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1. 交通事故に遭ったら、精神的苦痛の慰謝料はもらえる?
慰謝料の定義や示談金との違い、慰謝料の内容について解説します。
1-1. そもそも慰謝料とは
慰謝料とは、身体的苦痛および精神的苦痛に対する賠償金を言います。示談金は治療費や休業損害などを含め、交通事故の当事者間で合意した賠償金の総額です。慰謝料は、治療費や休業損害などいくつかの費目に分かれる示談金のうちの一つにあたります。
1-2. 精神的苦痛は「4種類の慰謝料」に分けて評価される
精神的苦痛に対する慰謝料には、次の4種類があります。
入通院慰謝料:けがの治療期間に応じた慰謝料
後遺障害慰謝料:後遺症が残ったことに対する慰謝料
死亡慰謝料:事故により本人が亡くなった場合の慰謝料
近親者慰謝料:死亡または後遺症が残った被害者の家族に対する慰謝料
精神的苦痛に対する慰謝料は、けがによる通院や後遺障害、死亡といった具体的事実に基づいて認められます。
1-3. 人身事故なら慰謝料を請求できる|物損事故で慰謝料請求が難しい理由
慰謝料は生命や身体に生じた精神的苦痛に対するものであり、交通事故によってけがをした場合や、死亡した場合に請求できます。
けがのない物損事故では、大事にしていた車が損傷した場合であっても、原則として慰謝料は請求できません。物損事故は財産に対する損害であるため、修理代などを賠償すれば被害者の精神的苦痛も和らぐと考えられています(名古屋地方裁判所平成12年2月28日判決、東京地裁八王子支部平成14年3月28日など)。
弁護士である筆者も、交通事故に限らず、芸術作品や結婚指輪などの特殊事例以外では、物の損害について慰謝料が認められた事例を手がけた経験はありません。
2. 交通事故に関する慰謝料の計算方法と相場
慰謝料の算定に用いられる3つの基準のほか、4種類の慰謝料それぞれの計算方法と相場について解説します。
2-1. 慰謝料を算定する3つの基準
慰謝料の算定には、主に「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」の3つの基準が用いられます。
【自賠責保険基準】
自賠責保険基準はすべての自動車に加入が義務づけられている自賠責保険における賠償基準です。国が定めた支払基準にのっとり、交通事故の最低限度の補償が定められています。
【任意保険基準】
任意保険基準は、任意保険会社が独自に定めている基準で、通院期間などをもとに算定します。賠償金額は自賠責保険基準と同等、または若干高いケースが多いです。この基準は一般的には公開されていません。
【弁護士基準(裁判所基準)】
弁護士基準は過去の判例に基づいて定められた基準で、弁護士による交渉や裁判などの際に参照されています。主に入通院期間の長さに従って慰謝料額を算定しますが、医師などの第三者が客観的に確認できる異常(他覚所見)のないむちうちなどの場合は、実際に通院した実日数が少ないと慰謝料が減額される可能性があります。
事案によって異なるものの、弁護士基準を100%とすると、自賠責保険基準が60%から70%、任意保険基準が70%から80%程度の慰謝料額になるとイメージするとわかりやすいでしょう。保険会社は自賠責保険基準や任意保険基準による金額を提示してくるケースが多いです。そのため、被害者が適正額の慰謝料を受け取るには弁護士基準で請求することが大切です。
2-2. 入通院慰謝料|入院や通院の期間に応じて決まる
入通院慰謝料はけがをしたことで、病院に入院や通院をした場合に認められる慰謝料です。
【自賠責保険基準における入通院慰謝料】
自賠責保険基準は、「通院期間の総日数」と「実際に通院した日数×2」のいずれか短いほうの日数に、日額4300円をかけて入通院慰謝料を計算します。
したがって、他覚所見がないむちうちで通院期間が90日、実通院日数が40日の場合、計算式は次のとおりです。
40日×2×4300円=34万4000円
【任意保険基準における入通院慰謝料】
任意保険基準は、一般的には公開されていません。しかし、入通院慰謝料の金額は自賠責保険基準と同等、または若干高いケースが多いです。
【弁護士基準における入通院慰謝料】
弁護士基準では、日弁連交通事故相談センターが発行する『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(通称「赤い本」)に掲載されている入通院慰謝料早見表に基づいて入通院慰謝料を計算します。
