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1. 交通事故の損害賠償とは? 慰謝料との違い
交通事故を起こすことは不法行為にあたるため、加害者は被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。
この損害賠償は、大きく分けると「人損(けがや死亡などの人身被害)」と「物損(車の修理費用などの物の被害)」の2種類があります。よく耳にする「慰謝料」は、精神的苦痛に対するお金のことで、人損のなかで認められる損害賠償項目の一つです。
なお、人損に対する損害賠償は、大きく次の3つで構成されています。
積極損害:治療費や交通費など、実際に支払ったお金
消極損害:休業損害や逸失利益など、事故がなければ得られていたはずのお金
慰謝料 :事故による精神的苦痛に対するお金
それぞれの詳細については後述します。
2. 交通事故の損害賠償を請求できる人や請求先
損害賠償は被害者が加害者に対して請求しますが、加害者が任意保険に加入している場合は、その保険会社が代わりに支払います。死亡事故の場合は被害者本人が請求できないため、相続人が請求権者になります。
被害者が未成年者の場合は、法定代理人である親権者が代わりに請求します。親権者が2人いる場合はどちらか一方だけでは請求できないため、離婚後に共同親権を選択した場合などは特に注意が必要です。
被害者が成年被後見人(「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」にあり、成年後見制度を利用して保護または支援を受けている人)の場合は、成年後見人が本人の代わりに請求します。しかし、被害者である成年被後見人が事故で亡くなった場合、成年後見人の業務はその時点で終了するため、被害者の相続人が請求権者になります。遺産分割などで別の定めをしない限りは、法定相続分どおりの請求になります。
3. 【重要】交通事故の賠償金額を左右する3つの基準
交通事故の損害賠償額を算定する際の基準には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」の3つがあり、それぞれ金額が異なります。
自賠責保険基準は、すべての自動車に加入が義務づけられている自賠責保険の支払い基準です。被害者の救済を目的としており、3つの基準のなかで最も低額となります。任意保険基準は、各保険会社が内部で定めている支払い基準です。一般には公開されていませんが、金額は自賠責保険基準と弁護士基準の中間程度とされています。
弁護士基準は、過去の裁判例に基づく支払い基準で、3つの基準の中で最も高額かつ公正です。加害者側の保険会社が提示してくる賠償額は、自賠責保険基準や任意保険基準が採用されていることが多いです。弁護士基準で交渉することで、賠償額を増額できる可能性があります。
4. 交通事故の損害賠償の主な項目と金額相場
交通事故の損害賠償の主な項目と、その相場について解説します。
4-1. 治療関係費などの積極損害
積極損害とは、事故に遭ったことで支払いが必要になった費用で、主に以下の項目があります。
【病院や整骨院などの治療費】
必要かつ相当な範囲での治療費の実費を損害として請求できます。
【器具代】
松葉づえや医師の指示で購入した枕などの器具代が認められることがあります。実費を損害として請求できます。
【文書料】
診断書作成費用などです。実費を請求できます。
【入通院時の付添費用】
医師の指示がある場合や、受傷の程度や被害者の年齢などから付き添いが必要な場合に認められます。職業としての介助者は実費、近親者の付添費用は日額6500円を請求できます。
【入院時の雑費】
入院時に必要となる洗面用具や寝具などの費用として、日額1500円を請求できます。
【将来介護費】
後遺障害1級など重度後遺障害の場合で、医師の指示や症状の程度で将来にわたって介護が必要とされれば認められます。職業としての介助者は実費、近親者の付添人は日額8000円が原則ですが、症状や介助の内容などにより増減します。生涯にわたって介護が必要であると認められる場合は、平均余命までの期間で介護費を請求できます。
4-2. 休業損害
交通事故の影響で仕事を休んだ場合に、減少した分の収入を休業損害として請求できます。自賠責保険基準と弁護士基準で計算方法が異なります。
