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1. 交通事故で示談しないとどうなる?
交通事故の示談に納得できない場合、「拒否すると裁判になるのでは」と不安に感じる人もいるでしょう。しかし実際には、示談をしないからといって直ちに大きなトラブルに発展するわけではありません。
まずは再交渉が行われ、それでも解決しない場合に次の段階へ進みます。ここでは、示談をしない場合の基本的な流れと考え方について解説します。
1-1. いきなり裁判にはならない!まずは「再交渉」がスタート
「示談を断ったら、すぐに裁判沙汰になって大ごとになるのでは?」と身構えてしまう必要はありません。実務上、示談提示を拒否した直後にいきなり裁判(訴訟)へ移行することはまれです。
示談を拒否した後の最初のステップは、保険会社との再交渉です。被害者側が「この提示内容の、どの項目に、どのような理由で納得がいかないのか」を具体的に指摘し、保険会社がそれに対して回答を出すというプロセスが繰り返されます。
たとえば、過失割合が実態と異なる、通院期間の割に慰謝料が低すぎる、といった主張に対し、保険会社が社内検討を行い、改めて修正案を提示してくる。これが通常の流れです。この段階では、まだ当事者同士の話し合いの範疇にあるので、落ち着いて対応しましょう。
基本的には、被害者側が裁判をするかどうかを決めることがほとんどなので、よほど長期化しない限り、加害者側から裁判を起こされるケースはほとんどありません。
1-2. 納得できない示談の拒否=被害者の正当な権利
法的な観点から言えば、示談は民法第695条に規定される「和解」という契約の一種です。和解とは、争っている当事者が互いに譲歩して、争いを止めることを約束する契約です。
契約である以上、両者の合意が必要です。どちらか一方が納得していない状態で無理やり成立させることはできません。
保険会社が「これ以上は一律で決まっています」「今日中に返事をください」と迫ってきたとしても、それに従う義務はありません。納得できない条件での示談を拒否し、自らの正当な損害を主張することは、被害者の正当な権利です。不当な条件での示談は、加害者を利するだけであり、被害者の救済を妨げるものです。
2. 交通事故で示談を拒否するメリット|賠償金の増額
交通事故では、提示された示談金をそのまま受け入れるのではなく、一度立ち止まって検討することが重要です。示談を拒否することで、賠償額が適正な水準まで引き上げられる可能性があります。ここでは、示談を拒否する主なメリットについて解説します。
2-1. 保険会社の提示額は「最低ライン」が多い
保険会社は営利企業です。被害者に支払う保険金は「支出」であり、これを低く抑えることが企業の利益につながります。そのため、保険会社が最初に提示してくる金額は、自社独自の任意保険基準に基づいたものであることが通例です。
この基準は、法律で強制加入となっている自賠責保険の支払い基準(自賠責保険基準)に達するかどうかのいわば最低限の補償にすぎません。被害者が専門知識を持っていないことを前提に、値切りの状態からスタートしていると考えればわかりやすいでしょう。
よくあるパターンが、「任意保険基準より自賠責保険基準の方が高いので、自賠責保険基準で払う」という提案です。一見お得に見えますが、自賠責保険基準も最低限の基準ですので、この提案を初回で受け入れると損をします。
2-2. 「弁護士基準(裁判所基準)」なら2~3倍になる可能性も
交通事故の賠償金、特に慰謝料の算定には、以下の3つの基準が存在します。
被害者が自分で交渉している限り、保険会社は「弁護士基準」を適用することはありません。しかし、提示を拒否して弁護士が介入したり、法的な主張を展開したりすると、保険会社はこの弁護士基準(またはそれに近い金額)での話し合いに応じざるを得なくなります。
たとえば、むちうちで半年間通院した場合の慰謝料を比較すると、任意保険基準では約40万円から50万円程度とされることが多いですが、弁護士基準(裁判所基準)では最大で90万円程度まで跳ね上がります。入院を伴う重傷の場合や、後遺障害が残った場合、その差額は数百万円から数千万円に達することもあります。
2-3. 過失割合や後遺障害等級が覆れば、さらに受取額は増える
慰謝料の基準だけでなく、計算の前提となる過失割合や後遺障害等級の認定についても、示談を拒否して精査するメリットは大きいです。
過失割合は、事故の責任がどちらに何割あるかという数字ですが、1割変わるだけで最終的な受取額が10%変動します。保険会社は加害者の主観に基づいた過失割合を提示しがちですが、警察の実況見分調書を取り寄せ、過去の判例(別冊判例タイムズ等)と照らし合わせることで、有利に修正できるケースが多く存在します。
また、後遺障害等級についても、保険会社任せの事前認定ではなく、被害者側で証拠をそろえる被害者請求を行うことで、より重い等級が認められる余地があります。等級が一つ上がるだけで、賠償額が一桁変わることもあるのです。
3. 逆にリスクはある?示談しない場合のデメリットと注意点
示談を拒否することで賠償額の増額が期待できる一方、一定のデメリットも存在します。特に、解決までの時間や費用面の負担、時効の問題などには注意が必要です。ここでは、示談しない場合に想定される主なリスクを整理します。
3-1. 解決までの期間が長引く(示談金受け取りが遅れる)