表には、むちうちなど客観的な検査結果がないケースで使われる軽傷用の「別表Ⅱ」と、それ以外の重傷の場合に使われる「別表Ⅰ」があり、どちらも通院期間に応じて慰謝料が決められます。
【別表Ⅱ:弁護士基準による入通院慰謝料の算定表(軽傷用)】
【別表Ⅰ:弁護士基準による入通院慰謝料の算定表(重傷用)】
したがって、医師などの第三者が確認できる異常がないむちうちで、入院はせず、通院期間が90日、実通院日数が40日の場合、交通事故の入通院慰謝料早見表(軽傷の場合)のとおり、入通院慰謝料は約3カ月で53万円になります。
2-3. 後遺障害慰謝料|後遺障害等級に応じて決まる
後遺障害慰謝料は、治療終了後に後遺障害が残った場合に認められる慰謝料です。後遺障害等級は1級から14級に区分されており、それぞれの等級に応じて一定額の後遺障害慰謝料が定められています。裁判では必ずしもこの金額になるわけではないものの、弁護士基準に近い金額の判決が出るケースが多いです。
自賠責保険基準における後遺障害等級別の慰謝料額、および通称「赤い本」に基づく弁護士基準における後遺障害等級別の慰謝料額は下表の通りです。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|
要介護1級 | 1650万円 | 2800万円 |
要介護2級 | 1203万円 | 2370万円 |
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
2-4. 死亡慰謝料|家庭内での立場などに応じて決まる
自賠責保険基準 | 弁護士基準 | |
|---|---|---|
死亡慰謝料 | 被害者本人分:400万円 | 被害者本人と遺族の合計 ・一家の支柱:2800万円 ・母親、配偶者:2500万円 ・そのほか:2000万円~2500万円 |
【自賠責保険基準における死亡慰謝料】
死亡慰謝料の表のとおり、交通事故によって亡くなった被害者本人の慰謝料額は400万円です。
【弁護士基準における死亡慰謝料】
死亡慰謝料は弁護士基準だと被害者が一家の支柱の場合2800万円、配偶者などが2500万円、そのほかの場合は2000万円から2500万円とされています。
2-5. 近親者慰謝料|被害者との関係性に応じて決まる
近親者慰謝料は、主に被害者の死亡、または重度の後遺障害によって家族が受けた精神的苦痛に対して支払われます。
【自賠責保険基準における近親者慰謝料】
交通事故により被害者が死亡した場合、本人の死亡慰謝料とは別に、遺族分の慰謝料が定められています。養父母を含む被害者の父母のほか、配偶者および子(養子や認知した子、胎児を含む)を対象とし、請求権のある人が1人の場合には550万円、2人の場合には650万円、3人以上の場合は750万円とされています。また、死亡した被害者に被扶養家族がいる場合は、さらに200万円が加算されます。
【弁護士基準における近親者慰謝料】
被害者が死亡した場合、死亡慰謝料とは別に、被害者の配偶者や子、父母について、近親者慰謝料が認められる可能性があります。近親者の慰謝料額は、続柄や扶養の有無、親等など、被害者との関係性が考慮されます。近親者慰謝料の金額は事案により異なりますが、配偶者が最も高く、子、両親などの順に低くなっていく傾向にあります。
慰謝料額の幅は大きいものの、一般的には100万円から400万円程度の範囲内に収まるケースが多いです。
3. うつ病やPTSDなどの精神疾患も後遺障害に認定されうる
身体的なけがだけでなく、交通事故のショックを原因とするうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などが慢性化した場合にも、精神障害に該当するとして後遺障害等級が認定される可能性があります。
後遺障害等級の認定を受けるためには医学的な証明が必要であり、そのための資料をそろえたり必要な手続きを進めたりするのは容易ではありません。しかし、あきらめる必要もありません。こうしたケースこそ、交通事故問題に精通した弁護士のサポートが不可欠です。
交通事故による精神疾患で精神的苦痛を受けている場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
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4. 交通事故による精神的苦痛の慰謝料が増額されるケースは?
