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1. 人身傷害保険とは?
「人身傷害保険」とは、任意保険に付けることができるオプションの一つです。交通事故によって被保険者自身が受けた損害について、保険金が支払われます。
1-1. 任意保険のオプションの一つ|自分のけがなどによる損害が補償される
任意保険の主な目的は、交通事故を起こしてしまったときに、相手方に対して支払うべき損害賠償をカバーすることです。人身損害(けが・後遺症・死亡による損害)の賠償は「対人賠償責任保険」、物的損害(車の破損などによる損害)の賠償は「対物賠償責任保険」によってカバーされます。
これに対して「人身傷害保険」は、被保険者自身が交通事故によって受けた損害を補償するものです。多くの任意保険には、人身傷害保険をオプションとして付けることができます。また、人身傷害保険が自動的にセットされている任意保険もあります。
人身傷害保険によって補償されるのは、被保険者自身が受けたけが・後遺症・死亡による損害です。車の破損などによる物的損害は人身傷害保険では補償されず、別のオプションである「車両保険」などによって補償されます。
1-2. 人身傷害保険は原則として、過失相殺が行われない
人身傷害保険のメリットとしては、過失相殺が原則行われない点が挙げられます。「過失相殺」とは、当事者それぞれの過失割合に応じて賠償金を減額することをいいます。
相手方に対して請求する損害賠償は、自分の過失割合に応じて過失相殺が行われ、減額されることがあります。たとえば、自分が1000万円の損害を被ったとしても、自分に2割の過失があるときは、相手方に請求できる損害賠償は800万円にとどまります。
人身傷害保険では、原則として上記のような過失相殺が行われません。たとえば、人身傷害保険の保険会社によって1000万円の損害があると認定されたときは、自分に2割の過失があるとしても、1000万円全額の補償を受けることができます。
ただし、損害額が人身傷害保険の限度額を超過する場合は、限度額までしか補償されません。また、被保険者に故意または重大な過失がある場合などには、人身傷害保険の保険金が支払われないこともあるので注意が必要です。
1-3. 人身傷害保険と対人賠償責任保険の違い
人身傷害保険と対人賠償責任保険は、いずれも任意保険による補償内容で、交通事故による人身損害(けが・後遺症・死亡による損害)をカバーするものです。ただし人身傷害保険と対人賠償責任保険では、補償の対象となる人が異なります。
人身傷害保険では、被保険者自身が交通事故によって受けた人身損害が補償されます。これに対して対人賠償責任保険は、相手方に生じた人身損害を補償するものです。
1-4. 人身傷害保険と自賠責保険の違い
「自賠責保険」は、自動車や原動機付自転車を運行の用に供する者全員に加入が義務付けられている保険です。交通事故の被害者に対して、最低限の補償を行うことを目的としています。なお、自賠責保険によって補償されるのは人身損害に限られています。
一方、人身傷害保険は任意保険の補償内容の一つです。 自賠責保険は加入が必須であるのに対し、人身傷害保険への加入は任意となります。
2. 人身傷害保険による補償を受ける主なケース
人身傷害保険は、たとえば次に挙げるようなケースで役立ちます。
2-1. 相手方が任意保険に加入しておらず、お金も持っていない場合
交通事故について相手方に過失がある場合は、相手方に対して損害賠償を請求できます。
最低限の補償は自賠責保険または政府保障事業から受けられますが、その限度額を超える部分は相手方が加入している任意保険から補償を受けるか、または相手方本人に賠償を請求しなければなりません。
相手方が任意保険に加入していないときは、相手方本人に対して損害賠償を請求します。しかし、相手方がお金を持っていない場合は、賠償金を回収することができません。
このような場合には、人身傷害保険を使うことが有力な選択肢となります。相手方から十分な賠償を受けられない金額について、人身傷害保険から補償を受けることができます。
2-2. 過失相殺によって賠償金が減額された場合
