目 次
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」で
交通事故トラブルに強い弁護士を探す
交通事故トラブルに強い
弁護士を探す
1. 損害賠償請求権には消滅時効がある
交通事故など、他人の行為によって自分が損害を受けたときには、その損害を金銭で補うよう求めることができます。金銭による補償を求めるこの権利を損害賠償請求権と言います。損害賠償請求権を行使することで、治療費や修理費、慰謝料などを相手に請求することができます。
ただし、損害賠償請求権には消滅時効が定められています。消滅時効とは、一定期間が経過すると権利そのものが消えてしまう法律上の制度です。
特に注意が必要なのは、「時効期間」と呼ばれる権利消滅までの期間や、時効期間のカウントが始まる時点が、ケースごとに異なる点です。
この時効期間のカウントが始まる時点のことを、法律では「起算点」と呼びます。起算点の判断を誤ると、本来請求できたはずの権利を失うことにもなりかねません。そのため、起算点の判断は弁護士がまず慎重に検討するポイントの一つです。
2. 交通事故の損害賠償請求権の時効は3年? 10年? 20年?
交通事故に伴う損害賠償請求権は、人身事故か物損事故か、また人身事故の場合にはけがなのか死亡なのか、もしくは後遺障害があるのかによって、時効期間や起算点が異なります。
交通事故の加害者に請求する場合の時効期間について、「死傷者のいる人身事故」と「死傷者のいない物損事故」に分けて解説します。
2-1. 人身事故:5年または20年
人身事故の時効期間や起算点は、下の表のとおりです。
損害の内容 | 時効の起算点 | 時効期間 | 備考 |
|---|---|---|---|
傷害 | 事故の翌日 | 5年 | 加害者不明の場合は判明してから進行 |
後遺障害 | 症状固定の翌日 | ─ | |
死亡 | 死亡の翌日 | ─ | |
上記すべて | 事故の翌日 | 20年 | 加害者がわからなくても進行 |
民法では、人の生命や身体に対する不法行為について、「事故による損害および加害者を知ったときから5年」または「事故日から20年」のいずれか早いほうの時点で消滅時効が成立すると定めています。
傷害の場合、治療費の総額などが確定している必要はないため、交通事故が発生した日の翌日を起算点とします。
一方、後遺障害では、これ以上治療を続けても改善が見込めないと判断される「症状固定」によって初めて損害が確定するため、症状固定日の翌日が起算点となります。
また、ひき逃げなどで加害者が不明の場合、警察の捜査などによって加害者が判明した翌日から5年のカウントがスタートします。ただし、加害者が判明しないままでも事故の翌日から20年で時効となります。
なお、厳密に言うと、傷害の起算点は事故発生日、後遺障害の起算点は症状固定日、死亡の起算点は死亡日です。
ただし、事故や症状固定のタイミングが午前0時でない限り、民法の「初日不算入の原則」によって、時効のカウントは翌日からスタートします。つまり、起算点とカウントスタートには最大で1日程度の時差が生まれますが、この記事では混乱を防ぐため、カウントスタートのタイミングを「起算点」と呼んでいます。
2-2. 物損事故:3年または20年
物損事故の時効期間や起算点は以下の表のとおりです。
損害の内容 | 時効の起算点 | 時効期間 | 備考 |
|---|---|---|---|
物損 (車両修理費や代車費用など) | 事故の翌日 | 3年 | 加害者不明の場合は判明してから進行 |
上記すべて | 事故の翌日 | 20年 | 加害者がわからなくても進行 |
物損の損害賠償請求権は、「損害および加害者を知ったときから3年」または「事故日から20年」のいずれか早いほうの時点で消滅時効が成立します。人身事故よりも時効期間が短い点に注意が必要です。
重要なのは、人身事故であったとしても、車の修理費など物損部分は3年で時効になる点です。「人身事故に関する損害は一律5年」というわけではありません。
3. 自賠責保険の被害者請求をする場合、時効は何年?
交通事故の被害者が、加害者本人ではなく、加害者の加入する自賠責保険会社に対して賠償請求することを「被害者請求」と言います。被害者請求には、民法ではなく自動車損害賠償保障法(自賠法)で定められた時効が適用されます。
自賠法では、被害者請求の時効を「損害および保有者を知ったときから3年」と定めています。つまり、人身事故の治療費や慰謝料を請求する場合でも、被害者請求を行うのであれば、原則として3年で時効になります。
「人身事故だから5年」と思い込んでいると、自賠責保険への請求が先に時効を迎え、加害者本人に請求するしかなくなってしまいます。
なお、起算点は前述した民法上の損害賠償請求権と同様です。
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」
4. 自分の任意保険の保険金を請求する場合、時効は何年?
