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1. 後遺障害1級とは|最も重い等級
交通事故に遭ってけがを負うと、治療を続けても完治せず、後遺症が残ることがあります。後遺症の症状や程度に応じて認定される区分が後遺障害等級です。後遺障害等級は、介護を要する1級と2級、介護を要しない1級から14級の計16段階に分けられています。
後遺障害1級とは、介護を要する後遺障害である要介護1級を指す場合と、介護は不要とされるものの極めて重い障害が残る後遺障害1級を指す場合、さらにその両方を指す場合があります。
いずれも交通事故の後遺障害のなかで最も重い部類に位置づけられ、深刻な障害が残り日常生活や就労に著しい支障をきたす状態です。
2. 後遺障害1級(要介護)の症状と認定基準
後遺障害1級のうち、要介護の症状と認定基準は、自動車損害賠償保障法施行令別表第一によって、次のとおり1号と2号が定められています。
等級 | 号 | 介護を要する後遺障害 |
|---|---|---|
要介護1級 | 1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
要介護1級 | 2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
それぞれ以下で詳しく解説します。
2-1. 要介護1級1号|神経系統の障害による要介護状態
要介護1級1号に該当するのは、神経系の障害による要介護状態です。交通事故によって脳や脊髄(せきずい)など神経系統を損傷して障害が残ったことで、食事や入浴、排せつ、着替えなど生命維持に必要な動作ができなくなり、常に介護が必要な状態のことです。
具体的には、重度の高次脳機能障害や外傷性脳挫傷、脊髄損傷による、以下のような症状があります。
記憶障害:新しい事実を覚えられなくなり、記憶が形成されない
社会的行動障害:自発性の低下、自己中心的、脱抑制や易怒性(暴言や暴力、キレやすくなるなど)、依存、幼稚性、固執性、病識低下など
身体機能のまひ
2-2. 要介護1級2号|胸腹部臓器などの障害による要介護状態
要介護1級2号に該当するのは、胸腹部臓器の損傷により、呼吸器に重度の障害がある場合です。
具体的には、以下のような症状があります。
呼吸機能の低下によって、常に介護が必要
重度の呼吸困難のため、連続しておおむね100メートル以上歩くことができない
3. 介護を要しない後遺障害1級の症状と認定基準
後遺障害1級のうち、要介護ではないものの症状と認定基準は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二によって、次のとおり1号から6号まで定められています。
等級 | 号 | 後遺障害 |
|---|---|---|
1級 | 1号 | 両眼が失明したもの |
2号 | 咀嚼(そしゃく)および言語の機能を廃したもの | |
3号 | 両上肢をひじ関節以上で失ったもの | |
4号 | 両上肢の用を全廃したもの | |
5号 | 両下肢をひざ関節以上で失ったもの | |
6号 | 両下肢の用を全廃したもの |
それぞれ以下で詳しく解説します。
3-1. 1級1号|両眼の失明
非要介護の1級1号には「両眼が失明したもの」が該当します。
失明とは、眼球を摘出などで失った状態や明暗を弁じ得ない状態、およびようやく明暗を弁ずることができる状態を言います。
「明暗を弁じ得ない」とは、暗室で被検者の目の前で照明を点滅させ、明暗の区別ができない場合や、被検者の目の前で手のひらを上下左右に動かし、動きの方向を認識できない場合などが該当します。
3-2. 1級2号|咀嚼(そしゃく)機能と言語機能の両方を失った状態
非要介護の1級2号には「咀嚼(そしゃく)および言語の機能を廃したもの」が該当します。「機能を廃した」とは、機能を失っている状態のことです。
「咀嚼機能を廃したもの」とは、流動食以外は摂取できない状態を指します。咀嚼機能の障害は、上下のあごと歯がどのようにかみ合っているか(上下咬合)や、歯の並び方や配置(排列状態)、下あごの開閉運動などの状態から総合的に判断されます。
「言語の機能を廃したもの」とは、口唇音(こうしんおん)、歯舌音(ぜっしおん)、口蓋音(こうがいおん)、喉頭音(こうとうおん)の4種の語音のうち、3種以上の発音ができない状態のことです。
4種の語音は、以下のとおりです。
口唇音:ま行音、ぱ行音、ば行音、わ行音、ふ