提示に即座に応じれば、通常は1~2週間で示談金が指定口座に振り込まれます。しかし、拒否して再交渉や裁判を行う場合、解決までに3カ月から半年、争点が複雑な裁判になれば1年以上を要することも珍しくありません。
当面の生活費や、立て替えている医療費の支払いに困っている被害者にとっては、この時間の経過が精神的・経済的な圧迫要因となる可能性があります。解決の早さを優先するか、金額の適正さを優先するか、バランスを考える必要があります。
3-2. 弁護士費用がかかる(ただし「弁護士費用特約」で解決可能)
交渉を有利に進めるために弁護士へ依頼する場合、着手金や成功報酬の費用が発生します。小規模な物損事故などの場合、増額分よりも弁護士費用の方が高くなってしまう費用倒れのリスクには注意が必要です。
しかし、ご自身やご家族が加入している自動車保険、あるいは火災保険やクレジットカードの付帯保険に弁護士費用特約が付いていれば、一般的に合計300万円までの弁護士費用を保険会社が負担してくれます。
この特約があれば、費用面でのリスクをほぼゼロに抑えたまま、最強の専門家を味方につけることができます。
3-3. 放置しすぎると時効で請求権を失う
示談交渉が進まないからといって、そのまま放置し続けるのは最も危険です。損害賠償請求権には消滅時効が存在します。2020年(令和2年)4月の民法改正以降、交通事故による損害賠償請求権の時効は以下の通りとなっています。
・人身損害(けが・死亡):損害および加害者を知った時から5年
・物的損害(車両の破損など):損害および加害者を知った時から3年
ただし、念のため、基本的には事故日からカウントして時効管理した方がよいでしょう。交渉が平行線のまま何年も経ってしまうと、ある日突然、法的に1円も請求できなくなるおそれがあります。
4. 交通事故で示談を拒否すべきケースとは?
示談は早期解決の有効な手段ですが、内容によっては安易に応じるべきではありません。不利な条件で合意してしまうと、その後の修正は原則としてできないためです。ここでは、特に示談を慎重に判断すべき代表的なケースを紹介します。
4-1. 提示された示談金が低すぎる
前述の通り、任意保険基準による提示は、弁護士基準に比べて低額です。特に、通院期間が長い場合や、休業損害(仕事を休んだことによる損失)が日額いくらで計算されているかを確認してください。
主婦(主夫)であっても、平均賃金に基づく家事従事者としての休業損害を請求できますが、保険会社はこれを低く、あるいはゼロとして提示してくることが非常に多いです。また、保険会社は基礎収入についての日額を単純に90日(3カ月)で割って計算することが多いです。この方法では休日も稼働日として含めてしまうため、日額が不当に低くなってしまいます。
弁護士は通常、このような場合、祝日や休日を除いた実稼働日数で割って日額を求めます。
4-2. 過失割合に納得できない・相手が噓をついている
「相手が信号を無視したのに、こちらにも落ち度があると言われている」「相手が急ブレーキをかけたのに、車間距離のせいにされている」など、事故態様に争いがある場合は絶対に示談してはいけません。
わずか5~10パーセントの過失割合の違いでも、最終的な損害額に大きく影響します。また、安易な示談は、相手のうそを真実として認めてしまうことと同義です。
4-3. 治療中なのに「治療費打ち切り」や「症状固定」を迫られた
保険会社は、事故から3カ月や半年といった一定期間が経過すると「そろそろ治療は終わりです。治療費の支払いを打ち切ります」と言ってきます。しかし、まだ痛みがあり、医師が治療の継続を推奨している状態であれば、それは「症状固定(これ以上治療しても改善しない状態)」ではありません。
保険会社の都合で治療を中断させてはいけません。保険会社から治療の終了を打診されたとしても、今後の治療の必要性や症状固定の時期を医学的に判断するのは、あくまで医師です。
4-4. 「後遺障害」が考慮されない・後遺障害等級に不満がある
後遺症が残っているにもかかわらず、後遺障害に関する補償が含まれていない、または想定より低い等級で評価されている場合は注意が必要です。後遺障害等級は賠償額に大きく影響する重要な要素であり、異議申立てによって等級が見直されるケースも少なくありません。
適切な評価がなされているか、慎重に確認する必要があります。弁護士が異議申立てをすることによって等級が変わることは、筆者の経験上も、実際に多くあります。
4-5. 損害項目が十分に含まれていない
交通事故の賠償金は、多岐にわたる項目の積み上げです。
入通院慰謝料
休業損害
通院交通費
将来の逸失利益(後遺障害による減収分)
介護費用、装具代
すべての損害が漏れなく計上されているかを確認しましょう。特に「逸失利益」は計算式が複雑で、たとえば労働喪失期間などで保険会社が被害者に不利な係数を用いていることが多々あります。
4-6. 加害者側の対応が誠意を欠くように感じられる
「一度も謝罪がない」「保険会社が被害者を嘘つき扱いする」といった不誠実な対応に対し、感情的に示談を拒否したくなるのは人間として当然です。その感情を法的なエネルギーに変え、一切の妥協を排して弁護士基準の(できれば)満額を勝ち取ることこそが、実質的な解決につながります。
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5. 保険会社が示談をせかす理由とは?
