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1. 交通事故の民事調停とは?
「民事調停」とは、法的トラブルを裁判所の仲介による話し合いで円満解決をめざす手続きです。交通事故に関する損害賠償についても民事調停を用いることが可能です。
1-1. 民事調停とは
民事調停とは、当事者同士が話し合いで問題の解決を図る裁判所の手続きです。交通事故の損害賠償請求についても、示談がまとまらない場合に民事調停を申し立てることができます。
法廷で交通事故の被害者と加害者が争い、裁判官の判決などによって解決を図る「裁判(訴訟)」とは異なり、交通事故の民事調停では簡易裁判所や地方裁判所の「調停委員会」が当事者双方の主張を聴きます。裁判官1名と調停委員2名以上で構成される調停委員会が当事者双方に歩み寄りを促し、当事者同士の合意によってトラブルの解決を図ることになります。
民事調停は、裁判よりも手続きが簡易で解決までの時間も比較的短くて済み、当事者同士の合意を基本とすることから、当事者にとって円満な解決が期待できます。
1-2. 民事調停と示談、ADR、裁判(訴訟)の違い
交通事故の損害賠償請求をする方法としては、民事調停のほか示談、ADR(裁判外紛争解決手続)、裁判(訴訟)の3つがあります。
示談は民事調停と同様に当事者間の話し合いで解決しますが、調停委員会が間に入る民事調停と違い、第三者は関与しません。
ADR(裁判外紛争解決手続)は、公正中立な第三者機関が当事者の間に入り、話し合いを通じて解決を図る手続きです。裁判所を利用しない点で民事調停とは異なります。
裁判(訴訟)は裁判官の判決などによって解決を図る制度で、当事者間の合意は必要とされていません。
内容 | 民事調停との違い | |
|---|---|---|
示談 | 当事者の話し合いで和解 | 第三者が介入しない |
ADR | ADR機関の仲裁で解決 | 裁判所を利用しない |
裁判(訴訟) | 裁判官が判断 | 当事者の合意は不要 |
2. 民事調停を利用するメリットとデメリットは?
民事調停にはメリットとデメリットがあり、それらを踏まえたうえで民事調停に臨む必要があります。
2-1. 民事調停のメリット
まず民事調停のメリットとしては、手続きが簡易であることが挙げられます。民事調停の申立てをするには、裁判所の公式ホームページや簡易裁判所の窓口にある申立書に必要事項を記入して提出するだけで構いません。調停終了までの手続きも簡易なため、自分一人で手続きをすることも可能です。
次に、判決というかたちでどちらの言い分が法律的に正しいかをはっきりさせる裁判とは異なり、民事調停は当事者の合意を基本としているため、円満な解決を図ることができます。
また、費用が訴訟に比べて少なくて済むこともメリットの一つです。
さらに、民事調停は非公開で行われるため、他人に知られたくない内容も安心して話すことができます。調停委員には守秘義務があるため、秘密が守られます。一方で、裁判は手続きが公開されており、当事者以外も原則として法廷で傍聴できます。
そして、裁判に比べて解決までの時間が短くて済みます。通常、調停が成立するまでに2回から3回の調停期日が開催され、多くの事件は3カ月以内で解決します。
加えて、比較的高い賠償額を請求することも可能です。交通事故の民事調停では、交通事故の損害賠償額を算定する場合、被害者に最も有利な弁護士基準(裁判所基準)がベースとなります。そのため、弁護士に依頼していなくても、民事調停を利用すれば、弁護士基準で算定した賠償金額に近い額を得ることができます。
調停が成立し、相手が調停調書に記載された賠償額の支払いをしない場合には、調停調書に基づき強制執行をすることもできます。
2-2. 民事調停のデメリット
民事調停の最大のデメリットは、当事者間で合意ができなければ、問題を解決できないことです。そのため、当事者双方の主張に大きな隔たりがあり、話し合っても合意できそうにない場合には民事調停を申し立てても、費用、時間、労力が無駄になる可能性があります。相手が欠席すると話し合いが進まないため、欠席が続くと調停は打ち切りとなり、何の紛争解決にもなりません。
また、民事調停は、そもそも事実を確定させる場ではなく、当事者間の話し合いによる合意によって紛争を解決することを目的としているため、事実がどうであったかについては裁判ほど重視されません。
そのため、裁判のように証拠調べによる厳格な事実認定が行われません。したがって、当事者間で事故態様などの事実関係について争っている状況で、事実を確定したうえで話し合いを進めたい場合は民事調停での解決には適さないと言えます。
そして、調停委員は必ずしも法律の専門家ではない場合があり、適切な解決に誘導してもらえない場合もある点には注意が必要です。
さらに民事調停は、原則として相手の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てなければならないので、相手の住所地が遠方にある場合、申立人がわざわざ、遠方の裁判所に出向くことになります。ただし、自動車の運行によって、人の生命または身体が害された場合における損害賠償については、損害賠償を請求する側の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てることができます。