歯舌音:な行音、た行音、だ行音、ら行音、さ行音、しゅ、し、ざ行音、じゅ
口蓋音:か行音、が行音、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん
喉頭音:は行音
咀嚼機能を失ったことにより流動食以外は摂取できず、かつ上記のうち3種以上の語音を発音できない場合に、1級2号に該当します。
3-3. 1級3号|両腕のひじ関節以上を失ったもの
非要介護の1級3号には「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」が該当します。「上肢」とは肩から先の腕のことで、「ひじ関節以上で失ったもの」とは、以下のいずれかに該当する状態を指します。
肩関節で肩甲骨と上腕骨を離脱した(肩から先の腕を失った)
肩関節とひじ関節の間で上肢を切断した(ひじと肩の間から先の腕を失った)
ひじ関節で上腕骨と橈骨(とうこつ)および尺骨(しゃっこつ)を離脱した(ひじから先の腕を失った)
3-4. 1級4号|両上肢の用を全廃したもの
非要介護の1級4号には「両上肢の用を全廃したもの」が該当します。「上肢の用を廃した」とは、肩関節、ひじ関節、手関節の3大関節すべてが硬直し、かつ手指の全部の用を廃した状態を言います。
「手指の全部の用を廃した」とは「手指の末節骨の半分以上を失い、または中手指節関節もしくは近位指節間関節(親指にあっては、指節間関節)に著しい運動障害を残すもの」とされており、以下の場合が該当します。
第1関節から先の骨の長さの2分の1以上を失った
指の付け根の関節または親指以外の第2関節(親指の場合は第1関節)の可動域が、障害がないときの可動域角度の2分の1以下に制限された
親指を外側に広げる動きや、手のひら側に近づける動きのいずれかが、障害がないときの2分の1以下に制限された
自分の指がどのように動いているか、どこにあるかといった感覚や、触覚や温度感覚などが完全に消失した
また、上腕神経叢(じょうわんしんけいそう)の完全まひも「上肢の用を廃した」に含まれます。上腕神経叢とは腕にある5本の神経が集まり複雑に交差している部分のことで、この部分が交通事故の衝撃で損傷して腕の機能が完全にまひした状態が該当します。
3-5. 1級5号|両下肢をひざ関節以上で失ったもの
非要介護の1級5号には「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」が該当します。下肢とは股関節から先の脚部や足先までを言い、「ひざ関節以上で失ったもの」とは、以下のいずれかの場合を指します。
股関節で、骨盤の左右にある寛骨(かんこつ)と大腿骨を離脱した(骨盤から先の脚を失った)
股関節とひざ関節の間で脚を切断した
ひざ関節で大腿骨と脛骨(けいこつ)および腓骨(ひこつ)を離脱した(ひざから先を失った)
3-6. 1級6号|両下肢の用を全廃したもの
非要介護の1級6号には「両下肢の用を全廃したもの」が該当します。「下肢の用を全廃したもの」とは、股関節、ひざ関節、足関節の3大関節すべてが硬直した状態を指します。
また、3大関節の硬直に加え、足指全部が硬直したものも含まれます。
4. 後遺障害1級の認定を受けた場合に、請求できる慰謝料の種類と相場
後遺障害1級の認定を受けた場合に請求できる慰謝料には、主に「後遺障害慰謝料」と「入通院慰謝料」があります。慰謝料の算定基準や、それぞれの慰謝料について説明します。
4-1. 【重要】慰謝料の3種類の算定基準
慰謝料を算定する際の基準には、大きく分けて「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」の3つがあります。
【自賠責基準】
自賠責基準とは「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」によって定められた基準です。
自賠責基準は最低限の補償であり、支払限度額の範囲内で基準に従って支払われるため、満額が受け取れるとは限りません。3つの基準のなかでは最も低額となります。
【任意保険基準】
任意保険基準とは、それぞれの任意保険会社が約款で定めている保険金額の算定基準です。自賠責基準よりも高額となることがほとんどですが、弁護士基準(裁判所基準)よりは低額で、3つの基準のなかでは真ん中に位置づけられます。なお、任意保険基準は一般には公開されていません。
【弁護士基準(裁判所基準)】