自賠責保険基準の場合は「1日あたり6100円×休業日数」で計算します。1日あたりの減収が6100円を超えることを証明できる場合は、日額1万9000円を上限として実際の減収額が認められます。ただし、自賠責保険基準の場合、治療費や入通院慰謝料を含めた補償額の上限は120万円であるため、注意が必要です。
一方、弁護士基準の場合は「1日あたりの基礎収入×休業日数」で計算します。1日あたりの基礎収入は、会社員や自営業者など働き方によって算出方法が異なります。主婦(主夫)にも休業損害が認められます。また、自賠責保険基準と異なり、日額や補償額の上限はありません。
【会社員】
被害者が会社員の場合は、勤務先から休業損害証明書を取得して休業損害を請求します。有給休暇も補償の対象になります。
事故前3カ月間の給与の合計額を「暦日数あるいは90日」または「実就労日数」で割り、日額を算出します。
たとえば、事故前3カ月の給与の合計額が90万円、実就労日数を75日とすると、「暦日数あるいは90日」で割った場合は日額1万円、「実就労日数(75日)」で割った場合は1.2万円となります。基本的には、実就労日数で算出したほうが高くなります。
【自営業者】
自営業者の場合は、実際の減収がある場合に休業損害が認められます。ただし、自営業者といっても仕事の内容は千差万別で、休業損害の評価が最も難しいとされています。
労働者に近い働き方の場合には、事故前年度の確定申告書を用いて1日あたりの基礎収入額を計算し、休業日数を掛けて算出するのが一般的です。
そのほか、実際の減収が明らかな場合には、その金額を損害とする方法もよく用いられます。
たとえば、収穫までに数年もかかる作物の農業従事者などは、事故後仕事に復帰してもすぐには収穫量が回復せず、数年間は損害が継続することがあります。その場合、数年間待って実際の利益の減少などが明らかになってから正確な休業損害を評価します。
1日あたりの基礎収入額は「(確定申告の所得額+固定費+青色申告特別控除額)÷365」で計算します。固定費には地代家賃、従業員給与、租税公課、保険料、減価償却費などがあります。ただし、光熱水費や交際費などの変動経費を足すことはできません。
参照されるのは「売り上げ」ではなく「所得」であることに注意が必要です。無申告の場合でも、通帳などからわかる売り上げと経費の金額を証明することで、休業損害が認められるケースがあります。
「完全に休業したわけではないが、半分しか働けない日もあった」など、休業日数の証明が難しい場合は、入院期間中は100%、通院による治療開始から2カ月までは70%、その後の2カ月は50%、最後の2カ月は20%などの割合で休業損害を計算することが多いです。
【専業主婦(主夫)・兼業主婦(主夫)】
専業主婦(主夫)の場合も、事故が発生した年の女性の平均賃金をもとにした休業損害が認められます。兼業主婦(主夫)も、実収入が平均賃金を下回っている場合、認められることがあります。
平均賃金は被害者の年齢や家族構成によって参照する数字が異なりますが、一般的には賃金センサスによる女性の学歴計全年齢平均の平均賃金の数字を用います。2025年の平均賃金は437万700円とされており、365日で割った日額に休業日数をかけて損害額を算出します。
また、休業日数も、けがや治療の状況から自営業者と同じように入院期間を100%、通院開始から一定期間ごとに労働能力喪失率を順次減らしていく方法が一般的です。
4-3. 逸失利益
逸失利益とは、交通事故に遭わなければ将来にわたって得られるはずだった収入のことです。後遺症が残った場合や死亡した場合に請求できます。
後遺障害の場合と死亡の場合で計算方法が異なり、以下の計算式で算出します。
後遺障害逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
死亡逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
【基礎収入額】
逸失利益の計算における基礎収入額とは、いわゆる年収のことです。会社員は源泉徴収票の税引き前の金額、主婦(主夫)は女性の平均賃金です。自営業者は確定申告書の所得額に青色申告特別控除額や固定経費を加算します。
【労働能力喪失率】
