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1. 当て逃げ(ひき逃げ)の時効期間は何年?
当て逃げをした人は、民事・刑事・行政上の責任を負う可能性があります。ただし、各責任には時効などの期間制限があります。時効期間が経過すると、時効を援用すること(時効が完成したことを主張すること)で責任を免れる可能性があります。
下記は、民事・刑事それぞれの時効の一覧表です。
事故類型 | 起算点 | 時効期間 |
|---|---|---|
物損事故のみ(当て逃げ) | 事故発生時 | 3年または20年(いずれか短い方) |
人身事故(けが) | 事故発生時 | 5年または20年(いずれか短い方) |
後遺障害あり | 症状固定の診断時 | 5年または20年(いずれか短い方) |
死亡事故 | 死亡時 | 5年または20年(いずれか短い方) |
成立し得る罪 | 内容 | 時効期間 |
|---|---|---|
報告義務違反(道路交通法) | 物損事故なのに警察へ報告しなかった場合など | 3年 |
過失運転致傷罪 | 被害者が負傷した場合 | 5年 |
過失運転致死罪 | 被害者が死亡した場合 | 10年 |
救護義務違反(ひき逃げ) | 救護せず立ち去った場合 | 5年 |
1-1. 人身損害の民事責任の時効|5年または20年
「当て逃げ」は物損事故(=当事者がけがをしていない事故)を指すのが一般的ですが、相手方にけがをさせた場合は「ひき逃げ」と呼ばれます。ひき逃げをした場合、けがによって相手に生じた損害(=人身損害)を賠償しなければなりません。たとえば、けがの治療費や慰謝料などが人身損害に当たります。
人身損害に関する損害賠償責任の時効期間は、以下のうちいずれか短い方です。時効期間が経過すると、時効の援用によって損害賠償責任を免れます。
被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から5年
不法行為の時から20年
「損害を知った時」とは、以下の時点を指します。
・けがによる損害:けがを認識した時(通常は事故発生時)
・後遺障害による損害:症状固定(これ以上治療しても改善しない状態)の診断時
・死亡による損害:死亡時
「不法行為の時」とは、以下の時点を指します。
・けがによる損害:事故発生時
・後遺障害による損害:症状固定の診断時
・死亡による損害:死亡時
1-2. 物的損害の民事責任の時効|3年または20年
当て逃げによって他人の物を壊した場合は、それに伴う損害(=物的損害)について賠償責任が生じます。たとえば、車や建物の修理費、代車費用、営業上の損害などが物的損害に当たります。
物的損害に関する損害賠償責任の時効期間は、以下のうちいずれか短い方です。時効期間が経過すると、時効の援用によって損害賠償責任を免れます。
・被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年
・不法行為の時から20年
なお、人身損害(時効期間5年)と物的損害(時効期間3年)の両方が生じているときは、それぞれ別個に時効が進行すると解されています。
1-3. 刑事責任の時効|成立する罪によって異なる
当て逃げが物損事故にとどまる場合でも、警察官に対する報告を怠った場合、道路交通法違反の責任を問われることがあります。また、被害者にけがをさせた「ひき逃げ」に当たる場合は、過失運転致死傷罪や道路交通法上の救護義務違反などの責任を問われることがあります。
刑事責任については公訴時効が設けられており、時効期間が過ぎると起訴されることがなくなります。公訴時効期間は、成立する罪の法定刑によって異なります。
たとえば、警察官への報告義務違反の法定刑は「3カ月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金」とされており、公訴時効期間は3年です。
過失運転致死傷罪の法定刑は「7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」とされており、公訴時効期間は、被害者が死亡した場合は10年、負傷にとどまる場合は5年です。