弁護士基準(裁判所基準)とは、過去の裁判例で支払われた金額をもとにした基準で、弁護士が実際に扱う事案で請求する慰謝料の金額です。3つの基準のなかでは最も高額であり、事案によっては任意保険基準で提示された慰謝料額の2倍近い金額になることもあります。
4-2. 後遺障害慰謝料|弁護士基準では2800万円が相場
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料です。
後遺障害1級の場合、後遺障害慰謝料の自賠責基準と弁護士基準の金額は、それぞれ以下のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準(裁判所基準) |
|---|---|---|
要介護1級(被扶養者あり) | 1850万円 | 2800万円 |
要介護1級(被扶養者なし) | 1650万円 | 2800万円 |
非要介護1級(被扶養者あり) | 1350万円 | 2800万円 |
非要介護1級(被扶養者なし) | 1150万円 | 2800万円 |
実際の裁判では、後遺障害1級の場合、多くのケースで2800万円の後遺障害慰謝料が認定されています。
4-3. 入通院慰謝料
後遺障害慰謝料のほかに、治療のための入院や通院にかかる慰謝料(入通院慰謝料)も請求することが可能です。一般的に、入通院慰謝料は入院や通院に要した期間や日数に応じて金額が算出されます。また、入通院慰謝料にも3つの基準があり、自賠責基準と弁護士基準での計算方法を紹介します。
【自賠責基準での入通院慰謝料】
4300円×対象日数
※対象日数は「実際に入通院した日数×2」または「入通院期間」のうち、少ないほうの日数
なお、自賠責基準における入通院慰謝料の上限額は120万円です。
【弁護士基準での入通院慰謝料】
弁護士基準での入通院慰謝料は、事故のけがが軽傷の場合と重傷の場合で金額が異なります。後遺障害1級と診断されるケースでは、重傷に該当する可能性が高いです。
以下は、交通事故で重傷を負った場合の入通院慰謝料の早見表です。
表の見方を説明します。治療終了までの入院期間と通院期間の月数を計算し、それが交わる点で慰謝料を算出します。たとえば交通事故で重傷を負い、入院期間1カ月・通院期間3カ月の場合、重傷用の表で入院期間と通院期間が交わるマスの数字は「115」となっています。したがって、この場合の入通院慰謝料は115万円です。なお、1カ月に満たない日数は日割りで計算します。
ここで具体例を挙げて、自賠責基準と弁護士基準の入通院慰謝料額を比較してみましょう。
【例1:入院期間ゼロ・通院期間3カ月の場合(週2回の頻度で通院、実通院日数24日)】
自賠責基準では「4300円×対象日数」で計算します。この場合の対象日数は「実際に入通院した日数(24日)×2=48日」と「入通院期間3カ月(90日)」のいずれか少ないほうなので、48日となります。したがって、自賠責基準の入通院慰謝料額は「4300円×48日=20万6400円」です。
一方、弁護士基準では上の重傷用の表で「入院期間0カ月」と「通院期間3カ月」が交差する数字を見ます。「73」となっているため、弁護士基準での入通院慰謝料額は73万円です。
【入院期間1カ月・通院期間6カ月の場合(退院後に週2回の頻度で通院、実入通院日数78日)】
自賠責基準における対象日数は「実際に入通院した日数(78日)×2=156日」と「入通院期間7カ月(210日)」のいずれか少ないほうなので、156日となります。したがって、自賠責基準の入通院慰謝料額は「4300円×156日=67万800円」です。
一方、弁護士基準では上の重傷用の表で「入院期間1カ月」と「通院期間6カ月」が交差する数字を見ます。「149」となっているため、弁護士基準での入通院慰謝料額は149万円です。
【入院6カ月・通院期間ゼロの場合(実入院日数180日)】
自賠責基準における対象日数は「実際に入通院した日数(180日)×2=360日」と「入通院期間6カ月(180日)」のいずれか少ないほうなので、180日となります。したがって、自賠責基準の入通院慰謝料額は「4300円×180日=77万4000円」です。
一方、弁護士基準では上の重傷用の表で「入院期間6カ月」と「通院期間0カ月」が交差する数字を見ます。「244」となっているため、弁護士基準での入通院慰謝料額は244万円です。
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5. 後遺障害1級で慰謝料以外にもらえる賠償金は?
