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1. 交通事故の骨盤骨折で最初に知るべき3つのこと
交通事故で骨盤骨折を負ったとき、被害者がまず頭に入れておくべき重要なポイントが3つあります。
1-1. 後遺症の残る可能性が高い重傷である
まず、骨盤骨折は重傷であり、後遺症が残る可能性が非常に高いことを知っておきましょう。骨盤は、強い衝撃を受けると変形したり、股関節の機能障害や神経のまひなどが生じたりしやすい部位です。体を支える土台である骨盤に後遺症が残った場合、事故後の仕事や日常生活に大きな影響を及ぼします。
1-2. 弁護士基準で賠償金請求をする必要がある
次に重要なのが、慰謝料や賠償金は「弁護士基準(裁判所基準)」と呼ばれる基準に基づいて請求しなければ、被害者が大きく損をする可能性がある点です。
保険会社は営利企業であり、保険料の支払いを低く抑えようとする傾向があります。そのため、加害者側の保険会社が提示する賠償額は、「任意保険基準」という低い基準で計算されているのが一般的です。
これに対し、弁護士基準は過去の判例をもとにした基準であり、最も高い賠償額を算出できます。弁護士基準を用いて賠償金を請求し直すと、数百万円から数千万円も金額が変わるケースは珍しくありません。
1-3. 事故直後からの弁護士への相談が正当な賠償金獲得に影響する
さらに、事故直後あるいは治療中の段階から弁護士に相談することが、適正な賠償金を受け取れるかどうかを左右します。
骨盤骨折によって後遺症が残った場合、後遺障害等級の認定を受けられれば、後遺障害慰謝料を加害者に請求できます。後遺症が「損害保険料率算出機構」という中立的な第三者機関によって後遺障害と認定されるためには、治療中にどのような検査を受け、医師に症状を正確に証明してもらえるかどうかが重要です。
交通事故に強い弁護士に相談すれば、後遺障害等級の申請に必要な検査のほか、医師にどのように症状を伝えるべきかなどについてアドバイスを受けられます。
2. 交通事故発生から賠償金受け取りまでの流れ
交通事故で骨盤骨折を負ってから、最終的に正当な賠償金を受け取るまでには、次のようなステップを踏みます。全体像を把握しておくことで今後の見通しが立ち、落ち着いて対応できるようになります。
2-1. 【STEP1】事故発生後、すぐに治療開始
事故が発生したら、ただちに警察へ届け出て、救急搬送や医療機関での精密検査を受けます。通勤中や業務中の事故であれば労災保険の適用も検討しましょう。
けがを負った直後から適切な治療を受け、リハビリを行うとともに、初期段階から痛みやしびれなどの症状を医師に漏れなく伝えることが大切です。また、事故後の早い時期に弁護士へ相談しておけば、今後の手続きや保険会社対応について的確な助言を得られます。
2-2. 【STEP2】症状固定
治療とリハビリを一定期間続けても、これ以上の医学的な改善が見込めなくなった段階を「症状固定」と呼びます。骨盤骨折のような大きなけがでは半年から1年以上かかるケースも珍しくありません。
なお、症状固定を判断するのは保険会社ではなく主治医です。症状固定の時期をもってけがの治療費支払いが終了し、後遺障害等級申請の手続きへ移行します。
2-3. 【STEP3】後遺障害等級認定
症状固定後も残った症状について、自賠責保険に「後遺障害等級」の認定を求めます。医師に「後遺障害診断書」を作成してもらい、必要な画像や検査結果とともに提出します。
申請方法には手続きを加害者側の保険会社に代行してもらう「事前認定」と、被害者自身が必要な資料をそろえて提出する「被害者請求」があります。適正な等級認定を得るには、被害者にとって有利な資料をそろえやすい被害者請求が強く推奨されます。
2-4. 【STEP4】保険会社との示談交渉
認定された後遺障害等級をもとに、加害者側の任意保険会社から損害賠償額(示談金)が提示されます。
しかし、提示額は保険会社独自の低い基準で抑えられているケースが大半です。弁護士に依頼した場合、弁護士は被害者の代理人として、裁判所でも採用される弁護士基準による増額交渉を行います。
2-5. 【STEP5】示談成立(または裁判)と賠償金の受け取り
事故の当事者双方が賠償金額に合意すれば、合意内容を記載した「示談書」を交わし、被害者には賠償金が支払われます。
事故発生に関する当事者双方の落ち度の割合(過失割合)のほか、賠償金のうち事故がなければ得られていたはずの利益や収入(逸失利益)などについて意見が対立し、示談が成立しない場合は、ADR(裁判外紛争解決手続)に進みます。ADRとは「公益財団法人 交通事故紛争処理センター」や「公益財団法人 日弁連交通事故相談センター」などのADR機関の仲介を受けて裁判外でのトラブル解決をめざす手続きです。
ADRでも合意に至らない場合は、裁判所への訴訟提起により、適正な金額での解決をめざします。
3. 交通事故による骨盤骨折とは?