交通事故の賠償金は、自分の過失割合によって減額されます(=過失相殺)。
たとえば、自分が1000万円の損害を受けたものの、自分にも3割の過失がある場合は、相手方から受けられる損害賠償は700万円にとどまります。この場合、300万円分の損害が自己負担となってしまいます。
しかし人身傷害保険を使えば、過失相殺による減額分についても補償されることがあります。上記のケースでは、相手方から賠償を受けられなかった300万円分を上限として、人身傷害保険の補償対象となる可能性があります。
2-3. 交通事故の補償を早く受けたい場合
交通事故の損害賠償請求には、長い期間を要するケースが多いです。
生活費に充てるために、早く交通事故による損害の補償を受けたいと考えることがあるかもしれません。その場合は、人身傷害保険を使うのが有力です。人身傷害保険に関する保険会社の審査は、損害賠償請求の示談交渉や訴訟などに比べて早く終わる傾向にあるためです。
まずは人身傷害保険を使い、そのうえで加害者に対する損害賠償請求も進めると、損害の一部について早期に補償を受けられます。
3. 人身傷害保険による精神的損害(慰謝料)の補償金額は?計算方法と目安を紹介
人身傷害保険ではさまざまな損害が補償されますが、その中でも精神的損害の賠償金である「慰謝料」は大きな金額を占めます。人身傷害保険によって慰謝料がどの程度補償されるのかを解説します。
3-1. 慰謝料の3種類の算定基準
交通事故による慰謝料の算定基準は、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」の3つがあります。
自賠責保険基準は、自賠責保険から支払われる保険金額を算定する基準です。任意保険基準は、任意保険の保険会社が独自に定めている基準です。これに対して弁護士基準は、過去の裁判例に基づき、被害者に生じた客観的な損害額を算定する基準です。弁護士基準は3つの基準の中で最も公正であり、かつ被害者にとって有利です。
被害者としては、弁護士基準によって慰謝料を請求することが重要になります。ただし人身傷害保険については、当初は自賠責保険基準や任意保険基準による慰謝料額を提示されるケースが多いので注意が必要です。
人身傷害保険から弁護士基準による補償を受けるためには、加害者側に対して訴訟を提起して弁護士基準による損害賠償を請求し、判決や裁判上の和解によって損害額を確定させるステップが必要です。
3-2. 入通院慰謝料の計算方法と目安
「入通院慰謝料」は、交通事故でけがをしたことによる身体的・精神的苦痛の賠償金です。弁護士基準では、入院期間や通院期間に応じて入通院慰謝料の額が決まります。
たとえば、交通事故で骨折などの重傷を負い、1カ月間入院した後に6カ月間通院したとします。この場合、弁護士基準による入通院慰謝料の目安額は252万円です。
3-3. 後遺障害慰謝料の計算方法と目安
「後遺障害慰謝料」は、交通事故によるけがが完治せず、後遺症が残ったことによる身体的・精神的苦痛の賠償金です。弁護士基準による後遺障害慰謝料の目安額は、認定される後遺障害等級に応じて次のとおりです。
後遺障害等級 | 弁護士基準 | 後遺障害等級 | 弁護士基準 |
|---|---|---|---|
1級(要介護を含む) | 2,800万円 | 8級 | 830万円 |
2級(要介護を含む) | 2,370万円 | 9級 | 690万円 |
3級 | 1,990万円 | 10級 | 550万円 |
4級 | 1,670万円 | 11級 | 420万円 |
5級 | 1,400万円 | 12級 | 290万円 |
6級 | 1,180万円 | 13級 | 180万円 |
7級 | 1,000万円 | 14級 | 110万円 |
たとえば、交通事故の影響で両眼の矯正視力が0.6以下に低下した場合は、後遺障害9級の認定対象となります。後遺障害9級が認定された場合、弁護士基準による後遺障害慰謝料の目安額は690万円です。
3-4. 死亡慰謝料の計算方法と目安