後遺障害1級に認定されると、慰謝料以外に以下の賠償金を受け取ることができます。
逸失利益
将来の介護費
入院費、休業損害など
以下で詳しく解説します。
5-1. 逸失利益|将来得られなくなった収入
後遺障害による逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が減少するために、将来にわたって得られなくなった収入のことです。
逸失利益の計算式は以下のとおりです。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
【基礎収入】
事故に遭わなければ本来稼いでいたであろう収入で、一般的には直近である事故前年の収入額を用います。
【労働能力喪失率】
後遺障害により労働能力がどの程度低下してしまったかを数値で表したものです。後遺障害等級に応じて一応の基準が決められており、最も重い後遺障害1級の労働喪失率は100%とされています。
【労働能力喪失期間】
労働能力喪失による収入の減少が継続する期間です。後遺障害が残る事案では一般的に、これ以上治療しても回復が見込めない「症状固定」と診断されて治療を終了したときから、67歳までの期間を労働能力喪失期間とします。
【ライプニッツ係数】
逸失利益は将来発生すると考えられる損害を一括で受け取るため、運用などによる利回りなどを考慮して、金額を現在の価値に換算する必要があります。その際に用いられる数値が「ライプニッツ係数」で、労働能力喪失期間と法定利率によって算出されています。
例として、事故前年の基礎収入が600万円の40歳の人が、交通事故に遭い後遺障害1級と認定された場合の逸失利益の計算式は、以下のようになります。
600万円(基礎収入)×100%(労働能力喪失率)×18.3270(労働能力喪失期間27年に対応するライプニッツ係数)=1億996万2000円
5-2. 将来の介護費
症状固定後に必要となるであろう介護費用も請求できる可能性があります。計算式は以下のとおりです。
年間額×平均余命年数に対応するライプニッツ係数
【年間額】
原則として、介護福祉士や看護師などの職業付添人にかかる費用は実費全額、近親者付添人は1日あたり8000円を目安に計算します。したがって、近親者付添人にかかる年間額は「8000円×365日=292万円」になります。
平均余命年数は、厚生労働省が公表している生命表に基づき認定します。
たとえば、事故前年の基礎収入が600万円の40歳の人が交通事故で要介護の後遺障害1級と認定された場合、平均余命年数は約42年です。したがって、近親者付添人の介護が必要となった際の将来の介護費は「292万円(年間基準額)×23.7014(42年に対応するライプニッツ係数)≒6920万円」です。
5-3. その他|入院費、休業損害など
そのほか、次のような費用や損害賠償などを請求できることがあります。
【治療費】
交通事故によるけがの治療費です。必要かつ相当な範囲で損害として認められます。
【入院雑費】
寝具や衣類、洗面具など、入院中に必要となる日用品雑貨費のことで、必要かつ相当な範囲内で認められるものです。
【休業損害】
事故によるけがの治療期間中に、治療のために働けなかったことで生じた収入の減少を指します。事故によるけががなければ就労ができ、本来得られていたであろう金額を休業損害として請求できます。
【付添看護費】
医師の指示またはけがの程度、被害者の年齢などにより付添人の看護が必要である場合、被害者本人の損害として認められます。職業付添人の場合は実費を、近親者付添人では一定の日額が定められています。
【家屋改造費】
被害者のけがや後遺障害の程度、内容を考慮し、玄関や浴室などを改造する必要性が認められれば、相当額が損害として認められます。
6. 障害者等級1級の賠償金は総額でいくらになる?
ここまでの内容をふまえて、要介護の後遺障害1級に認定された場合に請求できる賠償額の合計を計算してみます。
年収600万円の40歳男性が後遺障害1級(要介護)の認定を受け、近親者付添人による常時介護を必要とするケース
【後遺障害慰謝料:2800万円】
後遺障害1級の場合、実際の多くの裁判では慰謝料として2800万円が認定されています。
【逸失利益:1億996万2000円】
①基礎収入
年収600万円のため、基礎収入の額には「600万円」を用います。
②労働能力喪失率
後遺障害1級(要介護)の場合の労働能力喪失率は「100%」です。
③労働能力喪失期間とライプニッツ係数
40歳男性の67歳までの労働喪失期間は「27年」になります。27年に対応するライプニッツ係数は「18.3270」です。
④逸失利益の計算
以上より、モデルケースの逸失利益は以下のとおりです。
600万円(①)×100%(②)×18.3270(③)=1億996万2000円
【将来の介護費用:6920万8088円】
①介護費用(年額)