骨盤は体を動かし日常生活を営むうえで非常に重要な部分です。骨盤骨折がどのようなけがで、どのような影響を及ぼすのかを見ていきましょう。
3-1. 骨盤骨折とは|骨盤の構造と役割
骨盤は、上半身と下半身をつなぎ、体重を支えて全身のバランスを保つ骨格の要です。背骨の下部にある「仙骨(せんこつ)」「尾骨(びこつ)」と、その両側を囲む左右の「寛骨(かんこつ)」(腸骨と恥骨、坐骨が一体化したもの)から構成され、骨盤輪(こつばんりん)という頑丈な輪を形づくって内臓や膀胱、生殖器などを保護する役割も果たしています。
交通事故では、バイクや自転車の乗車中の転倒、あるいは歩行中に自動車と衝突した際に、腰や臀部(でんぶ/お尻)へ非常に強い衝撃を受けることで骨折が生じやすくなります。
また、自動車乗車中であっても、衝突の勢いで膝をダッシュボードに強く打ちつけ、その衝撃が股関節の後方から骨盤の奥へ伝わって骨折を引き起こす「ダッシュボード損傷」も多く見られます。
骨盤が骨折すると、本来担うべき「体を支える」「内臓を守る」といった役割を果たせなくなり、激しい痛みとともに歩行が困難になるなど、生活にきわめて大きな支障をきたします。
3-2. 骨盤骨折の種類と主な症状
骨盤骨折は、損傷の部位やメカニズムにより、大きく「骨盤輪骨折(こつばんりんこっせつ)」と「寛骨臼骨折(かんこつきゅうこっせつ)」の2つに分類されます。
骨盤輪骨折は、骨盤全体をリング状に構成している部分の骨折で、非常に強い外力が加わった際に生じます。骨盤の周囲には太い血管や重要な臓器が密集しています。そのため、骨盤骨折に伴って後腹膜出血(こうふくまくしゅっけつ)などの大量出血のほか、内臓損傷を引き起こす危険性が高く、命に関わるおそれもある重篤な状態です。
寛骨臼骨折は、大腿骨(だいたいこつ/太ももの骨)の丸い先端がはまり込む、骨盤側の「受け皿」部分の骨折です。股関節が壊れてしまうため、関節の動きが制限されたり、歩くたびに激しい痛みが生じたりして、歩行自体が困難になるケースが少なくありません。さらに、骨盤のすぐ近くを通る坐骨神経などが骨折やズレによって圧迫されたり、損傷を受けたりすると、「下垂足(かすいそく)」という症状が現れる可能性もあります。下垂足とは、腰から足にかけての強いしびれや痛みのほか、ひどい場合には足首や足の指を自力で持ち上げられなくなるなどのまひが生じることを言います。
3-3. 骨盤骨折の治療方法と治療期間、および仕事復帰の目安
骨のズレ(転位)が少なければ安静を中心とした保存療法、ズレが大きい場合や寛骨臼などの関節面が壊れた重度の場合はプレートやスクリューで固定する手術療法が選択されます。受傷後2週間から4週間はベッド上で安静にし、6週目ごろから松葉杖を使った荷重リハビリを開始するのが一般的です。
復職までにかかる期間の目安は、デスクワークなら2カ月から3カ月程度、建設現場のような肉体労働では6カ月以上です。場合によっては復職までに1年近くかかるケースもあります。
復帰を急ぐと、骨の癒合(もとどおりにくっつくこと)に悪影響を及ぼすため、復職の時期は医師と相談しながら慎重に見極める必要があります。
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4. 骨盤骨折の賠償金額を算定する3つの基準
交通事故の慰謝料や賠償金を計算する際には、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」という3つの異なる基準が使われます。どの基準を用いて計算するかによって、最終的に受け取れる金額に数倍もの差が生じるケースもあります。
【自賠責保険基準】
自賠責保険基準は、車を運転するすべての人に加入が義務づけられている強制保険における基準です。被害者の救済を目的としているため、補償の基準は最低限であり、3つの基準のなかで最も低い金額しか算出されません。
【任意保険基準】
任意保険基準は、加害者側の任意保険会社が示談提示のために独自に定めている社内基準です。営利企業である保険会社は支払いをできるだけ抑えようとするため、自賠責保険基準に若干上乗せした程度であり、被害者が被った本当の損害を埋めるのに十分とは言えません。
【弁護士基準(裁判所基準)】
弁護士基準は、過去の判例の積み重ねに基づいて設定された基準で、3つのなかで最も高額な賠償額を算出できます。被害者にとっては、弁護士基準における賠償額が法的にも正当と認められるものであり、本来受け取るべき金額です。
