活を守るためには極めて大切です。
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5. 頸椎骨折の後遺障害慰謝料の相場はいくら?
頸椎骨折の後遺障害慰謝料の相場について解説します。
5-1. 【等級別】後遺障害慰謝料の金額相場
後遺障害慰謝料を算出する際の基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準)の3つがあります。このうち、最も高額で、被害者が本来受け取るべき正当な基準とされるのが、弁護士基準(裁判所基準)です。
以下の表は、頸椎骨折などで認定される可能性のある後遺障害等級について、弁護士基準と自賠責基準の金額を比較したものです。なお自賠責基準の金額は、後遺障害慰謝料の目安額です。
等級 | 後遺障害の状態(頸椎骨折などの場合) | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|---|
6級 | 著しい変形障害など | 512万円 | 1180万円 |
8級 | 脊柱の運動障害など | 331万円 | 830万円 |
11級 | 脊柱の変形障害など | 136万円 | 420万円 |
12級 | 頑固な神経症状(痛みやしびれなど) | 94万円 | 290万円 |
14級 | 神経症状(痛みやしびれなど) | 32万円 | 110万円 |
弁護士基準は自賠責基準と比較して、おおむね2倍から3倍以上の金額となります。相手側の保険会社は、示談交渉で自賠責基準や独自の任意保険基準に基づいた低い金額を提示してくるケースが一般的ですが、これをうのみにせず、正当な権利を主張することが重要です。
5-2. 被害者が賠償を請求できるそのほかの損害項目
後遺障害に関するお金以外にも、事故によって発生した以下の損害を漏れなく請求する必要があります。
【治療費】
診察、CTやMRIなどの画像検査、手術、投薬、入院にかかる費用全般を請求できます。基本的には、これ以上よくならない症状固定までの期間が対象です。
【入通院慰謝料】
入院や通院を強いられた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。実際に治療にかかった期間や日数をベースに計算されます。
【休業損害】
けがの治療のために仕事を休み、減収した分の補償を請求できます。会社員だけでなく、パートやアルバイト、自営業者、主婦や主夫の家事労働も金銭に換算して請求できます。
【介護費用】
入院や通院に家族が付き添った場合の日当、または職業付添人を依頼した費用を請求できます。脳損傷により、体は動いても目を離すと危険がある状態の場合、退院後も将来にわたる介護費用が認められる可能性があります。
【交通費】
病院へ通う際の電車やバス代の実費です。頭部外傷によるめまいやふらつき、パニック症状などで公共交通機関の利用が困難な場合は、タクシー代が認められることもあります。
【装具や器具代】
けがの治療や、後遺障害により生活に必要となった器具の購入や修理の費用です。義肢、義眼、めがね、コンタクトレンズ、松葉杖、車椅子、介護用ベッドなどがあります。
これらを合計すると、頸椎骨折の賠償額は非常に複雑かつ高額になります。すべての損害を正しく算定するには、専門的な知識が不可欠です。
6. 頸椎骨折の後遺症について、適正な後遺障害等級の認定を受けるためのポイント
頸椎骨折による後遺症が残った場合に、適正な後遺障害等級を受けるためには、以下の3点が重要になります。
事前認定ではなく、被害者請求を行う
医師に適切な後遺障害診断書を作成してもらう
後遺症の客観的な状態を示す検査を受ける
以下で詳しく解説します。
6-1. 事前認定ではなく、被害者請求を行う
後遺障害の等級認定審査は、原則として面接などはなく、提出された資料のみに基づく書面審査です。そのため、提出する書類の質と内容が認定結果を大きく左右します。
申請手続きには、加害者側の任意保険会社に手続きを一任する事前認定と、被害者自身が必要な資料をそろえて申請する被害者請求の2つの方法があります。
相手の保険会社任せとなる事前認定では、被害者の等級認定に有利となるような追加の証明書や意見書などまで積極的に収集し、提出してくれることは期待できません。
これに対し被害者請求では、弁護士などのサポートを得ながら、被害者自身が主体となって提出資料を精査することができます。
6-2. 医師に適切な後遺障害診断書を作成してもらう
審査で最も重視されるのが、医師が作成する後遺障害診断書です。しかし、医師は治療のプロであっても、後遺障害認定の基準に詳しいとは限りません。
医療現場での「治癒」の判断と、賠償を検討する際の「症状固定」や「後遺障害」の概念には、ずれが生じることがあります。適正な後遺障害認定を受けるためには、医師に適切な後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
6-3. 後遺症の客観的な状態を示す検査を受ける
「首が痛い」「しびれる」などの自覚症状だけでは、高い後遺障害等級は認められません。レントゲンやCT、MRIによる画像診断はもちろん、神経の通り道を調べる電気生理学的検査など、症状を客観的に証明できる検査を適切な時期に受ける必要があります。弁護士と相談しながら、認定に必要な検査の受け漏れがないよう準備を進めることが大切です。
被害者請求を行う際には、これらの診断書に加え、画像データのCD-Rなどや診療報酬明細書、さらには支払請求書、印鑑証明書、交通事故証明書、事故発生状況報告書などの基本書類を自ら収集し、提出する必要があります。特に画像データは、客観的な異常の有無を判断する決定的な証拠となり得るため、画像の質や撮影時期も重要です。