近親者付添人の場合は1日あたり8000円で計算するため、年額は292万円になります。
②平均余命年数とライプニッツ係数
40歳男性の平均余命年数は約「42年」で、42年に応じたライプニッツ係数は「23.7014」です。
③将来の介護費用の計算
292万円(①)×23.7014(②)=6920万8088円
これらの後遺障害慰謝料、逸失利益、将来の介護費用の金額を合計すると、請求できる賠償額の合計は2億717万88円になります。
ただし、これには症状固定前の治療費や慰謝料は含まれておらず、あくまで症状固定後に後遺障害1級(要介護)の認定を受けたあとに請求できる賠償金の額です。
7. 後遺障害等級認定と損害賠償請求の流れ
後遺障害等級認定と損害賠償請求は、次のような流れで進みます。
7-1. 医師の指示に従って通院し、症状固定の診断を受ける
交通事故によりけがをした場合、まずは医師の指示に従って通院し、治療を受けます。このとき、治療の継続や症状の完治については、自身で判断することなく、必ず医師の指示や判断に従うよう注意してください。
ある程度の期間、治療を続けると症状が完治する場合もあれば、症状が完治せずに残ってしまう場合もあります。このように、これ以上治療を継続したとしても症状の回復が見込めない状態を「症状固定」と言います。
症状固定と診断されるとそれ以降の治療費は支払われず、残った症状に対しては後遺障害等級認定の結果によって、後遺障害慰謝料などとして賠償されます。
そのため、交通事故に遭ったときにはまず医師の指示に従い、症状が完治または症状固定の診断を受けるまで治療に専念することが重要です。
7-2. 医師から後遺障害診断書の交付を受ける
後遺症が残り、後遺障害等級認定の申請を行う場合には、医師が作成した後遺障害診断書を提出する必要があります。そのため、症状固定の診断を受けたら、医師に後遺障害診断書の作成を依頼してください。
7-3. 後遺障害等級の認定を受ける|被害者請求がお勧め
後遺障害等級認定の申請方法には、大きく分けて「事前認定」と「被害者請求」の2つがあります。
事前認定とは、加害者側の保険会社が自賠責保険会社に対し、被害者の後遺障害等級の有無や程度について支払いの見込みを確認する制度です。
被害者請求とは、被害者側が自賠責保険会社に対し、後遺障害等級の申請を直接行うことを言います。
つまり、後遺障害等級認定の申請を誰が行うかが大きな違いです。被害者請求の場合は自分で申請に必要な証拠などを準備するため、労力がかかる一方、有利な証拠を提出できる大きなメリットがあります。
そのため、後遺障害等級が認定される可能性を少しでも高めたいのであれば、被害者請求がお勧めです。
7-4. 示談交渉をする|まとまらないときはADRや訴訟
後遺障害等級が認定されたあとは、その等級に基づき、加害者側の保険会社と賠償金の示談交渉を行います。
示談交渉がまとまらない場合は交渉を打ち切り、ADR(裁判外紛争解決手続)や訴訟に移行するかを検討します。
ADRとは、裁判以外の手段で紛争の解決を図る手続きのことです。日弁連交通事故相談センターや交通事故紛争処理センターなどの機関が被害者側と加害者側の間に入り、和解のあっせんを行います。ADRは訴訟に比べて利用しやすく、柔軟な解決を図ることが期待できます。
一方、訴訟の場合は判決により最終的な判断が下されるものの、審理や手続きに相応の時間が必要です。
8. 後遺障害1級の賠償金を増額するためのポイント
後遺障害1級の賠償金を少しでも多く受け取るためには、特に以下の4点が重要です。
8-1. 損害を漏れなく把握し、集計する
交通事故による賠償金は損害項目が多岐にわたります。
一般の人が自分で保険会社との交渉を行いながら、数多くの損害項目を調べ、実際に損害として認められるかを判断し、損害額を集計して請求することは現実的ではありません。
特に後遺障害1級の場合は、さまざまな損害項目があり、賠償金も非常に高額です。交通事故による賠償金の請求や保険会社との交渉には、早い段階から弁護士に入ってもらうことをお勧めします。弁護士と協力しながら損害を見落とすことなく把握し、集計することによって、賠償金を増額できることがあります。
8-2. 後遺障害診断書に認定基準に沿った記載がなされていることを確認する
医師が作成する後遺障害診断書が認定基準に沿って記載されているかを確認することが大切です。まれに十分ではない内容の後遺障害診断書が作成され、それに基づき後遺障害等級の認定手続きが行われてしまう場合があるからです。
具体的には、自覚症状の一部しか記載されていないことや、自覚症状を証明する他覚所見(検査などを通じて客観的に確認できる異常)の記載が不十分であること、神経学的検査、MRI検査、CT検査がされているのにその記載がないことなどが挙げられます。
後遺症の内容を十分に反映した後遺障害診断書を作成してもらうためには、自身の症状を詳細に医師に伝えることなどが重要です。