被害者本人が直接交渉する場合、保険会社は弁護士基準での金額を提示してきません。しかし、骨盤骨折のような重傷事故では、弁護士基準で請求しなければ数千万円単位で損をするリスクがあります。適正な賠償金を得るためには、弁護士を介して交渉を行い、弁護士基準で損害賠償を請求することが大切です。
5. 骨盤骨折の後遺障害等級と慰謝料額の相場
骨盤骨折の後遺症が自賠責保険による後遺障害等級に認定されると、その等級に応じて「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」を請求できるようになります。後遺障害慰謝料とは後遺症が残ったために生じた精神的苦痛に対する補償、逸失利益とは事故がなければ将来得られたはずの利益や収入を言います。
ここでは、骨盤骨折で認定され得る主な後遺障害等級と弁護士基準による慰謝料相場、認定を受けるための立証のポイントを詳しく解説します。
変形障害(12級5号)
機能障害および運動障害(8級7号、10級11号、12級7号)
神経障害(12級13号、14級9号)
下肢の短縮障害(8級5号、10級8号、13級8号)
正常分娩困難(9級17号、11級10号)
坐骨神経損傷(6級7号)
複数の後遺症が残った場合の併合等級
5-1. 変形障害(12級5号)
骨盤の骨(仙骨、尾骨、寛骨)が元の正しい形に戻らず、ズレたりゆがんだりしたまま癒合してしまうことを「変形障害」と言います。
後遺障害等級の12級5号は「骨盤骨に著しい変形癒合を残すもの」とされており、衣服を脱いだ状態で目視により明らかにわかるほどの著しい変形が残った場合に認定されます。
また、ほかの部位の骨折を治療するために自分自身の腸骨(骨盤の一部)を切り取って移植する自家骨移植を行った結果、腰の骨に目立つへこみや著しい変形が残った場合も、この等級の対象となります。
12級5号に該当すると認定された場合、弁護士基準による後遺障害慰謝料の相場は290万円です。
等級 | 症状の定義 | 弁護士基準の慰謝料相場 |
|---|---|---|
12級5号 | 骨盤骨に著しい変形を残すもの (裸体で目視できる程度、または自家骨採取による変形) | 290万円 |
立証のポイントは、変形を目視で確認できる写真に加え、レントゲン(X線)やCT画像、3D-CT画像を撮影し、骨の癒合不全(完全にくっついていない状態)や構造のゆがみを客観的に証明することです。単純なレントゲンだけでは変形の程度が写りきらない可能性があるため、立体的に把握できる3D-CTが有効です。
5-2. 機能障害および運動障害(8級7号、10級11号、12級7号)
寛骨臼骨折や股関節脱臼骨折により、股関節が硬くなって足を開いたり曲げたりする動きが制限されることを「機能障害」または「運動障害」と言います。けがをしていない健康な側(健側)と比べて、どれくらい動かなくなったか(可動域制限の程度)によって、認定される等級が変わります。
後遺障害等級8級7号は「1下肢の三大関節中1関節の用を廃した(機能しなくなった)もの」とされています。関節がほとんど動かなくなるなどの強直が見られる場合、あるいは人工関節を挿入置換したうえで可動域がけがをしていない「健側」の2分の1以下になった場合などに認定される可能性があります。弁護士基準での慰謝料相場は830万円です。
10級11号は「1下肢の三大関節中1関節の機能に著しい障害を残すもの」で、可動域が健側の2分の1以下に制限された場合、または人工関節や人工骨頭を挿入置換した場合などが該当します。弁護士基準での慰謝料相場は550万円です。
12級7号は「1下肢の三大関節中1関節の機能に障害を残すもの」とされており、可動域が健側の4分の3以下に制限された場合に認定される可能性があります。弁護士基準での慰謝料相場は290万円です。
等級 | 症状の定義(股関節の可動域制限) | 弁護士基準の慰謝料相場 |
|---|---|---|
8級7号 | 1下肢の三大関節中1関節が機能しなくなったもの (関節が強直した、人工関節を挿入置換により 可動域が健側の2分の1以下になった、など) | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の三大関節中1関節の機能に著しい障害を残すもの (可動域が健側の2分の1以下に制限された、または 人工関節や人工骨頭を挿入置換した、など) | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の三大関節中1関節の機能に障害を残すもの (可動域が健側の4分の3以下) | 290万円 |