労働能力喪失率とは、事故により労働能力がどれだけ低下したかを表す割合のことです。認定される後遺障害等級によって割合が決まっており、1級で100%、14級で5%となっています。ただし、個別の事情を考慮して労働能力喪失率が修正される可能性もあります。
【生活費控除率】
生活費控除率は、被害者が生存していれば自身や家族の生活費などに使用していたと考えられる金額を算出するための係数です。既婚か未婚か、扶養している人がいるかなど被害者の立場によって、30%から50%とされることが多いです。
【就労可能年数に対応するライプニッツ係数】
将来発生する逸失利益分を現在受け取る場合、本来受け取ることができる時期までの利息分(中間利息)を適切に調整するための係数です。症状固定時(これ以上治療しても改善が見込めない状態)から67歳までの年数に従って設定されています。高齢者の場合は、男性と女性のそれぞれの平均余命までの2分の1の期間と、67歳までの期間と比較してどちらか長いほうを採用します。
例として、年収500万円の会社員(46歳)が、後遺障害10級になった場合で考えてみます。後遺障害10級の労働能力喪失率は27%、就労可能年数21年(46歳から67歳まで)のライプニッツ係数は15.4150です。したがって、後遺障害逸失利益の金額は以下のようになります。
500万円×労働能力喪失率27%×15.4150=2081万250円
4-4. 入通院慰謝料
入通院慰謝料は、けがをしたことにより被った身体的、精神的苦痛に対する賠償です。以下のケースの賠償金額を、自賠責保険基準と弁護士基準でそれぞれ計算します。
(例)他覚所見なしのむち打ち、入院なし、通院期間180日(約6カ月)、実通院日数70日の場合
【自賠責保険基準】
自賠責保険基準の入通院慰謝料額は「通院期間の総日数」と「実際に通院した日数×2」のいずれか短いほうの日数に、日額4300円を掛けて算出します。上記の例では「通院期間の総日数」が180日、「実際に通院した日数×2」が140日(=70日×2)なので、短いほうの140日を採用します。
したがって、入通院慰謝料額は「140日×4300円=60万2000円」となります。
【弁護士基準】
弁護士基準で入通院慰謝料を算定する場合は、主に入通院の期間の長さに応じて以下の早見表を用いて算出します。重傷用と軽傷用があり、骨折を伴わない頸椎捻挫(けいついねんざ)、いわゆるむち打ちは「軽傷」扱いとなります。
以下は、軽傷用の早見表です。
以下は、骨折など重傷用の早見表です。
表の見方を説明します。上の表の入院期間と通院期間が交差するマスの数字が入通院慰謝料額の目安となります。例えば、むち打ちで入院ゼロ・通院期間180日(6カ月)の場合、軽傷用の早見表の「入院期間0カ月」と「通院期間6カ月」が交差するマスの数字は「89」となっています。したがって、この場合の入通院慰謝料額は89万円です。
なお、軽傷の場合は実際に病院に通った日数(実通院日数)が少ないと慰謝料が減額される可能性があるため注意が必要です。
自賠責保険基準と弁護士基準における入通院慰謝料額の相場を下表にまとめましたので、参考にしてください。
通院期間 | 自賠責保険基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|
1カ月(実通院日数10日) | 8万6000円 | 軽傷19万円/重傷28万円 |
2カ月(実通院日数20日) | 17万2000円 | 軽傷36万円/重傷52万円 |
3カ月(実通院日数30日) | 25万8000円 | 軽傷53万円/重傷73万円 |
4カ月(実通院日数40日) | 34万4000円 | 軽傷67万円/重傷90万円 |
5カ月(実通院日数50日) | 43万円 | 軽傷79万円/重傷105万円 |
6カ月(実通院日数60日) | 51万6000円 | 軽傷89万円/重傷116万円 |
このように、自賠責保険基準と弁護士基準では、入通院慰謝料額に2倍以上の差が出ることがあります。
4-5. 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺症が残ったことで被った身体的または精神的苦痛に対する補償で、下表のとおり1級から14級までそれぞれに慰謝料額が定められています。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|
要介護1級 | 1650万円 | 2800万円 |