8-3. 弁護士基準で賠償金額を算定し、請求する
交通事故による慰謝料には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準があり、用いる基準によって慰謝料額に2倍以上の差が出ることもあります。
被害者本人が保険会社と交渉するケースでは、多くが任意保険基準で慰謝料を提示されています。しかし、被害者には本来、弁護士基準で慰謝料を請求し、支払いを受ける権利があります。そのため、加害者側の保険会社から提示された慰謝料の金額をうのみにせず、弁護士基準で計算したうえで、適切な慰謝料額を確認することが非常に重要です。
8-4. 弁護士に依頼する
弁護士に依頼すると、すべての損害の項目を漏れなく確認したうえで、弁護士基準に基づいた適切な金額を請求して交渉を行うため、自身で対応する場合よりも賠償金が増額される可能性が高くなります。
なお、加入している保険に弁護士費用特約が付いている場合、保険会社から弁護士費用が支払われるため、弁護士費用を自己負担することなく弁護士に依頼できる場合があります。まずは加入している保険会社に弁護士費用特約の有無を確認することをお勧めします。
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9. 後遺障害1級の人が利用できる主な公的支援制度
後遺障害1級に認定されると、以下の公的支援制度を利用できます。
9-1. 身体障害者手帳制度
後遺障害等級と身体障害の等級認定は別のものですが、後遺障害1級の認定を受けた場合、身体障害1級にも該当し、身体障害者手帳の交付を受けられることが少なくありません。
身体障害者手帳を所持していると、障害者雇用、障害者職業能力開発校や福祉施設などの利用、税金や公共交通機関利用の優遇など、生活を支えるさまざまなサポートを受けられます。
また、障害の内容や程度などの要件を満たす場合には、障害年金も受給できる場合があります。障害年金は、隔月でまとまった金額が支給されるため、事故後の生活の支えとなります。自身の後遺障害が受給の要件を満たしているか確認することをお勧めします。
9-2. 労災保険給付
労働災害(労災)とは、労働者が労務に従事していたことによって負傷などを被ることを言い、労働災害に対して保険給付を行う制度を労災保険と言います。
交通事故の場合でも、勤務時間中の運転による事故や通勤中の事故などは労働災害に該当し、労災保険給付を請求できる場合があります。
労働災害による傷病で通院治療するときや、労働災害による傷病の療養のために労働できず賃金を受けられないときは、労災保険給付を請求することで、療養の費用や通院費などの給付を受けることができます。
10. 後遺障害1級に関してよくある質問
Q. 後遺障害等級の認定を受けたあと、等級の変更を求めることはできる?
損害保険料率算出機構が行った損害調査の結果に基づく後遺障害の等級認定に不服がある場合には、「異議申立て」をすることで認定の再審査を求めることができます。
また、自賠責保険や共済紛争処理機構などの紛争処理機構(ADR制度)に対して審査(調停)申立手続きを行い、その手続きのなかで医師や弁護士など公正中立な専門家により等級認定結果を再審査してもらう方法があります。
これらの手続きによって、等級の変更が認められる場合があります。
Q. 症状固定の診断を受ける前に、加害者側に対して賠償金を請求できる?
加害者本人や加害者側の保険会社との示談交渉は、症状固定の診断と後遺障害の等級認定を受けてから進めることが原則です。
ただし症状固定の診断を受ける前でも、以下のような一部の賠償金は請求できます。
【仮渡金請求】
賠償額が確定する前に、被害者から自賠責保険に対し、5万円から40万円の範囲の所定額を仮渡金として請求できます。
【労災保険給付の請求】
勤務時間中の交通事故や通勤途中の交通事故は労働災害に該当し、労災保険給付を請求できる場合があります。労災保険給付の請求は、症状固定の診断を待たずに行うことが可能です。
11. まとめ 後遺障害1級と認定されたら、適正な補償を受けるために弁護士に相談を
後遺障害1級は、後遺障害のなかで最も症状が重く、被害者自身だけではなく家族にも影響を及ぼすことがほとんどです。賠償の仕組みや公的支援制度を知っておくことは、将来への不安を軽減することにもつながります。
後遺障害1級と認定された場合の賠償金請求には、高度な専門的知識が必要です。弁護士に相談することで、適正な補償を受けられる可能性が大きく広がります。相手側の保険会社からの提示内容だけで判断せず、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2026年4月1日時点の情報に基づいています)
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