立証のポイントは、「ROMテスト」と呼ばれる可動域測定が、日本整形外科学会の定める厳密な方法に従って正しく行われているかどうかです。また、可動域制限の原因が骨折後の関節面の不適合や骨癒合不良であると、画像上で裏づけられている必要があります。測定方法が誤っている場合、本来より軽い後遺障害等級に認定されるおそれがある点に注意が必要です。
5-3. 神経障害(12級13号、14級9号)
骨折が治ったあとも、腰や臀部、股関節まわりに痛みが続いたり、足にかけてしびれが残ったりするケースがあります。骨盤骨折の後遺症として非常に多いこのケースでは、画像で原因を証明できるかどうかによって等級が分かれます。
後遺障害等級12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」とされており、X線やCT、MRIなどの画像検査によって痛みの原因となる骨の変形や不全癒合、神経圧迫が存在することを医学的に証明できる場合に認められる可能性があります。このように、医学的かつ客観的に後遺症を証明することを「他覚的立証」と言います。
14級9号は「局部に神経症状を残すもの」とされ、画像でははっきりと原因を証明できないものの、事故の規模や治療経過、自覚症状の一貫性などから、症状の存在が医学的に説明可能である場合に認められる可能性があります。
等級 | 症状の定義(痛みやしびれの状態) | 弁護士基準の慰謝料相場 |
|---|---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの (レントゲンやCT、MRIなどの画像検査によって 痛みを客観的に証明できる) | 290万円 |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの (画像による客観的な証明はできないものの、 治療経過などから医学的に説明できる) | 110万円 |
5-4. 下肢の短縮障害(8級5号、10級8号、13級8号)
骨盤がゆがんだまま癒合したり、股関節が変形したりすることで、結果的に左右の脚の長さである「下肢長」に差が生じることがあります。健康な脚に比べて短いほうの脚が何センチ短くなったか(脚長差)によって、認定される等級が決まります。
後遺障害等級8級5号は「1下肢が5cm以上短縮したもの」とされており、5cm以上短縮した場合に認められる可能性があります。弁護士基準での慰謝料相場は830万円です。
10級8号は「1下肢が3cm以上短縮したもの」で、3cm以上短縮した場合に認められる可能性があります。弁護士基準での慰謝料相場は550万円です。
13級8号は「1下肢が1cm以上短縮したもの」で、1cm以上短縮した場合に認められる可能性があります。弁護士基準での慰謝料相場は180万円です。
等級 | 症状の定義(短縮の程度) | 弁護士基準の慰謝料相場 |
|---|---|---|
8級5号 | 1下肢が5cm以上短縮したもの | 830万円 |
10級8号 | 1下肢が3cm以上短縮したもの | 550万円 |
13級8号 | 1下肢が1cm以上短縮したもの | 180万円 |
立証のポイントは、スキャノグラム検査など、下肢全長のレントゲン撮影を行い、骨の長さを正確に計測して脚長差を客観的に示すことです。
5-5. 正常分娩困難(9級17号、11級10号)
女性の被害者が骨盤骨折を負い、骨盤の形が変わったために赤ちゃんが通る道である産道が狭くなるケースがあります。その結果、将来的に経膣分娩(自然分娩)が困難となり、帝王切開での出産を余儀なくされる「狭骨盤」「比較的狭骨盤」という状態になった場合、「正常分娩困難」であると認定されます。
後遺障害等級9級17号は「生殖器に著しい障害を残すもの」とされており、医師の診断や画像検査により自然分娩が困難となった場合に認められる可能性があります。弁護士基準における慰謝料相場は約690万円です。
11級10号は、骨盤の変形により正常分娩が困難となった場合に認められる可能性があります。弁護士基準での慰謝料相場は420万円です。これに加えて、12級13号に該当する骨盤の痛みなどが認定された場合は、複数の等級を1つにまとめて評価する「併合ルール」によって「併合10級」などに等級が繰り上がる可能性があります。併合10級に繰り上がった場合の慰謝料相場は550万円です。
等級 | 症状の定義 | 弁護士基準の慰謝料 |