次のようなケースでは、交通事故による精神的苦痛の慰謝料が増額される可能性があります。精神的苦痛が考慮されたことで慰謝料が増額された判例や事例も併せて紹介します。
加害者から不誠実な対応を受けた
加害者の運転行為がきわめて悪質である
生活やキャリアなどに、通常を上回る大きな影響が生じた
特に精神的苦痛が考慮され、慰謝料が増額された実際の判例や事例
4-1. 加害者から不誠実な対応を受けた
ひき逃げや証拠隠滅のほか、車を蹴られる、侮辱されるなどの著しく不誠実な対応を受けた場合は、精神的苦痛を増大させる要因として評価され、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
4-2. 加害者の運転行為がきわめて悪質である
無免許運転や飲酒運転、危険運転やあおり運転、明らかな信号無視など、被害者に強い恐怖を感じさせるような悪質な運転を加害者がしていた場合は、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
弁護士である筆者の経験上も、ひき逃げや飲酒運転、事故後に車両を蹴られるなどの事例では、任意保険会社が慰謝料の増額に柔軟に応じることが多いです。この場合、本来の慰謝料の1割から2割程度が上乗せされるケースが多く見られます。
4-3. 生活やキャリアなどに、通常を上回る大きな影響が生じた
流産や留年、内定取り消し、失職、離婚など、交通事故により一般的に生じる程度を超える影響が被害者に生じた場合は、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
ただし、事故によるけがと、これらの事情との因果関係を客観的に証明することが必要になります。
たとえば、東京地裁平成25年1月25日判決は、法科大学院の受験生が試験で支障が生じたことを理由に入通院慰謝料とは別に15万円を認めました。このほかにも、大阪地裁令和2年6月10日判決では、入通院期間が高校生活のほとんどすべてを占めた高校生に対して慰謝料の増額を認めています。
4-4. 特に精神的苦痛が考慮され、慰謝料が増額された実際の判例や事例
顔や首といった日常的に露出する部位にけがの痕が残る「外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)」などの場合、仮に後遺障害等級の認定が受けられても、事故がなければ得られるはずだった「逸失利益」が否定されるケースも少なくありません。
ただし、その代わりに慰謝料請求の増額で補完する方法をとる裁判例が多いです。名古屋地裁平成29年1月25日の判決では、外貌醜状による逸失利益は否定されたものの、慰謝料の増額は認められています。
弁護士である筆者の経験上も、後遺障害等級に該当しないと判断されても、外貌醜状などが残った場合、入通院慰謝料の増額が認められるケースが多くあります。
ほかに、複数の後遺障害がある場合、最も重い等級を基準に等級を繰り上げる「併合」というルールがあります。たとえば、後遺障害等級14級の頸椎(けいつい)ねんざと、12級の外貌醜状など別の後遺障害が残った場合、併合ルールを適用しても等級が繰り上がらないため、通常は慰謝料額は増えません。しかし、このようなケースにおいて、精神的苦痛が正当に評価されていないとして、慰謝料増額が認められる可能性があります。
5. こんな場合は交通事故の慰謝料がもらえる、もらえない?
交通事故に遭った場合に慰謝料を受け取れるケースと受け取れないケースについて解説します。
5-1. 物損事故でも慰謝料が認められる例外的なケースは?
