目 次
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」で
交通事故トラブルに強い弁護士を探す
交通事故トラブルに強い
弁護士を探す
1. 物損事故では、原則として慰謝料請求はできない
「物損事故」とは、当事者がけがをしていない交通事故をいいます。車両などの物が損傷しているという意味で「物損事故」と呼ばれます。一方、当事者がけがをした(または死亡した)事故は「人身事故」と呼ばれます。
「慰謝料」とは、肉体的・精神的苦痛に対する賠償金です。「損害賠償金」の中に慰謝料が含まれています。
物損事故の被害者は、原則として加害者に慰謝料を請求できません。これは、損傷した物の経済的価値(修理費など)の賠償を受けることにより、精神的苦痛もカバーされると考えられているためです。
ただし、次で解説するように、物損事故でも例外的に慰謝料を請求できるケースがあります。
2. 物損事故でも例外的に慰謝料を請求できるケース
損傷した物の経済的価値の賠償を受けるだけでは不十分なほど、被害者が強い精神的苦痛を受けたと考えられる場合には、物損事故でも慰謝料を請求できることがあります。
たとえば以下のようなケースでは、物損事故でも慰謝料を請求できる可能性があると思われます。
2-1. ペットが死亡または重度の後遺症を負った
交通事故によってペットが死亡または重度の後遺症を負った場合には、飼い主自身はけがをしていなくても、慰謝料を請求できる可能性があります。ペットを家族同然に考えて大切にしている人は多く、そのペットの死や重度後遺障害は、飼い主に強い精神的苦痛をもたらすと考えられるためです。
例として事案を一つ紹介します。交通事故によって夫婦が飼っていた犬が重度の後遺症を負いました。裁判所は、犬が飼い主にとって家族の一員のようなかけがえのない存在であったことを指摘しました。そのうえで、飼い主は犬が死亡した場合に近い精神的苦痛を受けたとして、夫婦それぞれに20万円(計40万円)の慰謝料を認めました(名古屋高裁平成20年9月30日判決)。
2-2. 精神的価値の高い物が損壊した|墓石や芸術作品など
交通事故で損傷した物が、被害者にとって重要な精神的価値を有するものであった場合は、物損事故でも慰謝料を請求できることがあります。たとえば、墓石や思い入れのある芸術作品、あるいは再調達が困難な希少性の高い車両が壊れた場合などが挙げられます。
事案を3つ紹介します。
【墓石が倒壊】
自動車が墓石に乗り上げ、その墓石が倒壊して骨つぼが露出しました。墓石は先祖が眠る場所であり、所有者が強い敬愛追慕の念を抱く対象であることを踏まえ、10万円の慰謝料が認められました(大阪地裁平成12年10月12日判決)。
【陶芸作品が損傷】
著名な陶芸家の自宅建物に自動車が衝突し、保管されていた被害者の陶芸作品1点が損傷しました。損傷した陶芸作品は、被害者が若かりしころに1年ほどかけて制作した思い入れの深いものでした。復元できず代替性もないことが考慮され、100万円の慰謝料が認められました(東京地裁平成15年7月28日判決)。
【個性的な自転車が全損】
交通事故によって個性的な自転車が全損しました。東京地裁は、被害者がその自転車をコミュニケーションツールとして利用し、営業を円滑に進めていた点を指摘しました。こうした機能は一般の自転車では代用できないとして、10万円の慰謝料が認められました(東京地裁令和6年3月28日判決)。
2-3. 加害者から不誠実な対応を受けた
被害者がけがをしていなくても、加害者から極めて不誠実な対応を受けた場合には、その対応によって生じた精神的苦痛に対し、慰謝料が認められる可能性があります。
たとえば、明らかに加害者に責任があるにもかかわらず、損害賠償の支払いに一切応じない場合や、被害者に対して暴言・侮辱を繰り返した場合などには、物損事故であってもまれに慰謝料が認められることがあります。
3. 慰謝料はもらえなくても諦めない! 物損事故の被害者が賠償を請求できる損害項目
物損事故で慰謝料を請求できるのは、ごく例外的ケースにとどまります。ほとんどの物損事故では、慰謝料は請求できません。
しかし物損事故では、慰謝料以外に以下の損害賠償を請求できる可能性があります。弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償の獲得を目指しましょう。
3-1. 車の修理費・買替費用
交通事故によって壊れた車の修理費は、損害賠償として加害者に請求できます。