|---|---|---|
9級17号 | 生殖器に著しい障害を残すもの | 690万円 |
11級10号 | 骨盤骨折に伴う骨盤の変形により産道が狭くなり、 正常分娩が困難となったもの | 420万円 |
認定にあたっては、整形外科の診断だけでなく、産婦人科を受診してマルチウス測定法などによるX線骨盤計測を受け、産道通過障害があることを専門医に証明してもらう必要があります。
5-6. 坐骨神経損傷(6級7号)
骨盤の周囲を通る太い神経である「坐骨神経」が骨折の際に重度に損傷すると、足首や足の指を自力で持ち上げられなくなる「下垂足」というまひ症状が生じることがあります。
後遺障害等級6級7号は「1下肢の三大関節中2関節の用を廃したもの」とされており、たとえば足関節と膝関節がいずれも動かなくなったような重篤な場合に認定されます。弁護士基準による後遺障害慰謝料の相場は1180万円です。
等級 | 症状の定義 | 弁護士基準の慰謝料相場 |
|---|---|---|
6級7号 | 1下肢の三大関節中、 2関節が機能しなくなったもの | 1180万円 |
立証には、針筋電図検査や神経伝達速度検査といった生理学的検査を実施し、神経伝達の遮断や神経の損傷を客観的な数値で記録に残すことがきわめて重要です。神経症状を客観的に裏づける資料が少ない場合、軽い等級にとどまりやすいため、専門的な検査が欠かせません。
5-7. 複数の後遺症が残った場合の併合等級
骨盤骨折のような大けがでは、「骨盤の著しい変形(12級5号)」と「股関節の可動域制限(10級11号)」、さらに「痛みの神経症状(14級9号)」というように、複数の後遺障害が同時に残るケースが珍しくありません。
このように、複数の後遺障害が存在する場合、自賠責保険の「併合ルール」に従って最終的な等級が繰り上がります。
基本的には、13級以上の障害が2つ以上あれば重いほうの等級が1つ繰り上がり、8級以上が2つ以上あれば2つ繰り上がり、5級以上が2つ以上あれば3つ繰り上がります。たとえば11級と12級が認められた場合は、重いほうの11級が1つ繰り上がって「併合10級」として扱われます。
等級が上がるほど、後遺障害慰謝料はもちろん、後述する逸失利益の額も大きく跳ね上がるため、併合の判断は賠償額を大きく左右します。
6. 骨盤骨折をした交通事故被害者が請求できる、慰謝料以外の賠償金
交通事故の賠償金は、けがによる精神的苦痛の補償である慰謝料だけではありません。骨盤骨折のような重傷では、仕事を休んだことによる収入の減少や将来の減収など、財産的な損害も大きくなります。ここでは、骨盤骨折で請求できる代表的な賠償金について解説します。
6-1. 入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故でけがを負ったために入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛への補償で、後遺障害慰謝料とは別に請求できます。
弁護士基準では、入院期間と通院期間の長さを「赤い本」と呼ばれる基準集に掲載されている「入通院慰謝料表」という算定表に当てはめて計算します。「赤い本」とは日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』という、弁護士基準における損害賠償額の算定基準などが示された書籍の通称です。
この算定表を用いると、たとえば「通院6カ月」なら116万円、「入院2カ月+通院6カ月」なら200万円が入通院慰謝料の目安となります。保険会社が独自の任意保険基準に基づいて提示する額は、一般的に通院6カ月で60万円から70万円程度です。それに比べ、弁護士基準で交渉した場合、保険会社が提示する入通院慰謝料額の1.5倍から2倍近くまで増額できるケースも珍しくありません。
6-2. 逸失利益
逸失利益とは、後遺障害が残ったことにより労働能力が低下し、本来であれば将来にわたって得られるはずだった収入の減少分への補償です。骨盤骨折は賠償金全体の大部分を占め、数千万円単位になるケースも珍しくない最重要項目です。
計算式は「基礎収入(事故前の年収等)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」です。
基礎収入は、原則として事故前の収入に基づいて決められます。労働能力喪失率とは、事故で負った後遺障害によって働く能力がどの程度低下したかを数値で表したものです。ライプニッツ係数とは、将来受け取るはずの金銭をまとめて受け取った場合に生じる利息分を調整し現在の価値に換算するために用いられる数値です。