7. 頸椎骨折で高額な損害賠償が認められた事例
頸椎骨折で高額な損害賠償が認められたケースを、2例紹介します。
7-1. 事例1:第6頸椎骨折や頸椎ねんざなどを負い、574万円の賠償金が認められたケース
夜間、路上に立っていた会社代表者の原告に被告の車が衝突し、原告が第6頸椎骨折や頸椎ねん挫などを負った事案です(さいたま地方裁判所令和3年5月28日判決)。
被害者本人である原告は後遺障害14級9号に基づく損害を請求し、また被害者が代表を務める原告会社は、休業中の被害者に役員報酬を支払ったことで間接的に負った損害などを請求しました。
判決では、両手のしびれを事故による後遺障害14級9号と認定し、原告個人の請求に加え、原告会社の損害も一部認められた結果、574万円の損害の支払いを認めました。
7-2. 事例2:脳挫傷や第2頸椎骨折などを負い、約887万円の賠償金が認められたケース
被告が運転する車が、幹線道路を横断しようとした歩行者の原告に衝突した事案です(名古屋地方裁判所令和2年12月14日判決)。
原告は脳挫傷や第2頸椎骨折などを負い、高次脳機能障害など併合4級の後遺障害が残りました。裁判所は自賠責認定の9級より重い7級と判断したものの、原告には統合失調症の既往症があったため、その分を差し引いて逸失利益を算定し、約887万円の支払いを命じました。
8. 交通事故で頸椎骨折をした被害者や家族が弁護士に依頼するメリット
頸椎骨折を負うような重大な事故では、早い段階で弁護士を味方につけることが非常に有効です。弁護士は、適切な検査のアドバイスや医師への働きかけを行うほか、煩雑な被害者請求の手続きをすべて代行するなど、適正な後遺障害等級の認定に向けて手厚くサポートします。
また、将来の介護費や休業損害など、専門知識がないと見落としがちな損害項目も、プロの視点から精査することで請求漏れを徹底的に防ぐことができます。
さらに、事故状況を精査し、ドライブレコーダーなどの客観的な証拠に基づいて交渉することで、相手側の保険会社から不当に高い過失割合を押し付けられないよう反論することが可能です。
賠償額の算定でも、保険会社独自の低い基準ではなく、過去の裁判例に基づき最も高額な弁護士基準で交渉を行うため、賠償額の大幅な増額が期待できます。
加えて、保険会社とのわずらわしいやりとりの窓口をすべて弁護士に任せることで、精神的なストレスからも解放され、自身は治療やリハビリ、家族との大切な時間に専念できるようになります。
なお、自分や家族の自動車保険などに弁護士費用特約が付帯されている場合は、原則として保険会社が弁護士費用を負担してくれるため、実質的な自己負担なしで依頼できるケースが多々あります。まずは特約の有無を確認することを強くお勧めします。
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9. 交通事故による頸椎骨折に関してよくある質問
Q. 頸椎骨折のリハビリが長期化しても、保険会社に治療費を打ち切られない方法は?
事故から数カ月経つと、相手の保険会社が「もう治療は十分でしょう」と費用支払いの打ち切りを打診してくることがあります。
しかし、まだ骨が完全についていない場合や、痛みが強くリハビリが必要な場合は、医師から依然として治療継続が必要であることを示すの診断書や意見書を出してもらうことで、打ち切りを延長できる可能性があります。
独断で治療をやめず、必ず医師と弁護士に相談してください。
Q. 頸椎骨折でも、後遺障害非該当となることはある?
骨折が非常に軽微で「完治した」とみなされた場合や、痛みがあっても画像などの医学的な裏付けが乏しい場合は、後遺障害「非該当」となります。痛みやしびれが継続している場合は、神経学的検査の結果などを詳細に記した後遺障害診断書を作成してもらうことが、非該当を避けるために最も重要です。
Q. 頸椎骨折によるリハビリ器具の購入費用は請求できる?
コルセットやリハビリ用具などの購入費は、医師の指示に基づく必要性があれば損害として請求可能です。ただし、被害者側にも不注意(過失)がある場合は、その割合に応じて賠償額が減額されます。
Q. 頸椎骨折の死亡率はどれくらい? 高齢者のほうが高い?
頸椎骨折全体の具体的な死亡率データはさまざまですが、頭に近い上位頸椎の骨折の場合は、生命維持に関わる神経に近いため危険度が高まります。
特に高齢者の場合、骨粗しょう症により骨がもろくなっていることが多く、軽微な衝撃でも粉砕骨折しやすいため、合併症や寝たきりから死にいたるリスクが若年層より高いという統計的な傾向があります。
10. まとめ 交通事故で頸椎骨折をしたら、適切な補償のために弁護士に相談を
交通事故による頸椎骨折は、人生を一変させてしまうほどの重大なけがです。今後の仕事や生活、そして適切な補償を受けられるかという不安は計り知れません。
適切な治療を受け、将来のために正当な賠償金を勝ち取るためには、医学的にも法律的にも正しい対策により、適正な後遺障害認定を受けることが重要です。一人で悩まず、まずは交通事故案件の経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は、適切な検査のアドバイスや医師への働きかけを行うだけでなく、複雑な被害者請求の手続きをすべて代行するなど、適正な後遺障害等級の認定に向けて手厚くサポートします。
(記事は2026年2月1日時点の情報に基づいています)
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