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1. 子ども心に刻まれた父の事故
――弁護士を志したきっかけを教えてください。
法曹の道を歩む決意をした背景には、私が小学生のころ、父が遭った交通事故の経験があります。
父はバイクに乗っていたとき、突然Uターンしてきた車にはねられ、腕を複雑骨折する事故に遭いました。父は設計士として図面を描く仕事をしていましたが、事故後は腕が思うように動かなくなり、それまでのように図面を描けなくなりました。
後遺障害の認定を受けるため、父は医師に直筆の手紙を出して「後遺障害診断書を書いてほしい」と必死にお願いしました。しかし、診断書を書いてもらうことはできませんでした。後遺症を裏付ける証拠がないために、損害賠償を受けることもできなかったのです。
交通事故の損害賠償は、後遺障害診断書などの証拠によって判断されます。どれほど症状が残っていても、裏付ける証拠がなければ法的には「なかったこと」と扱われることがあるのです。賠償を受けられなかった父の姿を見て、子どもながらに「理不尽だな」と感じました。その歯がゆさが、弁護士を志す原点になっています。
――医師はなぜ後遺障害診断書を書いてくれなかったのでしょうか。
後遺障害診断書は、後遺障害等級認定のために自賠責保険へ提出する重要な書類ですが、医師に作成義務はありません。「後遺症として評価するほどではない」と判断された場合など、さまざまな理由から作成してもらえないことがあります。私の父の場合も、そういった判断がされたのではないかと考えています。
実際、私のところにも「診断書を書いてもらえない」と相談に来る方がいます。
2. 損害賠償請求に特化した道へ
――その後、どのような経験を経て、損害賠償請求を専門にした事務所を設立されたのでしょうか。
専門分野に特化することで知識や経験を蓄積し、より多くの被害者を救済したい。そう思ったことが、損害賠償請求を専門とした事務所を立ち上げた大きなきっかけです。
父の経験もあり、「交通事故被害者の側に立つ仕事がしたい」という気持ちはずっとありました。最初に入所したのが交通事故を専門に扱う事務所で、創業者の先生の「交通事故被害者を救済したい」という強い思いに感化され、この分野に取り組む意義を実感しました。
その後、相続・離婚・破産管財・企業顧問なども経験しましたが、最もやりがいを感じたのは交通事故だったのです。そしてアメリカで人身障害だけを専門に扱う事務所を見て、「これだ!」と感じ独立を決意しました。
交通事故は、ある日突然、赤の他人同士が当事者になります。長年の人間関係や契約関係などの複雑ないきさつはありません。何の落ち度もないのに理不尽な事故に巻き込まれた被害者を前にすると、「この人を助けたい」という気持ちが強く湧いてくるんです。背景が複雑でない分、純粋に法律と証拠で勝負できる点も、自分に合っていました。
また、交通事故の損害賠償請求の判断根拠となる民法709条は、「損害」「過失」というような簡単な言葉でしか構成されていません。しかし実際の裁判では「どこまでが損害にあたるのか」「どの程度の不注意が過失にあたるのか」という判断が案件ごとに異なり、非常に複雑です。
たった二文字の言葉の解釈が、賠償額や訴訟の結果を左右することもあります。何十年勉強しても答えが出ないほど奥深い世界であり、その解釈を日々研究していくことに大きな関心を寄せています。
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3. 後遺障害等級認定が賠償額を大きく左右する
――交通事故の損害賠償請求を専門にする場合、医学や保険の知識も必要になると思いますが、どのように勉強されているのでしょうか。
保険については各保険会社の約款を読み込み、改定のたびに変更点を確認しています。医学については、扱う案件ごとに必要な知識を学んでいます。カルテを読んでわからない箇所があれば調べますし、医師に意見を求める前には適切な質問ができるよう集中的に勉強します。
ただ、弁護士が医学そのものを極めようとする意識までは必要ないと考えています。医学的な判断は医師の専門領域です。私たちの役割は必要な医学知識を身につけたうえで的確な質問をし、医師から適切な意見書や見解を得ることです。
――後遺障害には1級から14級まで等級があり、等級によって賠償金が大きく変わると聞きました。なぜそれほど差が生じるのでしょうか。