物損事故の場合、けがをしていなければ、原則として慰謝料は請求できません。車の損傷などは修理費などでカバーされるにとどまります。これは、財産権侵害はその損害を補填することで精神的苦痛が慰謝されると解釈されるためです。
物損事故における慰謝料は、財産的損害の回復だけでは償いきれない多大な精神的苦痛があると認められる場合に発生すると言われることがあります。しかし、具体的に物損事故でも慰謝料を請求できるケースとしては、加害者が事故後に自動車を蹴って壊した場合や事故でペットが死亡した場合、芸術作品、形見の品を失った場合などに限られます。筆者の弁護士としての経験上でも、非常にまれです。
5-2. 事故が原因でうつ病やPTSDを発症した場合、慰謝料はもらえる?
事故によりうつ病やPTSDなどを発症し、主に9級から14級の後遺障害等級が認定される場合があります。この場合、後遺障害等級に応じて後遺障害慰謝料が認められます。しかし、因果関係の証明は難しいです。
後遺障害が認定されるためには、整形外科への通院のみならず、精神科への継続的な通院が必要です。脳の損傷や病気といった体の異常がないにもかかわらず、精神や身体に不調が現れる「非器質性障害」と呼ばれる状態に関する各等級の後遺障害の認定基準は次のとおりです。
9級10号:非器質性障害のため日常生活において著しい支障が生じる
12級13号:非器質性精神障害のため、日常生活において頻繁に支障が生じる
14級9号:非器質性精神障害のため、日常生活においてときどき支障が生じる
ただし、うつ病などが後遺障害に満たない場合でも、事故による精神症状が認められる場合は入通院慰謝料が増額されることがあります(金沢地裁平成30年7月25日判決)。
弁護士である筆者も、交通事故の頸椎ねんざでライフワークだった仕事ができなくなり、結果として自殺した依頼者の裁判を行いました。この事案では、精神科への通院歴や遺書などがなかったために死亡との因果関係は否定されたものの、慰謝料増額は認められました。
5-3. 事故前からうつ病を患っていたら慰謝料は減額される?
交通事故の被害者に事故前から持病や体質的な特徴などがあった場合、その割合に応じて損害賠償額を減額する制度を「素因減額」と言います。
被害者がもともとうつ病などを患っていた場合には、後遺障害等級が認定されなかったり、素因減額(そいんげんがく)をされたりすることがあります。また、うつ病によって入通院期間が長引いた場合も同様に素因減額をされる可能性があります。
素因減額は、心因的素因と体質的素因に分けられます。事故の結果が被害者のもともとの性質や状況に由来する場合、「損害の公平な分担」という考え方から賠償額が減額されます。減額幅はさまざまで、10%から70%と幅広いです。自殺などは素因減額率が非常に大きく、70%が減額されます。
5-4. 被害者本人だけでなく、家族(近親者)も慰謝料を請求できる?
被害者が死亡した場合や、重度後遺障害など死亡と同程度の精神的苦痛を被った場合、家族などの近親者には近親者慰謝料が認められます。原則として父母と配偶者、子が対象ですが、兄弟姉妹や祖父母などであっても、たとえば生活をともにしており密な家族関係がある場合などには認められるケースがあります。
5-5. 自分の過失が100%の場合は請求できない?