道路交通法上の救護義務違反の法定刑は「5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」とされており、公訴時効期間は5年です。
1-4. 行政上の責任の時効|違反点数は原則3年間有効
交通事故を起こした場合、運転免許の違反点数が加算されることがあります。違反点数が一定以上累積すると、免許の停止処分や取消処分が行われます。
物損事故にとどまる当て逃げの場合は、原則として違反点数は加算されません。ただし、道路における危険を防止する措置を怠った場合は5点が加算されます。また、建造物を損壊した場合は2点または3点が加算されます。
また、被害者にけがをさせた「ひき逃げ」に当たる場合は、安全運転義務違反(2点)と救護義務違反(35点)、さらに被害者のけがなどの状況に応じた付加点数(2~20点)が加算されます。
運転免許の違反点数は、原則として3年間有効です。3年が過ぎると累積されなくなります。ただし、無事故・無違反の場合には優遇措置が適用され、より短期間で違反点数が累積されなくなることもあります。
なお、運転免許の取消処分を受けた場合は、欠格期間が経過するまで免許を再取得することができません。欠格期間は、前歴や累積違反点数などに応じて1~10年とされています。
2. 当て逃げ(ひき逃げ)の時効が完成(成立)しなくなるケース
損害賠償責任(民事責任)と犯罪の責任(刑事責任)に関する時効は、次の事由が生じると完成(成立)しなくなります。
2-1. 損害賠償請求権に関する時効の完成猶予
当て逃げ(ひき逃げ)によって生じた損害賠償請求権の時効は、次の事由が生じると、猶予期間が経過するまで完成しなくなります。
時効の完成猶予事由 | 猶予期間 |
|---|---|
・裁判上の請求 ・支払督促 ・裁判上の和解 ・民事調停、家事調停 ・破産手続、再生手続、または 更生手続への参加 | その事由が終了するまで ※確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって 権利が確定することなくその事由が終了した場合は、 終了時から6カ月を経過するまで ※天災その他避けることのできない事変のためにこれらの手続きができないときは、 その障害の消滅時から3カ月を経過するまで |
・強制執行 ・担保権の実行 ・留置権による競売 ・法律の規定による換価のための競売 ・財産開示手続 ・第三者からの情報取得手続 | その事由が終了するまで ※申立ての取り下げまたは法律の規定に従わないことによる取り消しによって その事由が終了した場合は、終了時から6カ月を経過するまで ※天災その他避けることのできない事変のためにこれらの手続きができないときは、 その障害の消滅時から3カ月を経過するまで |
・仮差押え ・仮処分 | その事由の終了時から6カ月を経過するまで |
・履行の催告 (内容証明郵便による請求など) | 催告時から6カ月を経過するまで ※1回のみで、再度催告を行っても時効の完成は猶予されない |
・書面または電磁的記録による 協議の合意 | 以下のいずれか早い時まで ①合意時から1年経過時 ②合意において1年未満の協議期間を定めたときは、その期間の経過時 ③当事者の一方から相手方に対して協議続行拒絶通知が書面でされたときは、 通知時から6カ月経過時 ※最長通算5年まで、再度協議の合意によって時効の完成を猶予することができます |
特に、内容証明郵便で請求書が送られてくると6カ月間時効の完成が猶予される点や、訴訟を提起されると終了するまで時効が完成しなくなる点などに注意が必要です。
2-2. 損害賠償請求権に関する時効の更新
当て逃げ(ひき逃げ)によって生じた損害賠償請求権の時効期間は、次の事由が生じると更新(リセット)されます。
時効の更新事由 | 対象となる手続き・事由 |
|---|---|
右のいずれかの事由がある場合に、 確定判決または確定判決と 同一の効力を有するものによって 権利が確定したこと | ・裁判上の請求 ・支払督促 ・裁判上の和解 ・民事調停、家事調停 ・破産手続、再生手続、更生手続への参加 |
右のいずれかの事由が終了したこと | ・強制執行 ・担保権の実行 ・留置権による競売 ・法律の規定による換価のための競売 ・財産開示手続 ・第三者からの情報取得手続 |