日本ではどの等級に認定されるかによって受け取れる賠償金がほぼ決まるためです。最も重い1級では数億円となることもありますが、14級では数百万円程度で、100倍近い差がつくこともあります。ヨーロッパなどでは後遺症の内容や程度に応じて柔軟に賠償額を決めることが多いのですが、日本ではこうした定型的な枠組みになっています。
だからこそ、適切な等級認定を受けられるかどうかが非常に重要です。症状の申告漏れはないか、画像評価は適切か、医師の医学的見解はあるか。これらを精査し、証拠を漏れなく積み上げられるかどうかで結果は大きく変わります。弁護士には、そのための証拠を的確に集める力が求められるのです。
――証拠収集で気をつけていることはありますか。
必要と判断した案件では、実際に事故現場へ足を運びます。過失割合に争いがある場合は、加害者側・被害者側それぞれのルートを実際に車で、自転車事故の場合は自転車で走ってみることが多いです。
尊敬する先輩弁護士の「一流の弁護士は足を使う。頭で考えるだけでは意味がない」という言葉が今も胸に刻まれています。Google マップでも情報を得られる時代ですが、現場に立って初めて見えるものがあります。「ここは意外と視界が悪い」「この動きでこうはならないはず」といった感覚は、実際に行かなければわかりません。
周辺のコンビニなどに防犯カメラがないか確認し、直接協力をお願いすることもあります。電話では断られても、足を運ぶと応じていただけることがあるからです。医師に意見書をお願いする際も同じです。事前にその医師の書いた論文などを読み込み、直接会って丁寧に話をすることを心がけています。
4. 交通事故の被害にあったらすべきこと
――交通事故の被害に遭ったとき、被害者自身が気をつけるべきことはありますか。
医師に診てもらう際は、症状の申告漏れをなくすことです。首の痛みだけでなく、めまい・耳鳴り・しびれ・頭痛なども、事故直後に申告されていなければ「事故との因果関係がない」と判断されることがあります。私は初回相談で、頭のてっぺんから足先まで順番に症状を確認します。誰かに聞いてもらうことで「この症状もあったな」と気づくことがあるからです。
注意してほしいのは、症状が残っているのに医師への気遣いから「先生のおかげで良くなりました」と言ってしまうことです。カルテに一度「症状改善」と書かれると、後で再び訴えても「不自然な経過」と見なされ、等級認定に影響することがあります。症状はそのまま正直に伝えてください。
一方で、大げさな申告も逆効果です。「事故直後よりも症状がひどくなった」と伝えると、事故との因果関係を否定される根拠になりかねません。端的に「ここが痛い」「しびれがある」と言いましょう。
――後遺障害など複雑なケースであるほど、交通事故に強い弁護士に依頼することの大切さを実感しました。弁護士を選ぶポイントがあれば教えてください。
知識と熱量の両方を持ち合わせた弁護士を探していただきたいです。交通事故の損害賠償は、弁護士が入るというだけで慰謝料額が上がることも多く、弁護士として参入しやすい分野でもあります。
ただし、損害賠償額の交渉に立つ前段階の話、特に後遺障害等級の認定を適切に受けるという点については、弁護士であるというだけでは何の意味もなく、医学的知識・理解や等級獲得のノウハウがないと難しく、弁護士ごとの差が出やすくなります。
そのほか、保険をいかに使うか、という点も専門的な知識が必要となります。後遺障害等級の認定や保険の適切な利用も含めて「本当に戦える弁護士か」を見極めることが重要です。
一つの目安になるのが、初回相談での見立ての明確さです。「今の症状からこの等級が見込まれる」「示談交渉でこのくらいの金額を目指す」「この金額を下回れば裁判も検討する」といった方針を示せる弁護士かどうかは、判断材料になると思います。
――賠償金以外に、交通事故案件に長(た)けた弁護士に依頼すると変わることはありますか。
刑事裁判になって加害者に適正な刑罰を求めたいという場合、実刑になるか執行猶予がつくかといった結果にも影響することがあります。交通死亡事故のような重い案件では、「被害者参加制度」を利用するという選択肢もあります。被害者やご遺族が法廷で意見を述べたり、被告人に直接質問したりできる制度です。「お金の問題だけではなく、加害者にきちんと向き合ってほしい」という思いに応える手段にもなります。