交通事故の「過失相殺」とは、事故の発生や損害の拡大について被害者にも落ち度がある場合に、損害を加害者と被害者の間で公平に分担するために行う賠償額の減額を言います。
追突など、交通事故の責任が100%自分にある場合は、仮にけがをしたとしても慰謝料請求はできません。
相手方に一部でも過失があれば、その割合に応じて慰謝料を請求できるものの、過失が大きい場合は、賠償額がわずかにとどまる、あるいは自賠責保険のみから回収するのが一般的です。なお、自賠責保険でも過失が大きい場合には減額されます。
6. 交通事故の被害者が請求できる、慰謝料以外の賠償金
交通事故の被害者が請求できる慰謝料以外の損害賠償金は次の3つです。
6-1. 積極損害|治療費や通院交通費、弁護士費用など
積極損害とは、事故がなければ被害者が支払わなくて済んだはずの出費や費用を言います。主に「治療関係費」「通院交通費」「弁護士費用」が該当します。
【治療関係費】
必要かつ相当な範囲での病院や整骨院などの治療費をはじめ、器具代や文書料、入通院時の付添費用、入院時の雑費(日額1500円)、介護が必要になった場合の将来介護費などが認められます。
【通院交通費】
自宅から病院への交通費が認められます。公共交通機関の場合は実費、自家用車の場合は、自宅から病院までの距離を算出し、ガソリン代として1km15円と計算するのが一般的です。
【弁護士費用】
弁護士費用は一般的に損害額の10%とされています。ただし、弁護士費用が積極損害として認められるのは基本的に判決の場合であり、交渉や訴訟上の和解などでは加算されないケースが多いです。
6-2. 消極損害|休業損害や逸失利益など
交通事故に遭わなければ本来得られるはずだった利益を「消極損害」と言い、主に「休業損害」や「逸失利益」が該当します。
【休業損害】
交通事故によって仕事を休まざるを得なかったために生じた収入の減少を「休業損害」と言い、加害者側に補償を請求できます。休業損害は、けがを理由に休業をした場合に認められます。自営業者や従業員だけでなく、パートなどの兼業主婦または主夫、専業主婦または主夫も、女性の平均賃金に基づいた損害額が認められます。
【逸失利益】
逸失利益とは、交通事故による後遺障害や死亡がなければ、将来得られるはずだった収入です。後遺障害が認定された場合や、被害者が死亡した場合に請求できます。後遺障害等級1級から14級まででそれぞれ将来の減収をもたらす程度を示す「労働能力喪失率」と将来働けなくなる期間である「労働能力喪失期間」が定められています。
さらに、事故前年度の収入状況から算出した基礎収入やライプニッツ係数などを用い、次のような式で計算します。ライプニッツ係数とは、逸失利益を一括で受け取る際、前倒しで受け取ることで生じる利息分(中間利息)を控除して「現在の価値」に換算するための数値を言います。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数
なお、逸失利益は主婦または主夫はもちろん、実際に働いていない学生や若年者についても認められる可能性があります。
6-3. 物的損害|車両修理費など
交通事故によって生じた車両や家屋、衣類、携帯品などに対する財産的損害が「物的損害」です。物的損害として、次のものが認められます。
【修理費】
車両の修理にかかった費用です。原則として見積書に記載された金額が損害額となります。
【買替費用】
事故で壊れた車の修理費用が、その車の現在の価値(時価額)を上回る状態を「経済的全損」と言います。物理的または経済的全損のため、修理ではなく買い替えが必要な場合の費用が、買替費用です。
【登録手続費用】
車の買い替えに伴う検査や登録費用、車庫証明費用、登録手続代行費用などの損害です。
【評価損】
車を修理しても外観や機能に欠陥が生じる場合、または事故歴により商品価値が下がる場合に生じる損失です。修理代の一定割合(2割程度が多い)や、事故前の時価との差額を査定することで認められます。
【代車費用】
修理または買替期間中にレンタカー使用などの必要がある場合に認められます。一般的には1週間から2週間ですが、部品の取り寄せなどのために代車が長期間必要な場合は、それ以上の相当期間が認められます。
【休車損】
営業車が事故に遭い、修理や買い替えのために仕事に使用できなくなったことで生じた営業利益の損失を「休車損」と言います。この場合、修理や買替期間中の営業上の損失が損害賠償として認められます。