被害者自身が人身傷害補償保険や自損事故傷害保険、搭乗者傷害保険などに加入している場合、加害者本人や加害者の保険会社に請求する以外の選択肢として、自分の加入している任意保険会社に保険金を請求する方法も考えられます。ただし、自分の保険を利用する場合も、保険法の定める時効があります。
保険法では、保険金請求権の時効を「行使することができるときから3年」と定めています。問題は「行使することができるとき」がいつなのか、という点です。
これは、民法や自賠法のように「損害および加害者を知ったとき」と同じとは限りません。なぜなら、保険によっては、保険金の支払い要件として所定の調査が必要とされることがあり、その場合は所定の調査が完了するまで保険金請求ができないからです。裁判例のなかには、起算点を民法上の「損害および加害者を知ったとき」よりもあとの時点としたものもあります。
「行使することができるとき」がいつなのかは、保険の種類や約款の内容によって異なります。自分の保険を利用する場合は、約款の確認や専門家への相談が大切です。
5. 消滅時効の完成を阻止する方法は?
どんな方法で請求するとしても、消滅時効は被害者にとって大きな悩みの種となります。すぐに請求すればいいだけでは、と思うかもしれませんが、加害者や加害者の保険会社がすぐに請求に応じるとは限らないうえに、交渉が長期化することも少なくありません。
また、通常の交渉をしていても、消滅時効の進行は止まりません。
しかし、消滅時効の完成を防ぐ方法があります。「完成猶予」と「更新」の2種類です。それぞれについて、以下で詳しく解説します。
5-1. 時効の完成猶予|一時的に時効が完成しなくなる
時効の完成猶予とは、一定の期間、時効の完成をストップする制度です。カウントが完全にリセットされるのではなく、タイマーが一時停止している状態です。完成猶予が認められる事由は、主に以下のとおりです。
主な完成猶予事由 | 具体的な内容 | 猶予される期間 |
|---|---|---|
裁判上の請求 (民法147条1項1号) | 裁判所に損害賠償請求を提起する | 手続き終了まで |
支払督促 (民法147条1項2号) | 簡易裁判所に支払い督促の申立てを行う | 手続き終了まで |
強制執行 (民法148条1項1号) | 裁判所に加害者の財産を差し押さえる申立てを行う | 手続き終了まで |
催告 (民法150条1項) | 加害者に内容証明などで支払い請求を行う | 6カ月 |
上記で最も手軽なのは、直接加害者に行える「催告」です。ただし猶予期間は6カ月のみであるため、その間に訴訟提起など次の手続きをとらなければ時効が完成してしまいます。
5-2. 時効の更新|時効期間がリセットされる
時効の更新とは、進行してきた時効期間がリセットされ、ゼロから新たに時効の進行が始まる制度です。以下の更新事由が生じると、時効のカウントは更新事由が発生した時点から進み直しとなります。
主な更新事由 | 具体的な内容 |
|---|---|
裁判上の請求 (民法147条2項) | 裁判の結果、賠償金を支払う旨の判決が確定する |
支払督促 (民法147条2項) | 申立ての結果、支払督促が確定する |
強制執行 (民法148条2項) | 申立ての結果、加害者の財産を差し押さえる手続きが完了する |
債務者の承認 (民法152条1項) | 加害者や保険会社が損害賠償債務の存在を認め、 実際に一部を支払ったり、支払う意思があることを表明したりする |
6. 交通事故の損害賠償請求権の時効消滅が近づいているときの注意点
交通事故の損害賠償請求権の時効が近づいているときには、以下の点に注意が必要です。
あせって示談に応じてはならない
時効の完成時期を正しく把握する
ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する際には、時効の完成が猶予されるかどうかを確認する
6-1. あせって示談に応じてはならない
消滅時効の完成は、すなわち権利の消滅を意味します。時効消滅が近づいてくると不安になるのは無理のないことですが、時効消滅を恐れるあまり、あせって判断したり、安易に示談に応じたりしてはいけません。時効の完成は、適切な手続きによって防ぐことができるからです。
事故の相手や相手側の保険会社との交渉で、一度示談が成立すれば、原則としてそれ以上の請求はできなくなります。時効が近いからとあせって示談するのではなく、制度を正しく理解し、十分な交渉を行うことが重要です。
6-2. 時効の完成時期を正しく把握する
あせらずに交渉を続けるためには、まず時効が完成する年月日を正しく把握しておくことが大切です。ただし、時効完成日は起算点だけでなく、途中で完成猶予や更新が生じているかどうかによっても変化します。時効消滅のリスクを最小限に抑えるためにも、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