要介護2級 | 1203万円 | 2370万円 |
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
たとえば14級の場合、自賠責保険基準では32万円、弁護士基準では110万円となり、3倍以上の差があります。
4-6. 死亡慰謝料
死亡慰謝料は、死亡したことによる身体的または精神的苦痛への補償となります。
【自賠責保険基準】
自賠責保険基準による死亡慰謝料は400万円です。これに加え、遺族の人数に応じて加算があります。
死亡した本人の死亡慰謝料 | 400万円 |
|---|---|
遺族の死亡慰謝料 | 請求権者の数に応じて以下の金額 ・1人:550万円 ・2人:650万円 ・3人:750万円 ※被扶養者がいる場合、これに200万円を加算 |
【弁護士基準】
弁護士基準では被害者が一家の支柱の場合2800万円、配偶者などの場合2500万円、そのほかの場合は2000万円から2500万円とされています。
被害者の立場 | 死亡慰謝料 |
|---|---|
一家の支柱 (家計を主に支えていた人) | 2800万円 |
母親や配偶者 (家事や育児を一手に担っていた人など) | 2500万円 |
そのほか (独身の男女、子ども、高齢者など) | 2000万〜2500万円 |
また、これとは別に被害者の配偶者や子、父母は、近親者慰謝料が認められる可能性があります。慰謝料額算定の際は、被害者との続柄や扶養の有無、親しさなどの関係性が考慮され、金額は100万円から300万円程度が多いです。
たとえば、一家の支柱である夫が死亡し、妻と2人の子どもを扶養していた場合、自賠責保険基準では1350万円(=400万円+750万円+200万円)ですが、弁護士基準では2800万円となります。
4-7. 物損(物的損害)
壊れた車両などの物的損害には以下のような項目があります。請求できる具体的な費用とともに紹介します。
【修理費】
車両の修理見積書に記載された金額です。
【買い替え費用】
物理的または経済的全損のため、修理ではなく買い替えが必要な場合の買い替え費用が認められます。
【登録手続き費用】
車両の買い替えに伴う検査や登録費用、車庫証明費用、登録手続き代行費用などが認められます。
【評価損】
修理しても外観や機能に欠陥が生じたり、事故歴により商品価値が下がったりした場合の、事故前の時価との差額が評価損です。修理代に対する一定の割合(主に2割程度)を評価損とする方法のほか、事故前の時価との差額を査定することで認められることもあります。
【代車費用】
修理または買い替え期間中、レンタカー使用などの必要がある場合に認められます。一般的には1週間から2週間程度ですが、部品の取り寄せなどが必要な場合はそれ以上の相当期間が認められます。
【休車損】
タクシーや観光バスなど、一般的に「緑ナンバー」と呼ばれる事業用の車の場合に、修理期間や買い替え期間中の営業上の損失が認められます。
4-8. そのほかの賠償項目
そのほかに、以下の費用などが認められます。
・レッカー代:事故現場から修理工場までのレッカー費用
・廃車費用:廃車の手続き費用
・着衣損:バイクなどの場合にヘルメットや服の損害
・積荷の損害:車両に積載されていた物の損害
朝日新聞社運営「交通事故の羅針盤」
5. 【事例別】交通事故の損害賠償の総額はいくらになる?
交通事故の事例別に、弁護士基準での損害賠償の総額がいくらになるかシミュレーションします。なお、以下の総額は主な損害項目の合計額で、物損などは含まれていません。
5-1. 【事例1】35歳会社員、年収700万円、骨折で入院3カ月+通院10カ月、後遺障害8級
年収700万円(1日あたり基礎収入額2万円)の35歳会社員が、事故による骨折で3カ月入院したのち、10カ月通院(実通院日数100日)して、後遺障害8級が認定された事例です。休業日数が合計100日の場合、主な損害賠償項目と金額は以下のとおりです。
・休業損害:200万円
・入通院慰謝料:230万円
・後遺障害慰謝料:830万円
・後遺障害逸失利益:
年収700万円×労働能力喪失率45%×20.3888(67歳までの就労可能年数32年のライプニッツ係数)=6422万4720円
・合計:7682万4720円
5-2. 【事例2】45歳自営業者、基礎収入600万円、死亡(遺族は妻+子2人)