たとえば、年収600万円の40代男性が併合10級(労働能力喪失率27%)と認定され、67歳まで22年間働けるケースでは、次の計算式によって逸失利益を求めます。
600万円×0.27×15.1682(労働期間22年の場合のライプニッツ係数)=約2457万円
6-3. 休業損害
治療のために仕事を休み、収入が減った期間の補償です。会社員の場合は事故前の給与を日割りした額に休業日数を掛けて計算し、有給休暇を使った日も対象になります。
また、専業主婦または主夫であっても、事故によるけがのために家事労働ができなかったとして、休業損害を請求できます。その場合、厚生労働省が実施する「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめた平均賃金に関する統計資料「賃金センサス」から導き出した女性の平均賃金を基準にして計算します。
6-4. そのほか
上述した賠償金のほかに、事故に関連して支出した費用も実費として請求できます。実費として加害者側に請求できる費用には、主に次のものがあります。
治療関係費:手術代や入院費、リハビリ費用、投薬料
通院交通費:通院にかかった公共交通機関の費用やタクシー代(歩行困難な場合はタクシー代も認められやすい)
付添看護費:けがにより介護や介助が必要となった場合に職業付添人や家族が付き添ったことで生じた費用
入院雑費:入院中に支出した費用(弁護士基準では1日あたり1500円)
さらに、骨盤骨折の場合は将来の人工股関節置換手術の費用のほか、杖や車椅子などの買替費用が挙げられます。
保険会社から提示書が届いたら、これらの項目が漏れなく適切な金額で記載されているかを確認する必要があります。
7. 骨盤骨折の後遺症について、適正な後遺障害等級の認定を受けるためのポイント
骨盤骨折の後遺障害認定は、提出された「書面」と「画像」のみで行われる書面審査です。後遺障害等級は自動的に認定されるものではなく、適切な資料をそろえたうえで正しい手続きを踏まなければ、本来もらえるはずの等級が「非該当」とされる可能性もあります。
骨盤骨折で適正な等級を獲得するためのポイントは次のとおりです。
認定基準に沿った適切な検査を受ける
医師に自覚症状を正確かつ継続的に伝える
後遺障害診断書の内容をよく確認する
被害者請求を行う
認定結果に納得できない場合は不服申立てを行う
7-1. 認定基準に沿った適切な検査を受ける
骨盤の変形や股関節の機能障害、神経症状を立証するには、医師の主観だけでなく客観的な検査結果(他覚的所見)が不可欠です。単純なX線写真だけでは骨盤の奥行きや複雑な骨折線、寛骨臼の微妙な関節面のズレが写りきらないことがあります。そのため、骨の立体的な形状やズレを正確に把握できるCT検査や3D-CT検査が非常に有効です。
また、靭帯(じんたい)や神経の損傷、圧迫の有無を確認するにはMRI検査が役立ちます。足のしびれや下垂足などのまひが疑われる場合は、神経が正常に機能しているかを調べる筋電図検査や神経伝達速度検査が強力な立証材料になります。
認定基準から逆算してどのような検査が必要かを早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
7-2. 医師に自覚症状を正確かつ継続的に伝える
後遺障害等級の審査機関は、医師が作成した診断書やカルテを判断材料として審査を行います。
医師に正確な症状を伝えなかったり、無理をしたりすると、カルテに「痛みなし」「順調に回復」と記載され、不利になります。診察の都度、痛みやしびれの具体的な部位と、それが日常生活や仕事にどう支障をきたしているかを、一貫して正確に伝えるようにしてください。
7-3. 後遺障害診断書の内容をよく確認する
症状固定時に主治医が作成する「後遺障害診断書」は、等級認定において最も重要な書類です。経験豊富な外科医であっても、後遺障害認定の法律的あるいは制度的なポイントまで熟知しているとは限りません。その結果、可動域の角度が正確に測られていなかったり、被害者が訴えている自覚症状が漏れていたりするケースがあります。
必要書類の提出前に、交通事故に詳しい弁護士に内容を確認してもらい、不足があれば弁護士から医師へ加筆や修正を依頼することが、適正な認定への近道です。弁護士である筆者の事務所でも、診断書の記載漏れを指摘して医師に修正してもらったことで、無事に等級が認められたケースが数多くあります。