知識と熱量のある弁護士であれば、賠償金だけでなく、そうした気持ちに寄り添った解決も目指せます。
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5. 賠償金が1500万円から約1億4000万円に
――これまでに多くのケースを手がけられてきたと思いますが、その中でも特に印象に残っている交通事故の案件を教えてください。
もともと胃がんを患っていた方が、交通事故で寛骨臼(かんこつきゅう)骨折という大けがを負った案件です。
この方は手術の際に院内感染を発症し、その後、がんが肺に転移して亡くなられました。しかし保険会社側は、もともとのがんを理由に交通事故と死亡との因果関係を認めず、示談金として約1500万円を提示していました。
当然ご家族は納得できず、弁護士事務所を何軒も回られたそうです。ところが「うちでは難しい」「対応できない」と断られ続け、最終的に県外の当事務所へ相談に来られました。
――その依頼にどのように対応されたのでしょうか。
私はまず、数千枚に及ぶカルテを読み込みました。そこで気づいたのが、被害者の方が亡くなる前に高次脳機能障害の症状を示していたことです。
下半身の骨折事案で脳の後遺障害を主張するのは極めて異例ですが、「骨折の手術→院内感染→脳への影響」という流れが成り立つのではないかと考えました。死亡との因果関係を立証するのは非常に難しい案件でしたが、高次脳機能障害という別の角度から見直すことで突破口が見えてきたのです。
手術を受けた病院へ赴き、7~8人の医師と数時間協議を重ねた結果、「交通事故による院内感染が高次脳機能障害を引き起こした」との見解で協力を得られ、意見書など医学的証拠を5通作成していただきました。その結果、自賠責保険の「因果関係不明」という判断が覆り、後遺障害1級の認定を受けることができました。
その後、裁判を経て最終的な賠償金は約1億4000万円。解決まで約4年かかりましたが、当初の示談提示額から約10倍に引き上げることができました。解決後、ご遺族は事務所まで挨拶に来てくださいました。賠償金の額だけでなく、裁判に勝ったというところで喜んでくださったことが、今も印象に残っています。
――お父様もこうした小杉先生の活躍を見て、心強い気持ちでいらっしゃるのではないでしょうか。
先日、後遺障害等級認定の実務に関する本を共著で出したとき、その本の裏表紙に「けがを抱えながら仕事を続けてくれたおかげで今がある」というメッセージを書いて渡しました。これまで父とバイク事故について改まって話したことはなかったのですが、父はとても喜んでくれました。本の内容は専門的なので、わからないと思うんですけどね(笑)。
6. まだ見ぬ判決をめざして
――今後の展望を教えてください。
目標は二つあります。一つは、損害賠償事案の判例誌への掲載件数で日本一を目指すこと。もう一つは、最高裁判決を勝ち取ることです。
最高裁の判決は全国の裁判所の基準になります。その判決は、その後の裁判実務に大きな影響を与えるものです。現在の賠償基準には被害者の実情にあわせて改善すべき点もあると感じており、日々の裁判で問題提起を続けています。いつか最高裁で、より被害者に寄り添った基準を勝ち取りたいと考えています。まだまだ道半ばですね。
――最後に、交通事故に遭って不安を抱えている被害者やご家族に向けて、メッセージをお願いします。
やはり、交通事故に強い弁護士に相談してほしいと思います。私の父は賠償金ももらえず今でも腕が思うように動かず、長年にわたって苦しんできました。もし当時、私が弁護士であれば、父の事故ももっと違う結果にできたのではないかと思うのです。だからこそ、適切な解決につなげるために、一人で抱え込まず、早い段階で専門家の力を借りてほしいと思っています。
弁護士法人小杉法律事務所
2020年に東京都中央区に開設。現在は横浜・大阪・福岡にも事務所を構え、代表の小杉晴洋弁護士を含め男女14名の弁護士が在籍している。交通事故・労災・学校事故・介護事故などの被害者の損害賠償請求や後遺障害等級認定に特化した法律事務所として、全国から相談を受け付けている。
(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)
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