権利の承認 ※債務者自身が債務の存在を承認したこと | - |
2-3. 刑事責任に関する公訴時効の停止
ひき逃げに関する刑事責任(過失運転致死傷罪、救護義務違反など)の公訴時効は、次の事由が生じると進行が停止します。停止事由が解消されるまでは時効期間は進まず、解消後に再び進行します。
公訴時効の停止事由 | 再度進行する場合 |
|---|---|
検察官による被疑者の起訴 | 管轄違いまたは公訴棄却の裁判が確定したとき |
検察官による共犯者の起訴 | 共犯者に対する判決が確定したとき |
犯人が国外にいる | 犯人が日本に帰国したとき |
犯人が逃げ隠れているため、 有効に起訴状の謄本の送達または 略式命令の告知ができない | 犯人に対して送達または 告知ができる状態になったとき |
3. 当て逃げ(ひき逃げ)をした人が時効完成を待つリスク
当て逃げ(ひき逃げ)の責任を逃れるために、時効完成を待って逃げ隠れるのは非常に危険な選択です。発覚して責任を問われることを恐れながら暮らす日々は、精神的に大きな不安をもたらします。強いストレスにより日常生活へ悪影響が出る可能性もあります。
また逃げ隠れている間は、被害者との示談交渉を行うことができず、問題の解決が先延ばしになります。将来的に発覚して示談交渉を行うことになっても、被害感情が強まり、示談がまとまりにくくなるおそれがあります。
さらにひき逃げの場合は、逃げ隠れていたことが不利な情状と評価され、刑事責任が重くなるおそれがあります。逮捕のリスクが高まるほか、同乗者が犯人蔵匿罪などの罪に問われる可能性も否定できません。
このようなリスクを踏まえると、責任を逃れる目的で、時効完成を待ち続けるのは賢明とはいえません。弁護士に相談したうえで、警察官への報告を検討してください。
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4. 当て逃げの責任から逃げ切れる可能性はある?
相手方が現場にいない状態で当て逃げをした場合に、発覚せずに終わる可能性が全くないとはいえません。
しかし近年では、ドライブレコーダーを搭載している車両が増えたため、当て逃げが発覚する可能性は高まっています。また、事故現場付近に防犯カメラが設置されていれば、その映像に当て逃げの場面が映っているかもしれません。
さらに、目撃者が警察に対して車のナンバーを証言するなど、さまざまなきっかけで当て逃げの事実が発覚することもあり得ます。
警察官へ報告しないまま後日発覚すると、道路交通法違反による刑事責任を問われるなどのリスクが生じます。「どうせバレないだろう」と安易に考えず、必ず警察官へ報告しましょう。
5. 故意ではない物損事故なら、責任は限定的
当て逃げが故意ではなく、相手方もけがをしていない物損事故にとどまる場合は、事故を起こした人の責任は限定的です。穏便に済ませるためにも、速やかに警察官へ報告することが賢明です。
5-1. 故意でない場合、器物損壊罪は成立しない
物を壊した場合に成立する犯罪としては「器物損壊罪」が挙げられますが、器物損壊罪が成立するのは故意がある場合(=意図的に壊した場合)に限られています。
誤って車をぶつけてしまった当て逃げの場合は、器物損壊罪は成立しません。さらに、道路上の危険防止措置を講じたうえで警察官へ事故を報告すれば、道路交通法違反の刑事責任も問われない可能性があります。
5-2. 物損のみなら賠償金額も限られる|任意保険でカバーできることも
相手方がけがをしておらず、車が壊れたなどの物損のみにとどまる場合は、相手方に対して支払うべき損害賠償の額も限られます。数十万円程度で収まるケースも少なくありません。
また、任意保険(対物賠償責任保険)に加入していれば、相手方に対する損害賠償を保険会社に支払ってもらえます。ただし、保険金を支払ってもらうためには警察官への報告が前提となるため、必ず警察官に報告してください。
5-3. 通常の物損事故なら、違反点数も加算されない
相手方がけがをしていない通常の物損事故では、ほとんどの場合、運転免許の違反点数は加算されません。違反点数が加算されるのは、建造物を損壊した場合や、道路上の危険を防止する措置を怠った場合などに限られます。