7-4. 被害者請求を行う
後遺障害等級認定の申請方法には、加害者の任意保険会社に手続きを任せる「事前認定(加害者認定)」と、被害者自身が資料を集めて自賠責保険へ直接請求する「被害者請求」があります。
事前認定は手間がかからない反面、被害者に有利な医学的証拠を積極的に集めてもらえる保証はありません。症状を正確に証明する書類を被害者側で精査したうえで提出できる被害者請求のほうが圧倒的に有利です。ただし、手続きが煩雑なため、弁護士に代行を依頼するのがよいでしょう。
7-5. 認定結果に納得できない場合は不服申立てを行う
認定された後遺障害等級が想定より低い場合や、「非該当」となった場合でもあきらめる必要はありません。
新たな検査画像や医師の意見書を添えて自賠責保険に再審査を求める「異議申立て」のほか、第三者機関である自賠責・共済紛争処理機構への申立て、最終手段としての民事訴訟(裁判)という方法で、適正な等級や賠償金を求めて争うことができます。
8. 【要注意】骨盤骨折の賠償金で保険会社との争いになりやすい論点
骨盤骨折は賠償額が高額になりやすいため、保険会社も支払いを抑えようという主張をしてきます。特に対立しやすい論点として、次の4つが挙げられます。
賠償金額
将来の手術費用
過失割合
治療の早期打ち切り(症状固定)
8-1. 賠償金額
保険会社は、独自の任意保険基準で計算した「損害賠償額提示書」を被害者に送ってきます。
たとえば、弁護士基準なら1000万円を超えるような逸失利益の項目がまったく記載されていなかったり、数十万円と著しく低く見積もられていたりするケースがあります。「これが当社の規定の最大限です」などと言われても、決してうのみにしてはいけません。
示談書にいったんサインすると、原則として内容の変更や取り消しはできないため、提示額をそのまま受け入れないよう注意が必要です。
8-2. 将来の手術費用
寛骨臼骨折などでは、将来的に股関節の軟骨がすり減り、骨が変形することで痛みを生じる「変形性股関節症」が進行し、数年から十数年後に人工股関節を入れる手術が必要になるケースが少なくありません。
しかし、保険会社は「将来の手術は不確実だから、手術費用は払えない」と拒否する傾向にあります。
この場合、将来的に手術が必要になる可能性が高いことについての診断書を書いてもらい、費用の支払いを約束させるか、将来手術が必要になった時点で別途請求できる留保条項を示談書に盛り込むなどの交渉が必要です。
8-3. 過失割合
交通事故を引き起こした当事者双方の落ち度(過失)の割合を示すものを「過失割合」と言います。
加害者側は「被害者側にも不注意があった」と、事故状況に見合わない過失割合を主張してくることがあります。過失割合が10%変わるだけで数百万円の減額になり得ます。警察が作成した実況見分調書やドライブレコーダーの映像を分析し、過去の裁判例に照らして妥当な割合へ修正させることが重要です。
8-4. 治療の早期打ち切り(症状固定)
治療費の支払いを早く打ち切るため、受傷から数カ月で加害者側の保険会社が「そろそろ症状固定です」と一方的に通告してくることがあります。
しかし、治療を続ける必要があるかどうかを判断するのは医師です。
改善が見込めるのであれば、主治医と相談のうえ治療継続の必要性を主張しましょう。
9. 交通事故で骨盤骨折をした被害者が弁護士に依頼すべき理由
骨盤骨折という重大な事故では、できるだけ早く弁護士に依頼することで大きなメリットが得られます。
第一に、治療中から必要な検査や医師への症状の伝え方について助言を受けられます。また、保険会社から理不尽な治療費打ち切りの通告を受けた場合にも、弁護士が防波堤となります。
第二に、煩雑な書類集めや診断書チェックを伴う後遺障害等級認定の申請(被害者請求)を任せられます。これによって、適正な等級を得られる可能性が高まります。
第三に、弁護士は、賠償金の算定基準のうち最も高水準な弁護士基準で交渉するため、賠償金が数百万円から数千万円増額するケースが多々あります。
第四に、保険会社との細かいやりとりから解放され、治療とリハビリに専念できます。とりわけ骨盤骨折のような重傷事案では、後遺障害等級が1つ変わるだけで賠償額が数百万円から数千万円も変わるため、専門家である弁護士のサポートを受けるかどうかが交渉の結果を大きく左右します。
なお、被害者自身や家族の自動車保険に「弁護士特約(弁護士費用特約)」が付帯していれば、原則として自己負担ゼロ、または少ない費用負担で弁護士に対応を依頼できます。まずは自分が加入している保険の証券を確認してみてください。