【そのほか】
そのほかの損害賠償金として、壊れた車のレッカー代や被害者が身につけていた衣服や持ち物の破損といった「着衣損」などが該当します。
7. 慰謝料請求のタイムリミットは?【請求権の時効】
慰謝料の請求権には時効があり、請求権を主張しないまま一定期間が過ぎると、加害者側に慰謝料を請求する権利が消滅します。この制度を「消滅時効」と言います。人身事故の場合と物損事故の場合の慰謝料請求のタイムリミットと、時効を中断させる方法について解説します。
7-1. 人身損害の場合(傷害、後遺障害、死亡)
人身損害の消滅時効は、「誰に対する請求か」と「受けた被害が傷害(けが)、後遺障害、死亡のいずれなのか」で異なります。加害者への請求の場合と自賠責保険への請求の場合の時効は次のとおりです。
【加害者への請求】
本的に、被害者が「損害および加害者を知ったとき」から5年、または「不法行為の時点」から20年で時効が成立します。ひき逃げなどで加害者がわからないケースでは、事故日から20年がタイムリミットとなります。
そのため、加害者が特定できている通常の交通事故であれば、時効期間は次のとおりです。
傷害(けが):交通事故の事故日から5年
後遺障害:これ以上治療しても症状の改善が見込めないと医師などが判断する「症状固定」の日の翌日から5年
死亡:死亡した日から5年
なお、上記は2020年4月1日の改正民法後の時効期間ですが、改正民法施行時に3年の時効が完成していなかった事案も5年となります。
【自賠責保険への被害者請求】
自賠責保険に慰謝料請求するには、被害者自身で必要書類をそろえて提出する被害者請求という方法があります。この際の時効期間は次のとおりです。
傷害(けが):交通事故発生日の翌日から3年
後遺障害:症状固定日の翌日から3年
死亡:死亡した日の翌日から3年
なお、2010年3月31日までに発生した事故についての時効期間は2年です。
7-2. 物損の場合
物損事故の時効期間は、交通事故日から3年です。人身事故と異なり、5年ではない点に注意が必要です。
7-3. 時効を中断(更新)、完成猶予させる方法とは
一定の出来事があった場合に、それまで進行していた時効のカウントがリセットされる仕組みを「時効の中断(更新)」と言います。また、一定のアクションを起こすことで時効が成立(完成)するのを防ぐ仕組みを「時効の完成猶予」と言います。
時効の完成により慰謝料の請求権が消滅しないよう、時効を中断(更新)、または完成猶予させる方法として、次のものが考えられます。
【加害者への損害賠償請求】
加害者への損害賠償請求権の消滅時効の中断(更新)事由には、「確定判決など」「強制執行など」「権利の承認」があります。
確定判決と強制執行は相手に慰謝料の支払能力がない場合などに問題となりますが、加害者が任意保険に加入していたり、無保険でも分割払いがされたりすることの多い交通事故ではあまり問題になりません。
一方で、権利の承認は問題になるケースが少なくありません。治療期間が非常に長い場合や、後遺障害の認定に時間がかかる場合などです。このような場合に時効を中断(更新)するには、具体的には加害者から損害賠償請求権を認めること、本件交通事故の賠償において消滅時効の援用をしないことの確認書を得ます。
また、加害者側の保険会社が治療費について一括対応で支払いをしており、賠償額の提示があったり、示談の交渉が継続していたりする場合は、権利の承認として時効の中断(更新)が生じ、その時点から新たに消滅時効がスタートすると解されています。しかし、この権利の承認の効力が及ぶ範囲については見解が分かれています。
たとえば、保険会社が一部の治療内容あるいは治療期間と事故との因果関係について明らかに争う姿勢を見せている場合などは、争われている部分には承認の効果が及ばないと主張され、後日裁判等で認められなくなる、あるいは結果的に救済されても不要な争点を増やすことがあります。
弁護士から見ると、消滅時効の起算点は、実務的にもミスが生じやすい部分です。加害者の保険会社が一括対応をしていると思っていたら、因果関係を争われて被害者の人身傷害保険が治療費を支払っていたなどのケースが少なくありません。実際に弁護士である筆者も、ほかの弁護士が消滅時効を完成させ、解任された事件を引き継いだ経験があります。
そのため、治療費や入通院慰謝料などは、必ず交通事故日から消滅時効を起算し、時効の管理をするのが無難です。