基礎収入600万円の45歳自営業者が事故で死亡した事例です。被害者に妻と2人の子どもがいる場合、主な損害賠償項目と金額は以下のとおりです。
・死亡逸失利益:600万円×(1-生活費控除率0.3)×15.9369=6693万4980円
・死亡慰謝料:2800万円(一家の支柱)
・近親者慰謝料:600万円(=妻400万円、子ども各100万円)
・合計:1億93万4980円
5-3. 【事例3】40代専業主婦、頸椎捻挫で通院6カ月、後遺障害14級
40代の専業主婦が事故で頸椎捻挫になり、6カ月通院したのち後遺障害14級が認定された事例です。60日間休業した場合、主な損害賠償項目と金額は以下のとおりです。
なお、休業損害や逸失利益の計算における基礎収入は、賃金センサスによる2025年の平均賃金を使用しています。
・休業損害:437万700円÷365日×60日=約71万8471円
・入通院慰謝料:89万円
・後遺障害逸失利益:437万700円×労働能力喪失率5%×4.5797(14級は5年のライプニッツ係数)=約100万824円
・後遺障害慰謝料:110万円
・合計:370万9295円
6. 交通事故の損害賠償を受けるまでの流れ
交通事故に遭ってから損害賠償を受けるまでの流れや、注意点について解説します。
6-1. 医療機関の受診|医師の指示に従って治療を受ける
事故発生の当日か翌日には医療機関を受診し、医師に症状をきちんと伝えましょう。受診が遅れたり、診断書に記載された症状に漏れがあったりすると、あとで事故とけがの因果関係を否定されることがあります。
事故後は医師の指示に従って必要な検査や治療を受けることが大切です。多忙などを理由に自分だけの判断で治療をやめてはいけません。当初の病院の診療時間が合わない場合は早期に保険会社と相談し、転院を検討してください。
6-2. 治癒または症状固定の診断
後遺障害が残らなければ、治癒の診断を受けて治療を終了します。後遺障害があれば症状固定の診断を受け、医師に後遺障害診断書の作成を依頼します。後遺障害診断書の書式は、保険会社に依頼をすれば送付してもらえます。
治療中に、相手の保険会社から治療費の支払いの打ち切りを主張されることがあります。しかし、医療上の症状固定日の診断をするのはあくまで医師であり、保険会社ではありません。医師が治療の継続を求めている場合は弁護士に相談し、治療の延長交渉や健康保険への切り替えを検討しましょう。
6-3. 後遺障害等級認定の申請
後遺障害が残っている場合は、自賠責保険に後遺障害等級の認定を申請します。申請方法には、加害者の保険会社に申請手続きを任せる「事前認定」と、被害者が主体となって手続きをする「被害者請求」の2種類があります。
被害者請求では申請に必要な書類を自分で追加することができるため、保険会社に任せる事前認定よりも、一般的に有利とされています。
6-4. 示談交渉
けがの治癒後、または後遺障害等級の認定後に、加害者側の保険会社と示談交渉を行います。保険会社から賠償金の提示額が示されますが、大半は本来得られるはずの金額より低いことが多いため、弁護士のサポートを受けながら弁護士基準での増額を求める必要があります。
6-5. ADRや訴訟
加害者側の保険会社と示談交渉がまとまらないときは、ADR(裁判外紛争解決手続)や訴訟を通じた解決をめざします。
ADRは裁判外で中立の第三者が和解などをあっせんする制度で、交通事故紛争処理センターなどが運営しています。数カ月の短期間で解決できるのがメリットですが、両者の間で過失割合や賠償額の主張の隔たりが大きい場合など、複雑困難な事案には向きません。
訴訟は、加害者あるいは被害者の住所、交通事故の発生した場所を管轄とする裁判所に訴状を提出して訴訟提起をします。保険会社と主張の隔たりが大きい場合でも、証拠に基づき裁判官が和解を勧めたり判決を出したりするため、被害者の主張に沿った解決をめざすことができる点がメリットです。
訴訟のデメリットとしては、尋問手続きや控訴や上告などもあり、解決まで半年から数年単位と、時間や労力を要する点が挙げられます。また、主張が認められなかった場合は、示談時の最終的な提示額より減額されるおそれがあります。
6-6. 損害賠償の受け取り
示談交渉、ADR、訴訟の結論が確定すると、賠償金が支払われます。
7. 交通事故の損害賠償は「いつ」「どうやって」受け取れる? 早く受け取る方法は?