保険会社から早く示談するよう促されることで、不安になる人もいるでしょう。しかし、示談を急がせるのには保険会社側の事情があります。ここでは、その主な理由を解説します。
5-1. 支払額を早期に確定させたい
保険会社は、不確定な債務を抱え続けることを嫌います。時間が経つにつれて、裁判になった場合の遅延損害金の増加、新たな症状の発覚や、弁護士への相談といった支払額が増える要因が増えていくリスクを避けるため、「早めに金額を固定してしまいたい」という経営上の動機があります。
5-2. 治療の長期化による慰謝料や治療費の増加を防ぎたい
通院が1日延びるごとに、保険会社は治療費と通院慰謝料を支払う義務を負います。これを1日でも早くカットするために、「症状固定」を促し、示談へと誘導します。
5-3. 社内の処理を早く終わらせたい
担当者には一人で数百件の案件が割り当てられていることもあり、一件あたりの処理スピードが評価に直結します。年度末や決算期に示談の催促が激しくなるのは、このためです。
5-4. 被害者が弁護士に依頼して賠償額が増額されるのを阻止したい
被害者が弁護士に依頼した瞬間に、支払額が数倍になることを保険会社の担当者は知っています。そのため、「今決めてくれれば、少し上乗せしますよ」といった言葉で、弁護士に相談する隙を与えず示談を成立させようとするケースは実際に相談者から聞きます。
または露骨に嫌な態度をとって、この人とこれ以上話したくないと思わせるような形で示談に応じさせるケースも、筆者の知る限り、保険会社を問わず非常に多いという印象です。
このようなやり方は、交通事故被害者の権利を不当に侵害するものであり、企業態度として極めて不誠実だと言わざるを得ません。あまりにひどいようであれば、苦情を申し立てて担当者を変えてもらうなどすべきでしょう。
その他、当該保険会社の苦情センターへの苦情申立てもあり得ますが、結局同じ会社内の身内なので、あまり効果はありません。上部組織である日本損害保険協会などへの苦情申立ての方が良いと思います。
6. 示談を拒否したい被害者がとるべきステップ
示談を拒否すると決めても、感情的に対応するのではなく、順序立てて進めることが大切です。必要な資料を集め、時効にも注意しながら、適正な賠償を受けるための準備を進めましょう。
6-1. STEP1:その場でのサインはNG|「示談を保留する」と明確に伝える
まず鉄則は、電話口での口約束や、送られてきた書類への署名・捺印をすぐに行わないことです。「弁護士に相談してから回答します」と伝え、明確に保留の意思を示してください。
6-2. STEP2:保険会社からの提示書(計算書)を取り寄せる
交渉の材料として、「損害賠償金提示案」や「免責証書(の案)」といった詳細な内訳が書かれた書面を必ず入手してください。電話での「総額○○万円です」という言葉だけでは不十分です。どの項目にいくら割り振られているかを可視化することが不可欠です。
6-3. STEP3:時効の完成猶予(中断)措置を確認する
事故から時間が経過している場合、時効を止める手続きを検討します。最も一般的なのは、内容証明郵便で賠償請求を行う「催告(さいこく)」です。これにより、6カ月間は時効の完成を猶予させることができます。
6-4. STEP4:弁護士に適正額の査定を依頼する
この点が最も重要です。提示された書面を持って、交通事故に強い弁護士の法律相談を受けましょう。多くの事務所で無料相談を実施しています。
弁護士は、その提示額が弁護士基準と比べてどれだけ不足しているかを、具体的な数字で示してくれます。また、相談したからと言って依頼までしなければならないわけではありません。
弁護士特約があれば費用のことはあまり考えなくてもいいですが、相談の際は、示談金の増額見込み、解決までのステップと期間を確認し、一度持ち帰ってじっくり検討したうえで、弁護士に依頼するかどうかを決めるとよいでしょう。
7. 示談が決裂した後、最終的にどう解決するのか?