また、消滅時効の完成が直前に迫っている場合で、権利の承認などの手続きを取れない場合、内容証明郵便の送付(催告)や、訴訟の提起を行います。この手続きが「時効の完成猶予」です。
催告は催告から6カ月間猶予され、訴訟提起は訴訟が終了するまで消滅時効が猶予されます。本当に時間がない場合は、すぐに作成できる内容証明郵便と特定記録郵便などを併用して催告書を送付し、それにより生じた猶予期間中に資料をそろえて訴訟提起をするのが一般的な実務の流れです。
訴訟提起さえすれば、加害者が争点としている部分も含めて消滅時効が完成しなくなり、そのまま確定判決が出た時点で消滅時効が新たに更新されます。そのため、消滅時効の成立が近い場合に時効の完成猶予を行うには、強力な効力を持つ訴訟提起が有効な手段です。
【自賠責保険への被害者請求】
自賠責保険に「時効更新申請書」を提出します。更新が認められれば、更新時からあらためて時効期間がスタートします。ただし、この申請と加害者に対する損害賠償請求はまったく別のものです。自賠責保険に時効更新申請書を提出したからといって、加害者に対する時効が更新されるわけではない点に注意が必要です。
8. 交通事故で適正な慰謝料を獲得するための流れ
交通事故による精神的苦痛に対する慰謝料を受け取るまでの流れは次のとおりです。
8-1. ステップ1|警察への届出と病院での受診
物損事故を含め、交通事故が発生した場合には警察へ報告する義務があります。110番通報をしましょう。また、後日事故とけがの因果関係を争われることが多いため、事故後なるべくすみやかに医療機関を受診しましょう。当日か翌日までに整形外科を受診することが望ましいです。近くの医療機関が休みの場合には、多少遠方であっても医療機関に行き、後日転院をしてください。
8-2. ステップ2|完治または症状固定まで治療を受ける
最終的な損害賠償を請求するのは、治療の完了後になります。医師の指示に従って完治、または「これ以上治療しても症状の改善が見込めない」という症状固定の診断を受けるまで治療を続けます。
8-3. ステップ3|後遺障害等級の認定を受ける
後遺症が残っている場合は、後遺障害等級の認定を申請します。後遺障害等級が認定されないと、後遺障害慰謝料も逸失利益も認められません。
後遺障害認定の申請方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2つがあります。
事前認定は、加害者側の保険会社が被害者の代わりに資料を集めて申請してくれるため、手間はかかりません。ただし、どんな資料が提出されたか被害者側で確認できないため、適切な等級が認定されず、結果的に賠償金が少なくなってしまうおそれがあります。
被害者請求は被害者側が行う手続きです。必要最低限の資料を添付する事前認定と異なり、被害者側が必要と考える資料を添付できます。手間はかかるものの、より充実した資料を提出することで被害者に有利な請求ができる被害者請求が推奨されています。
8-4. ステップ4|損害を集計し、証拠資料をまとめる
実際の通院や、後遺障害の等級などをもとに、治療費や休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料など、損害額の総額を計算します。弁護士に依頼している場合は弁護士基準で算定します。
損害の算定には、診断書や診療報酬明細書、休業損害証明書、収入資料、後遺障害診断書、後遺障害等級認定通知などが必要になります。弁護士に依頼していれば、それらの資料の整理や管理は弁護士が行うため、被害者本人の負担は大きく軽減されます。
8-5. ステップ5|保険会社からの損害賠償提示を受ける
示談交渉のなかで、加害者側の保険会社から損害賠償額の提示を受けます。多くの場合、自賠責保険基準か任意保険基準が使用されるため、弁護士基準で算出した金額より低い賠償額が提示されるのが一般的です。
8-6. ステップ6|保険会社からの提示額の妥当性を確認する
被害者側が算出した「正当な金額」を基準に、保険会社の提示が妥当かどうかを判断し、交渉に臨みます。請求額と提示額を比較し、増額交渉の方針を立てます。
8-7. ステップ7|弁護士による示談交渉を進める
弁護士に依頼していれば、示談交渉はすべて弁護士が行うため、被害者は報告や提案に対する決断をするのみで済みます。類似事例における賠償金の相場や、訴訟に移行した場合の見通しのほか、「示談に応じる選択が有利に働くのか」などについての助言も得られます。