損害賠償金は、示談やADR、訴訟などの結果が確定したあとに振り込まれるのが原則です。示談交渉の場合は示談後2週間以内程度、ADRや訴訟だと1カ月以内とされるのが一般的です。
自賠責保険の基準に従い一定額を受け取れる仮渡金制度や、加害者の任意保険会社が行う休業損害などの内払い、搭乗者保険などの自分の保険の補償は、示談成立前でも受け取ることができます。また、生活の困窮などで緊急性が高い場合は、裁判所での仮払い仮処分制度で、裁判に先行して裁判官に一定額の支払いを命じてもらえることもあります。
8. 交通事故について、適正額の損害賠償を受けるためのポイント
適正な額の損害賠償を受けるために重要な行動や、注意点について解説します。
医師の指示に従って治療や検査を受ける
被害者請求によって、適正な後遺障害等級の認定を受ける
事故状況に見合った適切な過失割合を主張する
保険会社の提示額をうのみにしない
消滅時効に注意する
弁護士に依頼する
8-1. 医師の指示に従って治療や検査を受ける
交通事故に遭った場合、適切な頻度で通院し、必要な治療と検査を受けることが大切です。MRIなどの画像検査を治療中に受けなかったために、後遺障害申請の段階の検査で異常が見つかったにもかかわらず、事故との因果関係を否定された事例もあります。
また、仕事が忙しかったり、病院の長期休業を挟んだりしたために、通院を途中で中断してしまい、治療費の支払いが打ち切りになるケースもあります。通院は必ず継続する必要があります。
どのくらいの頻度や期間で通院すべきか、どのような検査が必要かについては、弁護士に相談しましょう。
8-2. 被害者請求によって、適正な後遺障害等級の認定を受ける
後遺障害等級は、逸失利益や後遺障害慰謝料の額に大きく影響します。後遺症の内容に見合った等級の認定を受けることが大切です。そのためには後遺障害診断書の記載が特に重要で、内容によっては診療録や医師の意見書、そのほかの補強証拠なども必要になります。
等級認定の申請は、被害者に有利な資料や証拠を添付できる被害者請求で行うことをお勧めします。
8-3. 事故状況に見合った適切な過失割合を主張する
交通事故の多くは双方に過失が生じており、どちらにどれだけ事故の責任があるかを示す過失割合は、賠償金額に大きく影響します。
たとえば、損害が100万円の事故で、過失割合が「加害者10:被害者0」の場合、被害者は損害額の全額を加害者側に請求できます。しかし、過失割合が「加害者6:被害者4」の場合では、被害者の過失4割分を差し引いた60万円しか受け取ることができません。
特に死亡事故や後遺症がある場合には賠償額が高くなることが多く、過失割合が1割違うだけで受け取れる賠償額も大きく変わります。そのため、事案に見合った適切な過失割合を主張することが重要です。相手側の提示した過失割合が不適切である場合は、ドライブレコーダーの映像や実況見分調書などに基づいて修正を求める必要があります。
弁護士である筆者の経験でも、過失割合が1割から2割程度変わることはよくあります。当初は「10対0」だった過失割合が、裁判によって「0対10」と正反対になったケースもあります。適正な過失割合については、弁護士によく相談してください。
8-4. 保険会社の提示額をうのみにしない
保険会社が提示する損害項目には、漏れがあることがあります。また、損害項目は正しくても自賠責保険基準や任意保険基準が用いられていたり、過失割合が不適切であったりすると、提示額が本来請求できる額より低くなります。
保険会社から「これが弊社の上限額です」と伝えられても、増額できるケースもあります。示談書に一度サインをすると、あとから内容を覆すのは困難なので、提示された内容をうのみにせず、サイン前にきちんと精査して増額を求めるべきです。
8-5. 消滅時効に注意する
一定期間権利を行使しないと、その権利が消えてしまうことを消滅時効と言います。交通事故の損害賠償請求権には時効があり、時効期間は損害の内容などによって異なります。
車の修理代など物損事故の損害賠償請求権は事故発生日の翌日から3年、けがや死亡など人的損害のある人身事故の消滅時効は、被害者が損害および加害者を知った日の翌日から5年です。
人身事故の場合、消滅時効の起算点(時効期間を数え始めるタイミング)はさらに分かれており、けがのみの場合は治療終了日、後遺障害がある場合は症状固定日とされています。しかし、保険会社があとになって「治療終了日や症状固定日はもっと前だったはずだ」と反論することで、消滅時効を主張してくることがあります。
保険会社が消滅時効の完成を主張する「援用」を行うと、保険会社の主張に沿って和解に応じざるを得なくなる可能性があります。このような事態を防ぐためには、治療が長引くときは、消滅時効の完成を主張する「援用」をしないよう加害者側から書面で確認を得るなどの対策が必要です。