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10. 骨盤骨折の賠償金を増額できた解決事例
骨盤骨折による強いストレスが特殊な神経症状を引き起こしたことを立証し、大幅な等級の繰り上げを勝ち取った裁判例を紹介します。
優先道路を直進中に交差点の左側から進入してきた車に衝突され、転倒して骨盤骨折などの重傷を負った60歳の主婦の事案です。
自賠責保険の事前認定では併合12級と認定されたものの、被害者は事故から約3年後に全身の激しい痛みを伴う「線維筋痛症」と診断されました。そのため、線維筋痛症が事故によるものであるとして併合4級の後遺障害を主張し、提訴しました。
裁判所は、次の3点を根拠として、事故と線維筋痛症の発症との因果関係を肯定しました。
「18カ所の圧痛点のうち11カ所以上で圧痛があること」とするアメリカリウマチ学会の診断基準を満たしていると、複数の医師によって確認された
事故前の被害者は、不定愁訴(ふていしゅうそ/原因が見つからない体の不調)による日常生活への支障のないおおむね健康な人物であった
線維筋痛症の発症には、事故で負った骨盤骨折などの重傷による肉体的かつ精神的ストレスが作用している可能性が高いと認められた
その結果、裁判所は自賠責保険の後遺障害等級12級という認定を覆し、7級4号(神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)に相当すると判断して、56%の労働能力喪失率を認めました。
このように、骨盤骨折という重傷による強いストレスが線維筋痛症などの特殊な神経症状を引き起こしたことを医学的かつ客観的に立証できれば、大幅な等級の繰り上げと労働能力喪失率の認定を獲得できる可能性があります。
11. 交通事故による骨盤骨折に関してよくある質問
Q. 骨盤骨折が原因で亡くなった場合、請求できる賠償金の項目は?
事故による骨盤骨折が原因で被害者が亡くなった場合、死亡による精神的苦痛への「死亡慰謝料」、生きていれば得られたはずの収入である「死亡逸失利益」や「葬儀費用」などを請求できます。これらを合計すると数千万円以上の多額に及ぶのが一般的です。
ただし、遺族だけで交渉するのは困難なため、弁護士に相談することをお勧めします。
Q. 保険会社に症状固定をせかされた場合、応じる必要はある?
加害者側の保険会社から症状固定をせかされたとしても、応じる必要はありません。症状固定、つまりこれ以上治療を続けても症状の改善が見込めないかどうかを判断するのは保険会社ではなく主治医です。まだ痛みがあり、リハビリで改善が見込めるのであれば、その旨を主治医に伝え、治療継続の必要性を確認したうえで判断したほうがよいでしょう。
Q. 骨盤骨折で仕事を長期間休んだ場合、休業損害はいつまで請求できる?
休業損害は、事故発生日から症状固定日までの、けがで働けず収入が減った期間について請求できます。症状固定以降の将来の減収は、休業損害ではなく後遺障害等級に基づく逸失利益として請求することになります。
Q. 骨盤骨折の治療に健康保険は使える?
原則として、骨盤骨折の治療に健康保険は使えます。病院で「第三者行為による傷病届」の手続きをすれば利用可能です。
ただし、通勤中を含む仕事中の事故で「労災」に該当する場合は、健康保険ではなく労災保険を使い、治療費の自己負担なく休業補償も受けられます。
11-1. まとめ 交通事故で骨盤骨折した場合は弁護士に相談を
交通事故による骨盤骨折は、今後の人生を左右する重大なけがです。骨盤骨折を負った場合、後遺症が残るケースが少なくありません。その場合、後遺障害等級認定の申請を行ったうえで、認定された等級に応じた後遺障害慰謝料を加害者側に請求することになります。
さらに、加害者側に請求できる損害賠償金は、後遺障害慰謝料のほかに入通院慰謝料や逸失利益、休業損害など、多岐にわたります。しかし、相手の保険会社は、適正額より低い金額で示談をまとめようとします。事故後の生活と家族を守るためには、被害者にとって最も有利な弁護士基準で交渉し、適正な賠償金を受け取ることが不可欠です。
交通事故で骨盤骨折した場合は一人で抱え込まず、まずは交通事故に強い弁護士に相談や依頼をし、安心できる未来を取り戻してください。
(記事は2026年10月1日時点の情報に基づいています)
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