「死亡慰謝料」は、交通事故で被害者が死亡したことにより、被害者本人が受けた身体的・精神的苦痛や、被害者の家族が受けた精神的苦痛の賠償金です。弁護士基準では、被害者の家庭内における立場に応じて死亡慰謝料の額が決まります。
被害者の立場 | 死亡慰謝料 (本人と遺族の合計) |
|---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000~2500万円 |
たとえば、交通事故で死亡した被害者が家庭の収入の大部分を稼いでいた場合(=一家の支柱である場合)は、弁護士基準による死亡慰謝料の目安額は2800万円となります。
4. 人身傷害保険の請求から支払いまでの流れ
人身傷害保険を使って交通事故の補償を受ける際の流れは、次のとおりです。
【Step1】
事故発生後、速やかに人身傷害保険の保険会社へ連絡します。
【Step2】
補償を請求する損害が確定した段階で、必要書類(診断書・診療報酬明細書など)を準備して保険会社に提出します。どのような書類が必要となるかは、保険会社に確認してください。
【Step3】
保険会社が提出された書類に基づき審査を行い、損害額を算定・集計して、支払う保険金額を被保険者に通知します。
【Step4】
被保険者の承諾によって保険金額が確定し、おおむね1カ月以内に被保険者が指定した口座へ保険金が振り込まれます。
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5. 人身傷害保険で、慰謝料以外にどのような補償を受けられる?
人身傷害保険を使うと、慰謝料以外にも「積極損害」や「消極損害」の補償を受けることができます。
5-1. 積極損害|治療関係費など
「積極損害」とは、交通事故の影響で支出を余儀なくされた費用です。人身傷害保険からは、たとえば次に挙げる積極損害の補償を受けられます。
積極損害の項目 | 概要 |
|---|---|
治療費 | けがを治療するために、医療機関や薬局に支払った費用 |
装具、器具の購入費 | 義歯、義眼、義手、義足、車いす、かつら、眼鏡、 コンタクトレンズ、介護ベッド、コルセットなどの購入費用 |
通院交通費 | 通院するためにかかる交通費 |
入院雑費 | 入院中に日用品を購入するための費用 |
付添費用 | 近親者または職業付添人が入院や通院に付き添う場合の費用 |
介護費用 | 近親者または職業介護人が介護をする場合の費用 |
5-2. 消極損害|休業損害・逸失利益など
「消極損害」とは、交通事故の影響で得られなくなった利益です。人身傷害保険からは、たとえば次に挙げる消極損害の補償を受けられます。
消極損害の項目 | 概要 |
|---|---|
休業損害 | 交通事故の影響で仕事を休んだことによって 得られなくなった収入 |
逸失利益 | 死亡や後遺症によって 将来得られなくなった収入 |
6. 人身傷害保険を使う前に知っておきたい重要ポイント
人身傷害保険を使う際には、次に挙げるポイントに注意しつつ、適切な補償・賠償を受けられるように対応しましょう。
6-1. 人身傷害保険を使うだけでは、損害全額はカバーされない|加害者側に対する請求が重要
人身傷害保険の補償を請求しても、保険会社が提示する補償額は、弁護士基準による額を下回るケースが多く見られます。人身傷害保険の約款により、保険会社独自の基準で損害額が算定されることになっているためです。
ただし、加害者側に対して損害賠償請求訴訟を提起し、判決または裁判上の和解によって賠償金額が確定すれば、その額に基づいて人身傷害保険の保険金が支払われることもあります。
したがって、交通事故による損害全額の補償を受けるためには、加害者側との訴訟を通じて、弁護士基準に沿った判決や和解を得ることが重要です。人身傷害保険を使う場合でも、加害者側に対する損害賠償請求を並行して行いましょう。
6-2. 賠償金の二重取りはできない|損益相殺の仕組み
人身傷害保険による補償と、加害者側から支払われる賠償金を二重取りすることはできません。
人身傷害保険から補償を受けた場合、その額は加害者に対して請求できる損害賠償の額から控除されます。また、加害者側から賠償金を受け取った後で人身傷害保険の補償を請求する場合も、賠償金額が人身傷害保険の補償額から控除されます。