ただし、事故車を修理するより、新しく同じレベルの車に買い替える方が安く済む場合には、修理費の全額が賠償されるわけではありません。その場合の上限は「買い替えに必要な金額」までとなります。
買替費用に含まれるのは、以下のような費用です。
事故前の車両の時価額
買い替えに伴う登録費用
車庫証明の手数料
事故車両を廃車にするための手続き費用
3-2. 代車費用
事故車両の修理や買い替えに伴い、手元に車両がない期間に代車を借りる必要がある場合は、代車費用の損害賠償を請求できます。代車の必要性は、普段どのように車両を使用していたかという実情に基づいて判断されます。
通勤・通学、家族の送迎、買い物など、日常的に車両を使用していた場合は認められる可能性が高いです。一方で、使用頻度が低かったり、他にも利用できる別の車両を保有していたりする場合には、代車の必要性が認められない可能性があります。
なお、損害賠償の対象となるのは、原則として事故車両と同程度のグレードの代車費用です。ただし、事故車両が高級車などの場合は「同グレードの代車までは必要ない」と判断されることもあるのでご注意ください。
3-3. レッカー代
事故車両を事故現場から移動したり、修理工場へ運んだりするためにレッカーを手配した場合、必要かつ相当な範囲内でレッカー代も損害賠償の対象となります。
たとえば以下のような場合には、レッカー代の損害賠償を請求できる可能性が高いです。
エンジンや電気系統などが故障し、自走できない場合
車体がゆがんでタイヤと干渉しているなど、安全な走行ができないおそれがある場合
ウィンカーやランプなどが破損し、安全な走行に必要な基準を満たさなくなっている場合
3-4. 評価損
交通事故に遭った車は、修理によって見た目が元に戻っても、「事故歴あり」というだけで中古車としての価値が下がることがあります。これがいわゆる「評価損(減価)」 です。
特に骨格部分を修理した場合などは、事故歴が将来の買い手に敬遠されやすく、事故前よりも市場価格が下がる傾向があります。評価損は、交通事故との因果関係が認められる範囲で損害賠償の対象となります。
ただし、評価損の損害賠償は加害者側の保険会社から拒否される可能性が高いです。その場合は、事故前と事故後の評価額の変化を示すために、中古車販売店の査定書や修理業者の見積もりなど、客観的な資料に基づいて価値の下落を示す必要があります。
3-5. 休車損害
タクシーやトラックなどの営業用車両が交通事故で破損し、その車両が業務に使えなくなったことで失われた収益を「休車損害」といいます。この場合、失われた収益に相当する賠償を請求できます。
休車損害の賠償が認められるためには、「事故によって収益が低下した」という因果関係が認められることが必要です。事故車両の代わりに使用できる別の車両がある場合などには、休車損害の賠償は認められません。また、代車を借りて業務を継続した場合には、休車損害ではなく代車費用を請求することになります。
3-6. 積荷損害など、車両以外の物損
車両本体だけでなく、積載物や身の回りの品が交通事故によって破損した場合は損害賠償の対象となります。たとえば、積み荷や身に着けていた腕時計などが壊れた場合、その修理や再調達にかかる費用の損害賠償を請求できます。
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」
4. 物損事故として報告した後でけがが判明した場合は、人身事故への切り替えを
警察官には当初物損事故として報告したものの、念のため医療機関を受診したところけがが判明したり、後から身体に痛みが出てきたりするケースはよくあります。このような場合は、警察署に人身事故への切り替えを申請してください。
4-1. 人身事故に切り替えると、請求できる損害賠償の項目が増える
人身事故として扱われることで、以下に挙げるように、物損事故では請求できない項目の損害賠償を請求できます。
治療費
通院交通費
装具や器具の購入費
入院雑費
休業損害
逸失利益(後遺症が残った場合)
慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料)
これらの損害賠償を相手の保険会社に対して請求する際には、人身事故の交通事故証明書が必要になります。人身事故の交通事故証明書は、警察官に人身事故として報告していなければ交付を受けられません。
また、人身事故として報告すれば、事故現場の実況見分が行われます。警察官が作成する実況見分調書は、事故状況を客観的に記録したものとして、過失割合などが争われた際に有力な証拠となります。
当初は物損事故として報告していても、後にけがをしていることが分かったときは、速やかに人身事故への切り替えを申請しましょう。