3. ADRと民事調停はどちらを利用すべき?
ADR(裁判外紛争解決手続)と民事調停のどちらを利用すべきかについては、案件によって判断が異なります。その判断のポイントについて詳しく説明します。
3-1. ADR(裁判外紛争解決手続)とは
ADR(裁判外紛争解決手続)とは、民事上のトラブルについて裁判所を利用せず、当事者と利害関係のない公正中立な第三者機関が当事者双方の主張をよく聴きながら専門家としての知見を生かして、加害者と被害者の話し合いを支援し、合意による紛争解決を図る手続きです。
交通事故ADRの代表的な機関としては、以下が挙げられます。
日弁連交通事故相談センター
交通事故紛争処理センター
そんぽADRセンター
3-2. ADRを利用すべきケース
ADRを利用するのに適しているケースは、交渉の相手が保険会社で治療期間、慰謝料の額、休業損害の額など争点が比較的明確に絞られる事案です。保険会社はADRの審査結果に従う義務があるため、利用するメリットが大きいと言えます。
3-3. 民事調停を利用すべきケース
相手が加害者本人の場合は、原則としてADRの対象外となり、民事調停を利用するのが一般的です。ただし、加害者の同意があれば、ADRの申し立てが受理される場合もあります。
3-4. 裁判を視野に入れるべきケース
加害者との話し合いの余地がないケースでは、調停を申し立てても合意には至らない可能性が高く、その場合には裁判を視野に入れることになります。また、法的に決着をつけたい場合も同様です。
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4. 民事調停の手続きの流れ
民事調停の手続きは申立てから始まり、調停期日を経て調停の終了後、調停内容の履行、という流れになります。
4-1. 【STEP1】調停の申立て
申立書に必要書類を添付して、相手の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。もっとも、自動車の運行によって人の生命または身体が害された場合における損害賠償については、損害賠償を請求する側の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てることができます。
交通事故の民事調停における必要書類としては、以下のようなものが挙げられます。
交通事故証明書
診断書
診療明細書
休業損害証明書
物損明細書
ドライブレコーダーの映像
4-2. 【STEP2】調停期日
調停期日が指定され、申立人と相手が裁判所に呼び出されます。調停は裁判と異なり、法廷ではなく裁判所の調停室で非公開で行われます。
調停期日では通常、当事者が交互に調停室に入り、話し合いを進めることになります。そして、調停委員が当事者双方の主張を十分に聴き、双方の歩み寄りを促したり、解決案を提示したりして、合意に導くように試みます。
1回目の調停期日で合意に至ったり、あるいは全く話し合いにならなかったりする場合には、1回で調停が終了するものの、話し合いの余地がある場合には何度か調停期日を重ねることになります。多くの場合、1件の事案で2回から3回の調停期日が行われます。
4-3. 【STEP3】調停の終了
話し合いによって当事者双方が合意に達した場合は、調停が成立し、合意内容が調停調書に記載されます。お互いに意見が折り合わず、それ以上話し合っても解決する見込みがない場合には手続きが打ち切られ、調停不成立となります。
ただし、すべてが「不成立」になるわけではなく、それまでの経過に照らして相当と認められる事案については、裁判所の判断を決定というかたちで示すこともあります。その決定に双方が納得すれば、調停が成立したのと同じ効果があります。しかし、どちらかが2週間以内に異議申し立てを行うと、効果はなくなります。
4-4. 【STEP4】調停内容の履行
調停が成立したら、作成された調停調書に記載された内容が履行されます。
なお、この調書は判決と同じ効力を持ちます。そのため、調停調書に記載された内容を相手が履行しなければ、強制執行することができます。また、調停に代わる決定に異議がなされず確定した場合にも、記載された内容を相手が履行しなければ同様に強制執行できます。
5. 民事調停の申立てから解決までにかかる期間や費用はどのくらい?