6-3. ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する際には、時効の完成が猶予されるかどうかを確認する
交渉がまとまらない場合、ADR(裁判外紛争解決手続)を利用することもあります。ADRとは、裁判以外の方法で紛争の解決を図る手続きで、訴訟に比べて安価かつ迅速というメリットがあります。ただし、裁判所の手続きとは異なるため、必ずしも時効の完成が猶予されるわけではないことに注意が必要です。
時効の完成が猶予されるのは、法務大臣の認証を受けたADR機関(認証紛争解決事業者)を利用した場合に限られます。認証を受けていない機関への申立てでは時効の完成を防げないため、注意してください。認証紛争解決事業者は、法務省の審査監督課が運営するサイト「かいけつサポート」に一覧が掲載されています。
一方で、法務大臣の認証を受けていなくとも交通事故解決を多数取り扱っているADR機関も複数あります。交渉の見通しや時効との関係を意識し、適切なADR機関を選択することが大切です。
7. 時効完成が近い交通事故について、弁護士に相談するメリット
時効完成の判断には、起算点、請求先、完成猶予や更新の有無など、複数の事情を検討しなければなりません。弁護士に相談すれば、本当に時効完成が差し迫っているのか、時効の完成を阻止するためにどんな手続きをとればよいのかなどについて、具体的なアドバイスを受けることができます。
また、時効の問題とは別に、弁護士に依頼することで、保険会社との示談交渉を任せられること、後遺障害等級認定の申請をサポートしてもらえること、賠償額の増額が期待できることなど、さまざまなメリットがあります。
多くの自動車保険には、弁護士費用特約のオプションがあります。弁護士費用特約を利用すれば、原則として弁護士費用は保険会社の負担となるため、費用面の不安を抑えながら弁護士の支援を受けることが可能です。
時効完成が差し迫っている場合はもちろんのこと、そうでない場合でも、弁護士への早めの相談を検討してください。
8. 損害賠償請求権の時効に関してよくある質問
Q. 加害者になって交通事故の損害賠償を払わないでいると、時効はどうなる?
加害者が損害賠償金の支払いをせず放置すると時効が進み、成立すれば支払義務を免れる可能性はあります。ただし、請求や訴訟で時効を更新される可能性が高いですし、請求を放置していると遅延損害金や差し押えを受けるリスクもあります。放置せず早めに対応することが重要です。
Q. 時効期間が過ぎても損害賠償を請求できるケースはある?
損害賠償請求権を時効消滅させるためには、実は時効期間が完成することに加え、債務者(加害者)が時効消滅させる旨の意思表示をする必要があります。この意思表示を「時効の援用」と言います。そのため、時効期間が過ぎていても加害者に自ら支払う意思があり、時効の援用をしないのであれば、支払われる可能性はあります。
しかし、加害者が時効の完成を援用するのは容易です。時効期間が過ぎて支払いを受けられる可能性はきわめて低いでしょう。
Q. 保険会社との示談交渉中には、時効期間は進む? 止まる?
単なる示談交渉では、時効期間は止まりません。時効期間の進行を止める、つまり時効の完成を猶予するには、催告など所定の手続きが必要です。
Q. 相手が行方不明の場合、時効はどうなる?
加害者が誰か判明している場合、その人がどこに住んでいても、姿をくらまして行方不明であっても、時効は進行し続けます。
一方、加害者が判明しておらず行方もわからない場合は、「3年」「5年」といった短い時効は進行しません。ただし、その場合でも「事故から20年」の時効だけは進み続けます。
Q. 刑事事件になっている場合、民事の時効は止まる?
加害者が逮捕や起訴され刑事事件になったとしても、民事上の制度である時効の進行は止まりません。時効の進行を止めるには、刑事手続とは別に、催告などの所定の手続きをとる必要があります。
9. まとめ 消滅時効によって損害賠償請求権を失う前に弁護士に相談を
交通事故の損害賠償請求権には消滅時効があり、時効の完成時期は、起算点や請求先、完成猶予や更新の有無によって大きく変化します。また、示談交渉を行っているだけでは時効の進行は止まりません。
十分な交渉を行い、少しでも納得できる補償を受けるためには、時効の制度を正しく理解し、必要に応じて専門家の支援を受けることが大切です。交通事故の被害に遭ったら、早めに弁護士などに相談することをお勧めします。
(記事は2026年5月1日時点の情報に基づいています)
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」で
交通事故トラブルに強い弁護士を探す