損害賠償は消滅時効に注意し、すみやかに請求の準備を進めましょう。
8-6. 弁護士に依頼する
交通事故の損害賠償を弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
損害賠償請求を見据えて、通院頻度や検査についてアドバイスを受けられる
後遺障害診断書の内容を確認し、必要に応じて主治医に修正を依頼してもらえる
弁護士基準および適切な過失割合に基づく請求により、賠償金の増額が期待できる
保険会社との交渉、ADR、訴訟などの手続きを任せることができ、労力やストレスが軽減される
自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合は、弁護士への依頼費用の自己負担をゼロ、または少額に抑えられる可能性があります。特約の利用については、保険会社に確認してください。
9. 交通事故の損害賠償を、弁護士に依頼して増額できた事例
弁護士に依頼することで損害賠償を増額できた、具体的な事例を紹介します。
9-1. 近親者慰謝料が認められた事例
被害者が死亡し、加害者側の保険会社から相続人に対して賠償額の提案があった事案です。筆者が受任したことで、被害者が一家の支柱として認められ、死亡慰謝料が800万円増加しました。また、最初の提案では近親者慰謝料が計上されていなかったため、筆者が主張したところ、配偶者に300万円、子に100万円の慰謝料が認められました。
9-2. 後遺障害等級が「非該当」から12級になった事案
事故により足首の関節の可動域が制限される後遺障害が残った20代前半男性の事例です。事前認定では後遺障害等級は「非該当」とされていました。筆者が受任し確認したところ、後遺障害診断書の可動域のテストの表記に誤りがあることが分かりました。主治医と面談して、あらためて可動域のテストを行い、足の可動域制限で12級7号が認定されました。
また、転職後で収入が平均賃金を大幅に下回っていたため、全男性の平均賃金をもとに後遺障害の逸失利益も請求し、当初百数十万円程度だった賠償額が1500万円程度増加しました。
9-3. 兼業主婦で主婦休損が認められた事例
配偶者と子がいる共働きの主婦が事故に遭った事例です。保険会社からは「仕事を休業していない」とされ、休業損害が認められていませんでした。筆者が受任して保険会社と交渉し、主婦休損として80万円が新たに認められました。
なお、保険会社に主婦休損を計上しなかった理由を尋ねたところ「被害者から主婦休損の申告がなかったため」との説明でした。
10. 交通事故の加害者が任意保険に入っていない場合の対処法は?
交通事故の加害者が任意保険に入っていなかった場合は、必要書類を自賠責保険に提出し、補償を受けます。
ひき逃げなどで加害者が特定できない場合や、車検切れなどで相手が自賠責保険にも加入していない場合には、政府保障事業による補償を受けます。加害者が判明している場合は、不足分を加害者本人に対して請求します。
被害者自身が加入している保険に人身傷害特約などがある場合は、そちらから補償を受けられることがあります。特に人身傷害保険は使用しても等級に影響がなく、翌年の保険料が上がるなどのデメリットもないため、加入をお勧めします。
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11. 交通事故の損害賠償に関してよくある質問
Q. 損害賠償の示談書にサインしてしまった場合、やり直せる?
基本的に示談交渉のやり直しはできません。ただし、サインをした示談書が保険会社に到達後すぐに電話をすれば、撤回できる可能性はあります。
Q. 裁判を起こせば、必ず損害賠償を増額できる?
裁判を起こしたからと言って、必ずしも増額できるとは限りません。裁判になると治療費などの相当因果関係を強く争われ、裁判官の判断で逆に減額になるケースもあります。
12. まとめ 自己判断で示談する前に弁護士に相談し、適切な損害賠償を
交通事故の損害賠償は項目が多岐にわたり、算定基準も複数あるため、十分な知識がないと適正な賠償金を受け取れないことがあります。保険会社からの提案は、本来受け取れるはずの金額より低いこともあるため、うのみにしないことが大切です。
事案ごとに事情が異なり、一つひとつ専門的な検討と分析が必要になるため、自己判断で示談をする前に、弁護士に相談することをお勧めします。
(記事は2026年10月1日時点の情報に基づいています)
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