6-3. 使っても等級は下がらず、保険料は上がらない
人身傷害保険のみを使った場合は、保険等級は下がらず、翌年以降の保険料が上がることはありません(=ノーカウント事故)。そのため、人身傷害保険を利用したこと自体を理由として保険料が上がることはありません。
ただし、交通事故について自分にも過失があり、相手方に対する損害賠償を任意保険(対人賠償責任保険・対物賠償責任保険)によって支払ったときは、保険等級が下がって翌年以降の保険料が上がるので注意が必要です。
6-4. 人身傷害保険を使うべきかどうかの判断基準
人身傷害保険は使っても保険等級が下がらず、特にデメリットがありません。任意保険に付いていて利用できるなら、積極的に活用を検討するとよいでしょう。
ただし、人身傷害保険の補償請求は、加害者側に対する損害賠償請求と並行して行うべきケースが多いです。十分な補償・賠償を受けるため、弁護士のサポートを受けながら損害賠償請求の準備を進めてください。
7. 人身傷害保険を使おうとする際に、弁護士に相談するメリット
交通事故に遭って人身傷害保険を使おうとする際には、事前に弁護士へ相談してください。弁護士に相談すれば、人身傷害保険を使うべきかどうかについて、個別の事情を踏まえたアドバイスを受けられます。
正式に弁護士に依頼すれば、加害者側に対する損害賠償請求の手続きを任せられます。示談交渉・ADR・訴訟などの煩雑な手続きを一任できるので、労力やストレスが大幅に軽減され、けがの治療や日常生活に専念できるようになります。
賠償金の増額を目指すうえでも、弁護士のサポートが大いに役立ちます。被害者が受けた損害を漏れなく把握・集計し、弁護士基準によって請求してもらえるので、適正額の賠償金を得られる可能性が高まります。
交通事故の被害に遭ったときは、早い段階で弁護士に相談するのが安心です。
なお、弁護士費用特約を使える場合は、保険会社が一定額まで弁護士費用を負担してくれるため、多くのケースで自己負担なく弁護士に依頼できます。自分や家族の保険に弁護士費用特約がついていないか、確認してみることをおすすめします。
8. 人身傷害保険による精神的損害(慰謝料)の補償についてよくある質問
Q. 人身傷害保険の慰謝料は自分で計算できる?
実際の状況に即した適切な慰謝料の額を、自力で計算するのはかなり大変です。弁護士に相談することをおすすめします。
Q. 人身傷害保険の慰謝料について、増額を求めることはできる?
保険会社が事実を誤認している場合や、訴訟でより多額の慰謝料が認められた場合などには、人身傷害保険の慰謝料の増額を求める余地があります。状況によって異なるため、まずは弁護士に相談してください。
Q. 人身傷害保険の算定基準は、保険会社ごとに違う?
算定基準は各保険会社が独自に定めているため、保険会社によって内容が異なります。
Q. 人身傷害保険の補償だけでは足りないときはどうすればいい?
加害者側に対する損害賠償請求を行いましょう。特に訴訟で多額の賠償金が認められれば、人身傷害保険による補償額も増額されることがあります。損害賠償請求については、弁護士のサポートを受けるのが安心です。
Q. 人身傷害保険の保険金はいつもらえる?
保険会社の提示額を承諾した後、おおむね1カ月程度以内に振り込まれます。
9. まとめ 人身傷害保険と損害賠償請求を併用して十分な補償を受ける
人身傷害保険を使うと、被害者の過失の有無にかかわらず、交通事故によって受けた損害の補償を受けられます。加害者側に対する損害賠償請求と併用して、適切な補償・賠償の獲得を目指しましょう。
弁護士に相談すれば、人身傷害保険の適切な使い方についてアドバイスを受けられます。損害賠償請求の手続きも任せられるので、労力やストレスが軽減されるとともに、賠償金の増額も期待できます。
交通事故に遭ってしまったら、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。
(記事は2026年9月1日時点の情報に基づいています)
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