次に、民事調停の申し立てから、解決までにかかる時間や費用について解説します。
5-1. 民事調停の所要期間は2カ月~3カ月程度
調停は2回か3回で終了する場合がほとんどです。おおよそ1カ月おきに調停期日が指定されるため、2カ月から3カ月で終了することになります。意見が折り合わず時間がかかったとしても、6カ月以内で終了するのが大半です。
裁判所が発表している「令和7年 司法統計年報(民事・行政編) 」(62ページ)によれば、2025年に全簡易裁判所で終結した交通事故の民事調停は約66%が6カ月以内で終了し、約87.6%は1年以内に終了しています。
司法統計年報は毎年公表されていますが、過去のデータでも交通事故に関する民事調停のほとんどの事案が1年以内に終結していることが確認できます。交通事故の民事調停は短期間で、かつ安定的に紛争解決へ寄与する手段だと考えられます。
5-2. 民事調停の費用は数千円程度
民事調停の申立手数料は損害額に応じて変わりますが、500円から5000円です。損害額ごとの申立手数料の金額は以下のとおりです。
損害額 | 申立手数料 |
|---|---|
10万円まで | 500円 |
30万円まで | 1500円 |
50万円まで | 2500円 |
100万円まで | 5000円 |
いずれも、裁判を起こす場合の申立手数料の半額程度です。そのほか、関係者に書類を送るための郵便切手代がかかります。一例までに、大阪簡易裁判所では760円となっています。
6. 民事調停を有利なかたちで成立させるためのポイント
民事調停を有利なかたちで成立させるためのポイントは主に次の4つです。
法的根拠のある主張書面と客観的証拠を準備する
調停委員に自分の主張を理解してもらう
相手の主張を予測し、的確な反論を用意する
弁護士のサポートを受ける
6-1. 法的根拠のある主張書面と客観的証拠を準備する
まずは、法的根拠のある主張書面と客観的証拠を準備することが大切です。これにより、調停委員が妥当と考える解決案を相手に提示しやすくなり、相手を納得させられる可能性が高まります。
なお、明確な証拠や反論が準備できる事案であれば、調停を経ずに最初から裁判(訴訟)を起こしたほうが、結果的にスムーズな解決につながるケースもあります。
6-2. 調停委員に自分の主張を理解してもらう
次に調停委員に自分の主張を理解してもらうことが重要です。調停委員に主張を理解してもらえないと、相手に自分の言い分が十分に伝わらず、相手を説得することも難しくなります。
6-3. 相手の主張を予測し、的確な反論を用意する
相手の主張を予測し、的確な反論を用意しておくこともポイントの一つです。
もっとも、このような的確な反論を事前に準備できる事案であれば、調停を経ずに最初から裁判(訴訟)を起こしたほうが、結果的に早期解決につながるケースもあります。
6-4. 弁護士のサポートを受ける
事前検討や調停期日の対応などを自力で適切に行うのが難しいと感じる場合には、弁護士に相談するなどのサポートを受けるべきです。対応が不十分になってしまうと、調停結果に悪い影響を及ぼしかねません。
7. 交通事故の民事調停を弁護士に依頼すべき理由
民事調停は簡易裁判所や地方裁判所を利用するもので、調停期日は平日に行われます。平日になかなか仕事を休めないような場合は弁護士に依頼することで、弁護士が調停期日に代理人として出席してくれます。弁護士に法的根拠に基づく主張をしてもらえるため、調停委員の理解を得られる可能性が高まり、調停が有利に進むことが期待できます。
また、弁護士基準で賠償金の請求をしてもらえるため、自身でしていた示談交渉の時点での賠償額よりも増額が期待できます。さらに、調停不成立となった場合には、大概は引き続き訴訟の対応をしてもらうことができます。
8. 交通事故の民事調停に関する弁護士費用の目安