違反点数が加算されなければ、免許の停止処分や取消処分を受けることもありません。
6. 当て逃げをしてしまった人がとるべき対応
当て逃げをしてしまったときは、できるだけ早く以下の対応を行いましょう。
6-1. 警察官に報告する
相手がけがをしていない物損事故であっても、道路交通法によって警察官への報告が義務付けられています。報告を怠ると、道路交通法違反による刑事責任を問われるおそれがあります。さらに、保険会社から保険金が支払われず、損害賠償を自己負担しなければならなくなるおそれもあります。
不利益を避けるためにも、当て逃げをしたら必ず警察官へ報告してください。
6-2. 自動車保険の保険会社に連絡する
任意保険(自動車保険)に加入している場合、相手方に対する損害賠償を保険会社に支払ってもらえます。相手方への連絡や示談交渉などを円滑に進めるためにも、事故後は速やかに保険会社へ連絡しましょう。
6-3. 弁護士に相談する
当て逃げについて刑事責任を問われることが心配な場合や、任意保険に加入しておらず自ら賠償金を支払わなければならない場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、刑事責任を負うのかどうか、損害賠償請求を受けた際にはどう対応すべきかなどについて、状況に応じたアドバイスを受けられます。正式に依頼すれば、刑事弁護や相手方との示談交渉などを任せることもできます。専門家の支援を受けることで、不安や精神的負担の軽減が期待できます。
自動車保険や火災保険に付いている弁護士費用特約を利用すれば、自己負担ゼロまたは少額の負担で弁護士に依頼できます。自分が加入している保険のほか、家族が加入している保険の弁護士費用特約も使えることがあるので、保険の内容を確認したうえで弁護士に相談してください。
7. 当て逃げの時効についてよくある質問
Q. 当て逃げをした人が後日出頭した場合、免許の停止や取り消しは避けられる?
被害者がけがをしていない通常の物損事故であれば、加算される違反点数は、最大でも道路上の危険防止措置義務違反による5点程度にとどまると考えられます。累積6点以上で免許停止となるところ、過去3年間に違反点数がなければ、免許の停止処分を受けることはありません。
Q. 当て逃げについて示談が成立すれば、前科は付かずに済む?
被害者にけががない場合、示談が成立すれば、刑事責任を問われて前科が付く可能性は低いです。被害者がけがをしている場合でも、運転行為が悪質である場合や、被害者に重度の後遺障害が残った場合などを除き、刑事責任を問われて前科が付く可能性は低いと思われます。
Q. 「当て逃げをしていない」とうそをついたらどうなる?
ドライブレコーダーや防犯カメラの映像、目撃者の証言などからうそがバレる可能性があります。うそがバレた場合は、道路交通法違反の責任を問われるなどのリスクが生じます。
近年はドライブレコーダーの普及により、うそがバレる可能性は高くなっています。通常の物損事故であれば責任が軽く済むケースも多いので、虚偽の説明は避け、必ず警察官へ報告しましょう。
Q. 当て逃げについて弁護士に相談したら、警察に通報される?
当て逃げをした人から相談を受けた弁護士が、自ら警察に対して通報することはありません。ただし相談者に対して、警察官への報告を促すことはあります。必要であれば、弁護士に警察署への同伴を依頼することも可能です。
8. まとめ 当て逃げの責任は限定的であるため、時効に期待せず、警察へ報告すること
当て逃げの責任を時効によって逃れようとしても、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像などから発覚してしまう可能性が高いです。自主的に警察官へ報告した場合に比べると、責任が重くなるおそれがあります。当て逃げをしてしまったら、速やかに警察官へ報告してください。
当て逃げの責任を負うことについて不安を感じているなら、弁護士に相談しましょう。弁護士に相談すれば、どのような責任を負うのか、今後の手続きはどう進むのかなどについてアドバイスを受けられます。
(記事は2026年7月1日時点の情報に基づいています)
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