8-8. ステップ8|示談不成立なら交通事故ADRや民事訴訟へ
示談交渉がまとまらないときは、交通事故ADRや訴訟で解決を図ります。
ADRは裁判外紛争解決手続と呼ばれ、裁判によらずに交通事故に関する紛争を解決するための手続きです。「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」や「公益財団法人 日弁連交通事故相談センター」などで利用でき、弁護士をつけなくても弁護士基準の賠償額提示を受けられるほか、数カ月という早期での解決も期待できます。
ただし、複雑困難な事案や、双方で争いが大きい事件の解決には向きません。また、一定の主張立証が求められるため、自身の加入する保険に弁護士特約が付帯していれば弁護士をつけるほうがよいケースもあります。
民事訴訟(裁判)は裁判所で行うため時間や労力がかかるものの、交通事故ADRとは異なり、納得のいかない部分について妥協せずに結論を得られます。ただし、裁判の見通しを誤ると、認められる金額が交渉時より下がってしまう可能性もある点に注意が必要です。
9. 交通事故の慰謝料請求について、弁護士に相談や依頼をするメリット
交通事故の慰謝料請求を弁護士に依頼することで、次のようなメリットが得られます。
弁護士基準での請求などにより、慰謝料の増額が期待できる
示談交渉や裁判手続きについて専門的な対応を任せられる
保険会社の担当と話すのが難しい場合に、けがの治療や生活に専念できる
また、被害者自身が加入する自動車保険などに「弁護士特約(弁護士費用特約)」が付帯している場合、弁護士費用の自己負担なく、あるいは少ない費用負担で弁護士に依頼できます。弁護士特約の有無を確認したうえで、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
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10. 交通事故による精神的苦痛に関してよくある質問
Q. 交通事故の慰謝料などの賠償金には、税金は課される?
所得税法上、心身に加えられた損害に起因して取得する損害賠償金は非課税とされているため、交通事故の賠償金は基本的に課税されないと解釈されています。
Q. 精神的苦痛の慰謝料請求権の時効は?
加害者への損害賠償請求権の時効は、被害者が「損害および加害者を知ったとき」から5年、または「不法行為の時点」から20年です。けがや後遺障害など請求根拠によって、時効の起算点が違うため、注意が必要です。
Q. 事故以前からうつ病などの精神疾患を抱えていた場合、慰謝料は減額される?
精神疾患が原因で入通院が長引いた場合には、入通院慰謝料の減額要因として考慮される可能性があります。
Q. 加害者が自賠責保険にすら加入していない無保険者だった場合、慰謝料は誰に請求する?
加害者が自賠責保険にも加入していない場合、慰謝料は加害者本人に請求するのが原則です。しかし、「政府保障事業」を利用することもできます。政府保障事業とは、加害者から賠償を受けられない被害者を国が救済するため、損害を国が立て替える制度です。労災給付などが差し引かれるなど例外はあるものの、補償額は自賠責保険と基本的に同じ水準と考えて差し支えありません。
11. まとめ 交通事故による精神的苦痛に対する慰謝料を請求したい場合は弁護士に相談を
交通事故の被害に遭った場合、身体的にも精神的にも苦痛を受けます。この際、休業損害や逸失利益に並んで大きな金額になるのが慰謝料です。精神的苦痛に対する慰謝料は「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」「近親者慰謝料」として加害者側に請求できます。
慰謝料の算定には3つの基準があり、弁護士が交渉で用いる弁護士基準が最も高い慰謝料額を算出できます。納得のいく賠償を受けるためには、適正額の慰謝料を認めてもらう必要があります。
また、慰謝料は必ずしも基準どおりの定額とは限らず、特別な事情がある場合には増額が認められるケースもあります。交通事故で受けた精神的苦痛に対する正当な慰謝料を加害者側に請求したい場合、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2026年9月1日時点の情報に基づいています)
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