弁護士費用については、画一的な基準がなく、各法律事務所によります。そのため、一概にはその目安を示すことはできないものの、請求する損害額が100万円未満の場合、着手金は10万円(税別)程度になることが多いと思われます。
それ以上の損害額を請求する場合は、着手金はその損害額の数%とされていることが多いです。たとえば125万円を超え300万円以下ならばその8%、300万円を超え3000万円以下ならばその5%+9万円などとなります。
調停が成立し、解決した場合には、その解決に見合った報酬金を弁護士費用として支払うことになります。
報酬金についても画一的な基準がなく、各法律事務所によるので、一概にその目安を示すことができないものの、調停により得た損害額の数%とされている場合が多いと言えます。たとえば300万円以下ならばその16%、300万円を超え3000万円以下ならばその10%+18万円などという設定です。
なお、交通事故の民事調停でも「弁護士費用特約」が利用可能です。弁護士費用特約を使えば、弁護士費用の実質的な自己負担なしで民事調停を起こすことが可能です。自身の自動車保険などを見直し、弁護士費用特約が付帯していないか確認してみてください。
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9. 交通事故の民事調停に関してよくある質問
Q. 民事調停はいつまでに起こすとよい?
示談交渉がまとまる見通しが立たない場合には、すみやかに民事調停の申立てをしたほうがよいでしょう。ただし、事案によってはADRの申立てや裁判をしたほうがよい場合があり、その点については申立前に検討が必要です。場合によっては弁護士に助言を求めるのがよいでしょう。
Q. 民事調停はオンラインや電話でもできる?
裁判所にウェブ会議や電話会議の希望を出し、裁判所が許可した場合に限ってウェブ会議や電話会議が実施されます。
ただし、希望を出したからといって、必ずしもウェブ会議や電話会議で調停ができるわけではありません。なお、弁護士に依頼すれば、自分の代わりに調停期日に出席してもらうことができます。
Q. 民事調停の期日に相手が来ない(欠席する)場合はどうなる?
相手の欠席が続けば、話し合いの余地はないということで調停は打ち切られ、調停不成立となります。
Q. 民事調停はやっても意味ない? 弁護士なしだと難しい? 相手が弁護士を立ててきた場合は?
民事調停は裁判と比べて費用が抑えられ、解決までの時間も短く、相手と合意できれば紛争解決手段としては有力です。したがって、意味がないとは言い切れません。
もっとも、合意に至らないケースもあることは確かで、この場合には調停にかけた費用、時間、労力が無駄になってしまいます。
また、交通事故の民事調停においては、より適切な主張や資料の提出が必要となるケースが多く、そのような主張や資料を提出して調停を有利に進めようと考えるのであれば、弁護士に依頼することをお勧めします。特に相手に弁護士がついている場合には、こちらも弁護士に依頼したほうが得策です。
Q. 民事調停の費用はどちらが払う?
申立手数料は申立人が支払います。また、弁護士費用は弁護士への依頼者が支払います。
10. まとめ 十分な対応ができない場合は弁護士に相談を
民事調停は裁判と比べて時間と費用がかからず、上手に活用すれば紛争解決方法として有力です。
しかし、調停に適さない事案で交通事故の民事調停を申し立てると、調停では紛争を解決できず、結局、裁判を起こすことになりかねません。交通事故に遭い、民事調停を申し立てることを検討している際は、申立て前に弁護士に相談してみることをお勧めします。
弁護士に相談することによって、適切な解決方法へと導いてくれるだけでなく、相手方との交渉、資料の収集といった負担から解放されます。場合によっては賠償金額の増額も期待できるなど多くのメリットを得られます。
(記事は2026年9月1日時点の情報に基づいています)
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