目 次
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」で
交通事故トラブルに強い弁護士を探す
交通事故トラブルに強い
弁護士を探す
1. 無過失責任とは?「過失責任」との違いは?
「無過失責任」とは、相手方が受けた損害について、自分に故意または過失がなくても損害賠償責任を負うことを意味します。
過失責任 | 無過失責任 | |
|---|---|---|
過失がない行為者の 責任の有無 | 損害賠償責任を負わない | 損害賠償責任を負う |
原則 or 例外 | 原則 | 例外 ※法律で特に定められている場合のみ、 無過失責任が適用される |
民法では、故意または過失がある場合に限り責任を負う「過失責任」が原則とされています。無過失責任が適用されるのは、法律によって特に定められている場合のみです。
たとえば以下の責任については、被害者救済や事業者に対して危険防止の取り組みを促すなどの観点から、無過失責任が認められています。
工作物の設置または保存の瑕疵に関する所有者の責任(工作物責任)
鉱害や原子力災害に関する事業者の責任
大気汚染や水質汚濁に関する事業者の責任
製造物責任
2. 交通事故の運行供用者責任は、無過失責任に近い
交通事故を起こした運転者(=加害者)は、相手方(=被害者)に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負います。不法行為責任は過失責任とされており、加害者の過失については被害者が立証責任を負います。被害者が加害者の注意義務違反(安全運転義務違反など)を立証できなければ、加害者は不法行為責任を負いません。
他方で、被害者が受けた人身損害(=けが・後遺症・死亡による損害)については、自動車損害賠償保障法(自賠法)によって「運行供用者責任」が認められています。「運行供用者」とは、自分のために自動車の運行を支配・利用している者を指します。たとえば、次の者が運行供用者に当たります。
自家用車を自ら運転している場合 → 運転者本人
社用車の場合 → 車両を所有する会社
レンタカーの場合 → レンタカー会社
タクシーの場合 → タクシー会社
運行供用者責任では、注意義務違反がなかったことの立証責任が加害者側に転換されます。つまり、運行供用者は「自分も運転者も注意義務を果たしていた」などの要件を証明できない限り、責任を免れません。
運行供用者責任は、厳密には無過失責任とは異なりますが、実務上はきわめて無過失責任に近い形で運用されています。被害者としては、相手方の不法行為責任を追及するのが難しいとしても、運行供用者責任を追及する余地があることを覚えておきましょう。
3. 運行供用者責任を免れるために証明すべき3つの事項
交通事故による人身損害について運行供用者が免責されるためには、次の3つの事項を証明する必要があります。
自己および運転者が運行に関し注意を怠らなかったこと
被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと
実際には、3つの事項すべてを立証することは困難なので、運行供用者の免責はほとんど認められません。運行供用者責任が無過失責任に近いと言われているのはそのためです。
3-1. 自己および運転者が運行に関し注意を怠らなかったこと
運行供用者はまず、自己が事故車両の運行に関して注意を怠らなかったことを証明しなければなりません。
運行供用者が運転者本人である場合は、道路交通法上の交通ルールを完全に遵守しており、自分に全く過失がないことを証明する必要があります。運行供用者と運転者が異なる場合は、運転者として適任の者を選任したうえで、運行上の注意点に関する教育・指導や運行状況の監督などを適切に行ったことを証明しなければなりません。
また、運行供用者と運転者が異なる場合は、運転者が事故車両の運行に関して注意を怠らなかったことも証明する必要があります。運転者に少しでも過失があれば、運行供用者責任を免れることはできません。
3-2. 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
運行供用者が免責されるためには、被害者または第三者に事故原因となる故意または過失があったことも証明しなければなりません。
さらに、前述の「運行上の注意義務を尽くしたこと」の要件と合わせると、実務上は相手方に全面的な過失がある事故(いわゆる10対0の事故)に近いケースでなければ免責は認められにくいとされています。
3-3. 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと
最後に、事故車両に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明しなければなりません。日常の点検・整備において相当の注意を払っても発見できないような欠陥や障害でさえ、現代の工業技術の水準上避けられないものでない限り、免責は認められないと解されています。
4. 運行供用者責任が認められた裁判例
福井地裁平成27年4月13日判決の事案では、Gが新潟県長岡市内で開催されるコンサートに参加するために、AとKを同乗させたうえでG所有の自動車(G車)を運転していました。
Gは眠気をこらえきれなくなったため、Aに運転を代わったところ、Aの居眠り運転が原因で交通事故が発生しました。事故の相手方車両はEが所有する社用車で、事故当時はFが運転していました(F車)。
Gは搬送先の病院で死亡したため、Gの相続人である妻Bと両親C・Dは、Eに対して運行供用者責任および使用者責任に基づく損害賠償を請求しました。Eが運行供用者責任を免れるためには、運転者であるFの無過失を証明しなければなりません。
本件では、居眠り運転をしていたAが対向車線に自車を逸脱させており、Aにきわめて重大な過失があることは明らかでした。しかしながら、裁判所はFについても、F車からG車の方向の見通しを左右するF車と先行車2台の位置関係が証拠上明らかでないことを指摘し、G車を実際よりも早く発見して急制動の措置を講じて衝突の衝撃を減ずることや、クラクションを鳴らして衝突を回避することができた可能性を否定できないとしました。つまりFの無過失は立証されていないため、Eは運行供用者責任を免れないものとされました。
他方で、Eの使用者責任が認められるためには、運転者であるFの過失を請求者側(B・C・D)が立証しなければなりません。裁判所は、Fが衝突を回避できる可能性がないとはいえないとしても、あったとまでは認定できないとして、Eの使用者責任を否定しました。