示談交渉がまとまらなかった場合でも、解決手段は複数用意されています。多くは段階的に進み、いきなり裁判になるわけではありません。ここでは、示談決裂後の主な解決ルートを解説します。
7-1. 弁護士による示談の再交渉
まずは弁護士があなたの代理人として、再度保険会社と交渉します。個人では相手にされなかった「弁護士基準での請求」も、弁護士が介入すれば無視できません。
多くの事案は、この弁護士による交渉の段階で、裁判に至ることなく増額された金額での合意に至ります。ただし、満額での解決はそれほど多くありません。早期解決のため、90~95%で解決することが多いです。
7-2. 交通事故紛争処理センター(ADR)の利用
交渉がまとまらない場合、裁判所ではない「第三者機関」を利用する方法があります。「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」などが代表的です。
ここでは、中立な立場の弁護士が間に入り、和解のあっせんを行ってくれます。利用料は無料で、ここで出された「裁定」に対し、保険会社側は原則として従わなければならないという強力な仕組みになっています。
たとえば、傷害慰謝料の額などが争点の場合は、裁判よりも早期に被害者側に有利な形で解決できるケースが多いため、積極的に利用すべきでしょう。弁護士に依頼すれば、基本的には依頼者本人がセンターに出頭する必要はありません。
7-3. 裁判(訴訟)へ移行
最終的な手段が、裁判所への提訴です。時間と労力はかかりますが、最も厳格な基準に基づいて賠償額が確定します。
裁判で判決まで進めば、事故日から支払日までの遅延損害金や、認められた損害額の一定割合(一般に約10%程度)の弁護士費用相当額を加害者側に負担させることができるため、最終的な受取額が最大化される可能性があります。
もっとも、実際には判決まで至るケースは多くなく、裁判の途中で裁判官が和解案を提示し、双方が合意して終了することが一般的です。和解であれば控訴ができないため、早期かつ確定的に紛争を解決できるというメリットがあります。
8. 交通事故の示談拒否に関して、よくある質問
Q. 示談を拒否したら、相手方保険会社の態度が悪化したり不利になったりしない?
心配ありません。示談拒否は正当な権利であり、不利になることはありません。担当者も日常的に対応しているため、冷遇されることは通常ありません。弁護士に依頼すれば直接対応も不要です。
Q. 治療費を打ち切られたら、お金がないのでもう示談するしかない?
示談を急ぐ必要はありません。健康保険や労災に切り替えて通院を継続でき、自己負担分は後から請求可能です。自賠責の被害者請求で仮払いを受ける方法もあります。
Q. 自分で「弁護士基準」を主張して交渉しても、保険会社は応じてくれない?
応じないケースが多いのが実情です。保険会社は弁護士基準を前提にしていないため、個人交渉には限界があります。適正額を求めるには弁護士の介入が有効です。
Q. 示談を拒否して裁判になった場合、平日に何度も裁判所へ行く必要がある?
弁護士に依頼していれば、被害者ご本人が裁判所へ行く機会は極めて限定的です。通常の期日は弁護士が代わりに出廷します。ご本人が行く必要があるのは、最終的な和解の話し合いや、尋問が必要な場合の、全体を通して1~2回程度が一般的です。またその場合も、日程は1カ月程度前に決まるので、お仕事を休む負担も最小限で済みます。
Q. 保険会社から「これ以上は1円も上がらない」と言われたが、本当に限界?
保険会社がそのような回答をしたとしても、あくまで保険会社基準における担当者レベルでの「限界」である可能性が非常に高いです。裁判所基準は保険会社基準を上回るため、保険会社が「限界」といっても、それはあくまで保険会社の理屈によるものに過ぎません。弁護士に依頼し、交渉や裁判をすることで、その「限界」と言われる金額を大幅に超えることができます。
9. まとめ 示談しないと裁判や差し押さえのリスクもあるので注意
交通事故で示談をしない場合、当事者間の話し合いが長期化し、損害賠償の支払いが遅れるだけでなく、最終的には裁判に発展する可能性があります。裁判となれば時間や費用の負担が増えるほか、判決に基づいて強制的に支払いを求められるケースもあります。
また、過失割合や賠償額について不利な判断がなされるおそれもあるため注意が必要です。納得できない場合でも安易に放置せず、証拠の確認や専門家への相談を行いながら、適切に対応することが重要です。
(記事は2026年8月1日時点の情報に基づいています)
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