4-2. 物損事故から人身事故に切り替える手続き
物損事故から人身事故への切り替えの申請は、警察署に対して行います。医師からけがの診断書をもらい、それを警察署に提出してください。具体的な手続きの内容については、警察署へ問い合わせれば案内を受けられます。
なお、交通事故の発生から長期間が経過していると、事故とけがの因果関係が認められず、人身事故への切り替えに応じてもらえないことがあるので注意しましょう。
5. 物損事故の被害者が弁護士に相談するメリット
物損事故の被害者が損害賠償を請求したいときは、弁護士に相談することをおすすめします。物損事故の被害者が弁護士に相談することの主なメリットは、以下のとおりです。
5-1. 慰謝料請求の可否についてアドバイスを受けられる
けがのない物損事故でも、「精神的苦痛を受けたので慰謝料を請求したい」という相談を受けることがよくあります。実際に物損事故で慰謝料を請求できるケースは少数ですが、全くないわけではありません。弁護士に相談すれば、慰謝料請求ができるかどうか、法的な観点から的確なアドバイスを受けられます。
5-2. 損害の見落としを防げる
物損事故では、加害者に請求できる損害賠償の項目は想像以上に幅広くあります。代表的なのは修理費・代車費用・レッカー代ですが、それ以外にも、事故歴がつくことで車の価値が下がる評価損や、積んでいた荷物や車内の私物が壊れたことによる損害なども賠償の対象となる場合があります。
弁護士のサポートを受ければ、これらの損害賠償の可能性を漏れなく検討したうえで、見落とすことなく損害賠償請求を行うことができます。
5-3. 示談交渉などの手続きを一任できる
弁護士に依頼すれば、示談交渉や訴訟など、損害賠償請求に必要な手続きを全面的に任せられます。
自力で対応する場合に比べて、労力やストレスが大幅に軽減されるでしょう。また、弁護士が法的な根拠に基づく請求を行うことにより、損害賠償の増額も期待できます。
6. 弁護士費用特約を活用すれば、弁護士費用の心配は不要
弁護士に依頼する際には、弁護士費用が必要となります。特に物損事故の場合は、賠償金よりも弁護士費用が上回る「費用倒れ」に注意しなければなりません。
自動車保険や火災保険などに付いている「弁護士費用特約」を利用すれば、弁護士費用が保険によってカバーされます。自己負担ゼロまたは少額の負担で弁護士に依頼できるので、保険会社に問い合わせるなどして、弁護士費用特約が利用できるかどうか確認してください。
7. 物損事故の慰謝料についてよくある質問
Q. 物損事故の加害者が逃げた場合、慰謝料を請求できる?
物損事故では原則として慰謝料を請求できませんが、加害者が損害賠償責任を逃れようとする不誠実な対応を取った場合には、慰謝料を請求する余地があります。慰謝料以外には、車の修理費などの損害賠償を請求できます。
まずは逃げた加害者を特定する必要があるため、警察や弁護士に相談してください。
Q. 保険会社との示談交渉がまとまらない場合はどうすべき?
自力で示談交渉をしていた場合は、まず弁護士に相談してください。弁護士が間に入ることにより、示談がまとまるケースもあります。弁護士を入れても示談交渉がまとまらないときは、最終的には訴訟(裁判)によって解決を図ります。訴訟を提起すべきかどうかは、弁護士と話し合って決めてください。
Q. 警察官には物損事故として報告した場合でも、けがの治療費は請求できる?
請求できますが、人身事故の交通事故証明書の交付を受けられないので、保険会社は治療費の支払いに難色を示す可能性が高いです。警察署に行って、人身事故への切り替えができるかどうかを相談しましょう。人身事故への切り替えができない場合は、弁護士に相談しながら対応を検討することをおすすめします。
8. まとめ 物損事故で慰謝料を請求できるケースは限定されている
物損事故では、原則として慰謝料を請求できません。ペットが死亡した場合や精神的価値の高い物が損傷した場合など、例外的に慰謝料が認められるケースもありますが、基本的には難しいと考えるべきです。
しかし、慰謝料を請求できなくても、車の修理費や代車費用などの損害賠償は請求できる可能性があります。弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償の獲得を目指しましょう。
(記事は2026年8月1日時点の情報に基づいています)
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」で
交通事故トラブルに強い弁護士を探す