本件では、立証責任の所在が異なることにより、運行供用者責任と使用者責任で結論が分かれました。
裁判所の認定は「Fの過失はないとはいえないが、あったともいえない(つまり、あるかどうか分からない)」というものです。その帰結として、Fの無過失が立証できなかったことによりEの運行供用者責任が認められた一方で、Fの過失が立証できなかったことによりEの使用者責任が否定されました。
被害者側が過失の立証責任を負う不法行為責任や使用者責任が認められなくても、運行供用者責任であれば認められる可能性があることがよく分かる事案といえます。
参考:福井地裁平成27年4月13日判決
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」
5. 交通事故の相手方から「自分は無過失だ」と主張された場合の対処法
交通事故に遭った人が損害賠償請求を行う際、相手方から「自分は無過失だ」と主張されるかもしれません。その場合は、次の方法などによって対処しましょう。
5-1. 客観的な証拠に基づいて相手方の過失を主張する
まず重要なのは、事故状況を客観的に示す証拠を集めることです。
ドライブレコーダーの映像
防犯カメラの映像
警察の実況見分調書
目撃者の証言
これらの証拠があれば、相手方の運転態様や事故発生状況を具体的に示すことができます。「無過失だ」という主張に対しては、感情的に反論するのではなく、証拠に基づいて論理的に反論することが重要です。
5-2. 運行供用者責任を追及する
人身損害(=けが・後遺障害・死亡による損害)については、通常の不法行為に基づく損害賠償請求よりも、運行供用者責任に基づく損害賠償請求の方が認められやすいと考えられます。運行供用者責任は、運行供用者が3要件をすべて証明しなければ免責されないためです。
相手方が「自分は無過失だ」と主張している場合に加えて、相手方が社用車・レンタカー・タクシーなどである場合も、運行供用者責任を追及することが有力な選択肢となります。
特に相手方の運転者が任意保険に加入していなかった場合は、相手方本人に損害賠償を請求しても十分に回収できないことがあります。運行供用者は法人であるケースが多く、賠償金を支払える可能性が高いです。加害者本人に加えて、運行供用者に対する損害賠償請求も併せて行いましょう。
5-3. 早めに弁護士に相談する
交通事故の相手方が無過失を主張している場合、損害賠償に関する示談交渉は難航することが想定されます。早い段階から弁護士に相談して、示談交渉に臨む際の方針を明確化しましょう。
弁護士に依頼すれば、相手方との示談交渉や、交渉がまとまらなかった場合のADR・訴訟などを代行してもらえます。相手方の無過失の主張に対しても適切な反論や対策を行ってもらえるので、適正額の賠償金を得られる可能性が高まります。
もし自分が加害者側の立場で、相手方から激しく責任を追及されている場合も、弁護士に相談してください。できる限りの対応を尽くし、穏便にトラブルを解決するために尽力してもらえます。
なお、本人の自動車保険や家族の保険に弁護士費用特約が付いている場合、弁護士への依頼費用を一定額まで負担してもらえます。
6. 【注意】運行供用者責任についても、過失相殺は行われる
運行供用者責任は通常の不法行為責任よりも認められやすいものの、必ず満額の賠償を受けられるわけではありません。被害者側にも過失がある場合、過失相殺は通常どおり行われます。
「過失相殺」とは、当事者の過失に応じて賠償金を減額することです。たとえば、交通事故によって被害者が1000万円の損害を受けた一方で、被害者に20%の過失があるとします。この場合、被害者は実損害額から20%を減額した800万円の賠償金しか請求できません。
運行供用者責任を追及する場合でも、相手方の過失の大きさをきちんと主張・立証することが大切です。弁護士のサポートを受けながら、示談交渉・ADR・訴訟などに臨む際の戦略を検討しましょう。
7. 無過失責任についてよくある質問
Q. 無過失責任とはどういうこと?無過失の立証責任はどちらにある?
「無過失責任」とは、相手方が受けた損害について、自分に故意または過失がなくても損害賠償責任を負うことを意味します。この場合、無過失であることを証明しても責任を免れないため、通常は立証責任が問題になることはありません。
なお、交通事故の運行供用者責任は、一定の要件を証明すれば免責される余地があるため、厳密には無過失責任とは異なります。
Q. 無過失責任を免れることはできる?
一般に無過失責任は免れにくいですが、不可抗力によって損害が生じた場合などには、例外的に責任を負わないと解されることがあります。
交通事故の運行供用者責任については、次の3要件をすべて証明できれば免責されます。
①自己および運転者が運行に関し注意を怠らなかったこと
②被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと
Q. 運行供用者責任の免責要件を立証するにはどうすべき?
ドライブレコーダーの映像や警察官の実況見分調書などから、自分側(自社側)の運転者に全く過失がなかったことを立証します。ただし、これらをすべて証明するのは実務上かなり難しいため、免責が認められるケースは多くありません。不安がある場合は弁護士への相談を検討しましょう。
Q. 保険に入っていれば、運行供用者責任を負っても問題ない?
対人・対物無制限の賠償責任保険(任意保険)に加入していれば、ほとんどの場合は賠償金全額が保険によって支払われます。任意保険に加入しておらず、自賠責保険にしか加入していなかった場合は、賠償金の一部が自己負担になる可能性があります。
8. まとめ 無過失責任と運行供用者責任は似ている
交通事故の運行供用者責任は、厳密には無過失責任ではありませんが、過失の立証責任が加害者側に転換されているなど、被害者にとって有利な制度となっています。
事故相手の運転者が任意保険に未加入だったとしても、運行供用者が法人であれば、賠償金回収の可能性が高まります。通常の不法行為に基づく損害賠償請求と併せて、運行供用者責任の追及も検討しましょう。
(記事は2026年4月1日時点の情報に基づいています)
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」で
交通事故トラブルに強い弁護士を探す